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「お名前を拝借」はNG!「拝借」の意味と使い方【あらためて知りたい頻出ビジネス用語#30】

日常会話ではあまり聞かれることのない“拝借”という言葉。ビジネスシーンでは折に触れて使われている言葉です。中には“拝借”を間違って使っている例もあるようです。

今回は、“拝借の”意味や使い方、NG表現などについてお届けします。お話をうかがったのは『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「拝借」の意味とは?

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“拝借”とは、“借りる”の謙譲語です。“拝”は”おがむ”という字ですから相手への敬意を含み、動詞の前につくと自分の動作をへりくだって言う語になります。

「拝+動詞」の言葉は他にも“拝見”“拝読”“拝啓”といったものがありますね。

「拝借」はどんなときに使うといい?

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“拝借”は、目上の相手や取引先の相手に対して使う言葉です。話し言葉でも使われることがありますが、文語調ですので、主に書き言葉で使われています。

ビジネスシーンにおいては、物の貸し借りだけでなく、相手に相談を持ち掛けるときに“お知恵を拝借”などという表現を使って提案を求めたりすることもあります。

【慣用句的に使われている「拝借」】

・(話を聞いて欲しいとき)お耳を拝借する

・(相談のとき)お知恵を拝借する

・(一本締めの前に)お手を拝借する

会合の締めに掛け声に合わせて手を叩く“一本締め”“三本締め”の際の“お手を拝借”という表現はよく聞かれますよね。

プライベートで「拝借」を使う場面は?

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“借りる”の謙譲表現には、“拝借”の他に”お借りする”いう言い方もあります。“お借りする”という言葉のほうが平易で伝わりやすいので、日常会話においては“お借りする”のほうがよく使われています。

プライベートにおいては、手締め以外で“拝借”を使う機会はあまりありませんが、かしこまった場面で敬語を使う相手に対して使うことがあるかもしれません。

「拝借」の例文は?

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それでは、“拝借”の例文を通じて使い方をイメージしてみましょう。

・本企画について、お知恵を拝借できますと幸いです。

拝借しました書類の返却についてご連絡いたします。

・(一本締めなどのとき)お手を拝借いたします。皆さまご起立ください。

・皆さん、作業をしたままでいいのでお耳を拝借できますか?

「拝借」の使い方の注意点は?目上の人にも使える?

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“お知恵を拝借”“お手を拝借”が慣用句的に使われていますが、以下のような言い方は違和感を与える可能性があるので、避けたほうがいいでしょう。

【「拝借」NG使用例】

・(名前を聞くときに)お名前を拝借してもよろしいでしょうか。

→“名前を拝借”とは言わない。この場合は「お名前をうかがってもよろしいでしょうか」など。

・(話す時間が欲しいとき)お時間を拝借してもよろしいでしょうか。

→時間は借りても返すことができないため、”時間を拝借”という表現に対して違和感を覚える人もいるかもしれません。この場合は「お時間を頂戴してもよろしいでしょうか」がベター。

また“拝借”は一語で謙譲表現として成立していますので、“ご拝借する””拝借申し上げる”という言い方は二重敬語となり、文法的には過剰で誤りです

「拝借」を言い換えると?

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続いて“拝借”の言い換え表現をご紹介します。

(1)「お借りする」

“お借りする”は、“借りる”の謙譲表現。“拝借”よりも平易な表現なので、書き言葉、話し言葉、いずれの場合でも高い頻度で使われています。ちょっとした物の貸し借りでも使うことができます。

【例文】

・お知恵をお借りしたく存じます。

・ボールペンをお借りしてもよろしいですか?

(2)「貸していただく」

“貸してもらう”の謙譲表現です。相手の物を借りるとき、相手の協力を仰ぐときに使われています。

【例文】

・おもしろい本を貸していただき、ありがとうございました。

・ぜひ〇〇様の力を貸して頂けないでしょうか

(3)「お預かりする」

窓口業務などにおいては、身分証明書を提示してほしいときに“お預かりする”という表現が使われていることがあります。

【例文】

・利用カードをお預かりしてもよろしいでしょうか。

 

以上、今回は国語講師の吉田裕子さんに“拝借”の使い方について解説して頂きました。

“お借りする”とセットでぜひ意味や使い方を覚えておきましょう。


 

【取材協力・監修】

吉田裕子

国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。

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