お話をうかがったのは『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「精進する」の意味とは?
null“精進”はもともと仏教用語。ひたすら仏道修行に励むことを意味していました。
現代の日本語では、仏道修行に専念するかのように、“何か特定のことに一生懸命打ち込む”という意味でも使われるようになりました。
「精進する」はどんなときに使うといい?目上に使える?例文は?
null“精進する”という表現は、おもに取引先、上司、顧客など、目上の相手に対して決意表明を示すときに使います。
「がんばります」
ビジネスシーンにおいては、以下のような場面で使われています。
【使用場面の例】
(1)着任の挨拶でのスピーチ
【例文】
・未熟者ではございますが、ご期待に応えるべく精進して参りますのでよろしくお願いします。
(2)お詫び
【例文】
・ご指摘をふまえて一層精進していく所存です。
(3)履歴書
【例文】
・一刻も早く皆さんのお役にたてるように精進して参ります。
(4)第三者(主に部下や後輩)を紹介するとき
【例文】
・彼らも一生懸命精進すると思いますので、ぜひご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。
私生活においては、結婚式での新郎新婦や父母のスピーチ、地域組織のスピーチの中で聞かれることがあります。
「精進する」の使い方の注意点は?目上の人にも使える?
null“精進する”は、ビジネスシーンでは、
【NG使用例】
・部長は今もまだ英会話に精進されていますか?
→目上の相手を主語に対して、“打ち込む”と同義で使うのはNG。
「精進する」を言い換えると?
null続いて、“精進する”の言い換え表現をチェックしていきましょう。
(1)「注力する」
“注力”は、文字通り力を注ぐこと。“精進”と同様に使うことができます。“力を注ぐ”という表現も使われています。
【例文】
・これからも本研究に注力して参ります。
(2)「励む」
“励む”は、ある目的に向かって努めること。“精進する”よりも広いシーンで使うことができます。話し言葉でもよく使われています。
【例文】
・本企画の成功のために励んで参ります。
・彼は、業務外でも情報収集に学びに励んでいました。
(3)「鋭意努力する」
“鋭意努力する”は、気持ちを集中させて努力すること。話し言葉ではほとんど使わず、主に書面で使われる言葉です。株主向けのあいさつ文や謝罪の中など、あらたまった場面で使われます。
【例文】
・今後はさらに鋭意努力して参ります。
(4)「研鑽する」
“研鑽”(けんさん)は、学問、専門的な技術を磨き上げること。技術職や研究職と親和性の高い言葉です。
【例文】
・先輩のご指導をもとに研鑽を積んで参ります。
(5)「尽力」
“尽力”は、あることのために力を尽くすこと。献身的に動いてくれた相手に対しての感謝の言葉の中でも用いることができます。
【例文】
・微力ながら尽力して参りたいと思います。
・先般は弊社のためにご尽力いただき、ありがとうございました。
今回は国語講師の吉田裕子さんに“精進する”の使い方を解説していただきました。
節目の挨拶の中でも使うことができる“精進する”という表現。覚えておくと折に触れて役立つのではないでしょうか。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。