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要注意の単語「恣意的」の本当の意味は?「意図的」との違いも解説【あらためて知りたい頻出ビジネス用語#48】

“恣意的”は、誤って意味を解釈をしている人が多い要注意単語の1つ。今回は“恣意的”という言葉の意味や使い方、言い換え表現について掘り下げていきます。

解説して頂いたのは『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「恣意的」の意味は?

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“恣意的”の読み方は“しいてき”。2つの意味があります。

(1)自分の好みや思い付きにまかせて勝手に行動するさま

自分の思い付きで勝手気ままにふるまうこと。否定的な評価として使われます。

【例文】

・今回の恣意的な人事によって、現場の雰囲気がかき乱された。

(2)論理的な必然性がないさま

数学や調査・統計などで、要素抽出の方法を指して使うことがあります。たとえば、特定の調査対象の中からアットランダムに選び出す際に“恣意(しい)的”という言葉を使うこともあります。

【例文】

・今回の調査では、2つの条件を満たした調査対象者の中から恣意的に選定しました。

「恣意的」の注意点は?「意図的」と意味が違う?

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近年、“恣意的”と“意図的”を同義と解釈する人が見受けられます。“意図的”ははっきりとした目的や思惑を持って行動するさま。対して“恣意的”は個人的な気分、思い付きで行動するさまを指します。

“意図的”は、“恣意的”と比べると計画や目的を伴っているイメージが強くなります。2つの単語は決して同義ではありませんので、ご注意ください。

以下のように“意図的”と混同した使い方が見受けられます。

【NG使用例】

目標達成のために、恣意的に目標を設定する。

計画的な意図があるため、“恣意的に”は間違い。“恣意的”を選ぶと、場当たり的なニュアンスが出てしまう。

また、前述したように“恣意的”は、誰かの勝手なふるまいをネガティブに評価する使い方と、数学的な使い方があるのですが、片方の使い方しか知らない方は少なくないようです。

その場合、「話し手・発信者」と「聞き手・読み手」とで齟齬が生じる可能性があるので、注意が必要です。

誤解を招きたくないときには、後で紹介する言い換え表現を使ったほうがいいかもしれません。

【注意したい例文】

・今回の社内アンケートは、回答者を恣意的に選出したのですか?

→この短い1文では、“恣意的に”(自分の主観で独断的に)選出したことを質問しているのか、回答者を“恣意的に”(定められた集計方法に基づいてアットランダムに)選出したことについて質問しているのか、どちらか判断することが難しい。

この場合、“恣意的”の意味を聞くか、前後の文脈から、真意を読み解く必要がある。

「恣意的」はビジネスシーンではどんなときに使うといい?

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ビジネスシーンにおいては、例えば以下のような場面で“恣意的”という言葉を用いて批判したり指摘することがあります。

・意思決定や情報収集の際に、論理的ではない方法で進めていることを指摘する場合

・特定の管理職の勝手な意向が影響した人事異動や人事考課を批判するとき

・重要なデータや文書、会計情報などを勝手に書き換えた疑いが生じたとき

このように、ビジネスシーンでは、“恣意的”という言葉がネガティブな意味で使われるのが一般的です。

「恣意的」の例文は?

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“恣意的”の例文を通じて、使い方をイメージしてみましょう。

・部長の恣意的な発言により、現場が振り回されている状況です。

・人事配置には、特定の幹部による恣意的な意向が反映されない制度が必要だ。

・ビジネス交渉では恣意的な判断は避けるべきである。

・当該記事は、恣意的に編集されたことが疑われる。

・今回の調査においては、特定の条件を満たす回答者の中から恣意的に抽出して質問致しました。

「恣意的」の言い換え表現はある?「任意」「無作為」との違いは?

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続いて“恣意的”の言い換え表現や、類似の意味を持つ表現をご紹介します。

(1)「場当たり的」

その場の思い付きで行動すること。“恣意的”の“思い付きで”のニュアンスをわかりやすく伝えたい場合には“場当たり的”という表現のほうが伝わりやすいかもしれません。

【例文】

・部長の場当たり的な指示で、部下が振り回されています。

・ビジネス現場では、場当たり的な対応は避けなければならない。

(2)「独断的」

自分だけの考えで厳密に吟味せずに勝手に物事を決めるさま。特定の人の意向を強く反映した決定などに対して“独断的”という言葉で批判するときなどに使います。

【例文】

・彼は独断的に仕事を進めていく傾向があるので、周囲のサポートが必要だ。

(3)「任意」

“任意”は、“その人の自由意志に任せること”、“(数学・統計などで)無作為に選ばせること”の意。ビジネスシーンではネガティブな意味を持って使われることの多い“恣意的”と比べると、幅広い場面で使われている言葉です。

【例文】

・オプションの加入は、任意です。

・(数学の問題など)円周上に任意に5個の点を取り、点を結んで描いた図形の内角の和を求めなさい。

(4)「無作為/アットランダム」

意図的に手を加えることなく、偶然にまかせること。統計や確率の分野で頻出する言葉です。 “アットランダム”“ランダム”という形でも使われます。“恣意的”と比べると、偶然性のニュアンスがより強調された言葉です。

【例文】

・青い球10個と黒い球2個が入った袋があります。無作為に1つ取り出したとき、それが黒い球である確率を求めなさい。

・サンプルをアットランダムに抽出してください。

 

今回は“恣意的”の意味や使い方を、国語講師の吉田裕子さんに解説して頂きました。

“恣意的”は2つの意味がある言葉です。ビジネスの場面では、ネガティブな意味合いで使われることの多い言葉なので、齟齬が生じないような配慮が必要です。


 

【取材協力・監修】

吉田裕子

国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。

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