アンパンマンの世界に入る幸せ
null声優としての出演が決まったときのことを尋ねると、「もうすっごく嬉しくて!」と声を弾ませる蒼井優さん。
「上戸彩ちゃんが去年、(映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』で)ゲスト声優として参加されていて。高校の同級生で、いまは子どもたちも一緒に遊ぶ仲なんですけど、『いいなあ……。でも私には縁がないのかな?』と思っていたんです。そしたら今回お声がけいただき、『私でもアンパンマンの世界に入れてもらえるんだ!』とびっくりしました。実際アフレコに参加すると、アンパンマンの世界に入れるってこんなに幸せなのかと改めて感じたんです」(以下「」内、蒼井優さん)

アンパンマンの原点に返るようなストーリー
null今回蒼井さんが演じる“チャポン”は、どんなキャラクターなのでしょう?
「無垢で明るく、自分がどこから来たのかわからなくても気にしない。生きている、ただそれだけでキラキラしているような子です。でも自分の出生のヒミツを知ることでアンパンマンから愛と勇気について学び、どんどん強くなっていく。そんなストーリーです」
それはまるでアンパンマンの原点。チャポンはアンパンマンたちと過ごすことで、誰かを笑顔にする喜びを覚え、「ヒーローになりたい!」と願うように。そうして出生のヒミツを知り、「なんのために生まれて、何をして生きるのか――。生まれた意味は自分で決める!」と強く一歩を踏み出すのです。
「いま、世界中のニュースが私たちの耳にもすぐ入ってくる時代で、様々な出来事が他人事ではなくなってしまっています。そんな現代に生きる大人たちに向けても、あるメッセージが投げかけられている気がしますね」
チャポンを演じるにあたり、「元気いっぱいな男の子になれたらいいな」と考えたそう。
「キャラクターのベースになる声というのは、監督からすぐにオッケーをいただいて。それでチャポンが変化していくとき、『チャポンなりの強さというものをもっと声にのせて大丈夫です』と言ってくださって。現場のみなさんはアンパンマンを大切にされている方ばかり。それで嬉しい気持ちのまま、アンパンマンが好きでよかった!と思いながら。チャポンがずっとワクワクどきどきしているのもあって、私もずっと、ワクワクどきどきするうち、アフレコはあっという間に終わってしまいました(笑)」
アンパンマンの世界に入るとはそういうこと。なるほど楽しそう!
「ず~っと長く続いている作品で、今回はチャポンとあといくつかしか新しいキャラクターは登場しません。観ている誰もが声優さんの声で耳に馴染んでいて、絵を見たらもうその声が頭のなかで再生されるくらい。国民的な作品で、国民的なキャラクターたちですよね。そこに新しい声を入れると、どうしても違和感が生まれてしまう。それをどうにか出来ないかな?と思っていました。素晴らしい声優さん方のなかに入れていただく幸福を味わいながら、一生懸命にやりました」

好きなキャラクターはジャムおじさん
null蒼井さんが好きなアンパンマンのキャラクターについて聞きました。
「ジャムおじさんです。みんなそうですけど、ジャムおじさんの優しさがアンパンマの原点ですよね。うちの子どもは短編映画『アンパンマンが生まれた日』が大好きで何回も観ているんです。そこで、材料が少ししかないけど、誰かが喜ぶから、と嵐の日にアンパンをつくることでアンパンマンが生まれます。ジャムおじさんの人に対する思いがぎゅっとつまったのがアンパンマンなんです。だから、大好き」
では、「新しいキャラとしてこの世界に入るなら、蒼井さんは何パンがいいですか?」と尋ねると、しばらく真剣に考えた挙句、「好きなパンは……ホットサンド。ホットサンドちゃんになりたい」と蒼井さん。スタッフから、「そのキャラクター、もういますよ」と言われ、「いるんですか!? 見てみたい~」と笑顔の蒼井さん。アンパンマンのことを考えると、大人もすっかり子どもみたいになるから不思議です。
最後に、これからこの映画を観る人へのメッセージを聞きました。
「やなせたかし先生が作詞されたアンパンマンマーチにある、『なんのために生まれて、なにをして生きるのか、わからないままおわる。そんなのはいやだ!』という歌詞を一本の映画に膨らませた作品になっています。お子さんはもちろん、大人になってから観るとまた違う景色が見える作品です。いろいろな世代の方に楽しんでいただけたら嬉しいですね」
取材・文:浅見祥子 写真:黒石あみ(小学館)

蒼井優さん。
【PROFILE】
蒼井優
1985年生まれ。福岡県出身。99年にミュージカル『アニー』で舞台デビュー。その後、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』で映画デビューを果たす。初主演作『花とアリス』、李相日監督の『フラガール』ほか、『オーバー・フェンス』、『家族はつらいよ2』、『スパイの妻〈劇場版〉』、『るろうに剣心』シリーズ、『斬、』、『ある船頭の話』、『宮本から君へ』、『ロマンスドール』などの映画、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』、Netflix『阿修羅のごとく』などのテレビドラマがある。

映画『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』
映画『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』
配給:東京テアトル 2025年6月27日全国公開
監督:橋本敏一 脚本:葛原秀治 声の出演:アンパンマン/戸田恵子 ばいきんまん/中尾隆聖 チャポン/蒼井優 他 原作:やなせたかし(フレーベル館刊)
【あらすじ】いつものようにパトロールをしていたアンパンマンは、空から落ちてきた不思議な男の子・チャポンと出会います。自分がどこから来たのかわからないチャポンは、アンパンマンたちと一緒に過ごすなかで、誰かを助け笑顔にする喜びを知り、「ヒーローになりたい!」と願い、アンパンマンを兄のように慕うように。しかし……出生の秘密を知るばいきんまんが現れて……!?
©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV ©やなせたかし/アンパンマン製作委員会2025

映画ライター。映画配給会社勤務を経て、フリーランスに。二児の母。
『ビーパル』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)などの雑誌、「シネマトゥデイ」などのWEB媒体で映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。
『バカ卒業 ~映画「釣りバカ日誌」のハマちゃん役を語ろう~』(小学館)、『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(ワニブックス)を担当。