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「ニッチ」の意味は?よくある間違い例は?【あらためて知りたい頻出ビジネス用語#41】

企業が激しい競争にさらされている今、“ニッチ”は特定の分野で勝機を得るためのキーワードです。今回はビジネスシーンを想定した “ニッチ”の意味や使い方、注意点について掘り下げていきます。

解説して頂いたのは『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「ニッチ」の意味は?

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まず最初に、国語辞典に掲載されている“ニッチ”の意味をご紹介します。

『デジタル大辞泉』(小学館)
4 《すきまの意》市場で、大企業が進出しない小規模な分野。
また一般に、普通には気づきにくいところ。「ニッチ産業」「ニッチな趣味」

小学館の『日本国語大辞典』には、以下のような意味があります。

『日本国語大辞典』(小学館)
空いている場所、領域。広く、すき間をいう。ニッチ産

ビジネスシーンではどんな意味で使われている?

ビジネスシーンにおいて、“ニッチ”は特定の企業しか参入していないような小規模な市場を指すのが一般的です。

以下のような連語もあります。

(1)ニッチ分野

既存の企業がターゲットとして見直しておらず、市場規模は小さいものの潜在的なニーズがある分野のこと。

(2)ニッチトップ

“ニッチ分野”で高い競争力を有している企業のこと。毎年、経済産業省は、国際競争力向上の観点からニッチ分野で高い実績をあげている“ニッチトップ企業”を選定しています。

(3)ニッチ戦略

大企業や特定の企業でシェアが占められている市場で競争することを避け、別の小さな市場で自分たちが主導権をとることを目指していく戦略。例えば、中小企業やベンチャー企業が大企業では参入しにくい分野に挑戦していくとき、“ニッチ戦略”という言葉を使うことがあります。

「ニッチ」の使い方の注意点は?よく見かける間違った使い方は?

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“ニッチ”の間違った使い方としてよくあるのが、“マイナー”(規模が小さい)“マニアック”(特定の分野に熱中する)などと混同しているケースです。

ビジネスシーンにおける“ニッチ市場”とは、潜在的なニーズがあるものの、そのニーズに気づかれていなかったり、競合他社が少ない市場のこと

“マイナー”や“マニアック”と完全に同義ではありません。

【NG使用例(1)】

ニッチなところを攻めるから、売れないのではないでしょうか。

→例文では“ニッチ”であることがネガティブに使われていますが、ニッチ分野にも潜在的な需要があります。ニッチ分野に集中することで高い収益をあげている企業もあり、“ニッチであること”は“売れないこと”の直接的な理由にはなりません。例文の場合、“ニッチすぎる”という表現であれば、理に適った文章となります。

【NG使用例(2)】

・一部のニッチな消費者にはウケるかもしれませんね。

→“マニアック”という意味で使っているのなら、間違い。“ニッチ”は“隙間”を指すのに対し、日本語の“マニアック”には対象物に熱中しているというニュアンスが含まれる。

「ニッチ」はどんなシーンで使う?

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ビジネスシーンにおいては、商品のアイディアやマーケティングの戦略を話し合うときに使います。

また、取引先に自社や自社商品について紹介するときに、大手企業やポピュラーな商品との対比で“ニッチ”という言葉を使う場面もしばしば見受けられます。

「ニッチ」の例文は?

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例文を通じて“ニッチ”の使い方をイメージしてみましょう。

・A社は独創的なアイディアによってグローバル市場でニッチトップ企業になった。

・弊社の看板商品の名前を知っている消費者はほとんどいないと思いますが、ニッチ分野ではきわめて高いシェアを誇っています。

・B社のニッチ戦略が功を奏しているようです。

ニッチ市場こそ、狙っていくべきだと考えています。

・インターネットを用いてニッチなサービスに乗り出す大企業も増えてきている。

「ニッチ」の類語・関連語は?

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続いて、“ニッチ”の関連して使われている言葉をご紹介します。 “ニッチ”との意味の違いにも着目してチェックしてみましょう。

(1)「隙間」(すきま)

ビジネスシーンでは “すきま市場”“すきま産業”という言葉があります。潜在的なニーズがある・ないに関わらず、既存の企業が進出していない小さな分野や市場のことを指します。

【例文】

・他社が目を付けていないすきま市場を狙うことで、シェア拡大を目指したい。

(2)「ブルーオーシャン」

ビジネスシーンでは、競争の激しい市場を意味する“レッドオーシャン”に対し、未開拓の市場を“ブルーオーシャン”と呼ぶことがあります。

【例文】

・この分野は競合他社が進出していないので、ブルーオーシャン状態だ。

(3)「間隙をつく」

“間隙(かんげき)”は“隙間”の類義語。大手企業や競合他社がまだ目をつけていないような、戦略やマーケティングを論ずるときに“間隙をつく”という言い方をすることがあります。

【例文】

間隙をついた戦略が功を奏し、売上高は好調です。

(4)「ユニーク」

“ユニーク”は“おもしろい”という意味で使っている人が多いのですが、本来の意味は“独創的”“個性的”です。

【例文】

ユニークな発想で、ニッチ分野のニーズの開拓に成功した。

(5)「差別化」

ニッチは競争相手の少ない小規模な市場を指すのに対し、“差別化”は競争相手との違いを作り出す戦略。

【例文】

・競合他社の商品との差別化を図ることで、売り上げが大幅にアップしました。

 

今回は吉田裕子さんに“ニッチ”の意味や使い方を解説していただきました。

企業が激しい競争にさらされている今、“ニッチ分野”に着目して成功を収めている企業も数多くあります。今後も引き続き重要なキーワードとなる“ニッチ”の使い方を覚えておきましょう。

 

取材・文/北川和子

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吉田裕子
吉田裕子

国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。

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