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子どもは子どもでいることが必要…映画「gifted/ギフテッド」監督が語る英才教育とは

こんにちは。映画ライターの此花さくやです。【月イチ映画のススメ】、今回は11月23日に公開される『gifted/ギフテッド』です。

『(500)日のサマー』(2010年)や『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012年&2014年)など、インディペンデント作品からスペクタル大作まで、ストーリーテラーとして卓越した手腕を発揮しているマーク・ウェブ監督。「人間の細やかな感情を描きたかった」という本作は、日本にはない“ギフテッド教育”がバックグラウンドに語られています。ギフテッド教育とは? そして、来日したマーク・ウェブ監督にギフテッド教育や親の在り方についてお話を伺いました!

アメリカの特別プログラム…ギフテッド教育

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ギフテッド教育とは、突出した才能をもつ子どもを特別に教育するプログラムを指し、アメリカでは多くの州が運営しています。このプログラムに属する子どもたちは学年に関係なく才能がのばせるので、15歳で大学に進学するほど飛び級する子もいるそう。

このような英才教育は日本の公立学校にはありませんが、私立学校や塾といった形の英才教育は日本全国で盛んですよね。まずは、映画のあらすじをご紹介します。

映画『gifted/ギフテッド』あらすじ

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(C)2017 Twentieth Century Fox
何百人もの少女のなかから選ばれたメアリー役のマッケナ・グレイスと映画『キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ』シリーズでおなじみの人気俳優クリス・エヴァンス。オーディションでも二人の相性は抜群だったという。

物語の舞台はフロリダの島。数学に天才的な才能(ギフテッド)をもつ7歳のメアリー(マッケナ・グレイス)はボートの修理業を営む叔父のフランク(クリス・エヴァンス)と片目の猫フレッドと2人+1匹暮らし。小学校に上がったメアリーは、担任教諭にすぐさま“ギフテッド”を見抜かれ、ギフテッド教育が受けられる学校への転校を勧められます。

「子どもは普通に育てたい」と信じるフランクは英才教育を断固拒否しますが、縁を切ったはずのフランクの母親が現れて、メアリーの親権を奪い英才教育を受けさせようとします……。子どもの才能をのばすことが親の務めなのか、それとも子どもらしく育てることのほうが大切なのか? 加えてフランクには誰も知らない“ある秘密”が……。

「“非伝統的家族”を描きたかった」

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―本作は、誰もが心をうたれる感動のファミリードラマですが、“国民健康保険”や“ダイバーシティ(多様性)”といったトピックスがさりげなく盛り込まれていたと思います。

マーク・ウェブ監督:ダイバーシティについては意識的に描きました。日本でも同じだと思うけど、非伝統的家族はアメリカ社会でも増えています。父・母・子どもからなる“伝統的家族”以外の家族の形もサポートしたい。自分が生まれついた本当の家族でも、ときに崩壊しますよね? でも、「少しの運と大きな努力で自分自身の家族をつくることができる」と伝えたかった。

アメリカは多様な文化から成り立っています。人種、宗教、信念が違っていても、誰でも“家族”には価値があると信じているでしょう? フランクとメアリーは未婚男性と姪、そして、家族のような近所の住人、ロバータとメアリーはアフリカ系アメリカ人と白人、こういったダイバーシティに富んだ“非伝統的家族”をいまの時代だからこそ、描きたかったんです。

問題を抱える子どもも多い「ギフテッド教育」

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―ギフテッド教育は、アメリカでも賛否両論があると聞きました。

マーク・ウェブ監督:子どもはみんな“ギフテッド”だと僕は信じています。子どもたちは全員個性的で、興味の対象も違います。とはいえ、実はギフテッドの子どもたちは鬱病になったり、薬物乱用したりする傾向が高いと考えられています。それは、他人とつながれない孤独からくる“退屈”が一因。

かつてギフテッド教育を受けた女性に会ったのですが、ギフテッドと判明する前は自閉症と診断されていたそうです。彼女にとって普通の学校は退屈で仕方がなかったので、教室の隅に座ってノートにぐるぐるとなにかを描き続けていました。こんなふうに、ギフテッドの子どもたちが直面するリスクは、周りに理解されず、せっかくの才能を無駄にしてしまうことなんです。

ほかのリスクは、コミュニティから孤立して社会的スキルをのばせないこと。ギフテッドの子どもの才能をのばそうとするがあまり、同世代の子どもたちから引き離してしまうと、“自分で自分を助ける力”を育てられません。

子どもにプレッシャーを与えすぎると壊れてしまう。反面、子どもを放任しすぎるとこれもまたよくない……(笑)。その子にあったバランスを見つける、それが真実かもしれないですね。

「子どもは、子どもでいることが必要」

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(C)2017 Twentieth Century Fox
マッケナの感情表現の豊かさは名人芸のレベルだとウェブ監督も絶賛

―「子どもは、子どもでいることが必要だ」というフランクのセリフにハッとしました。ギフテッドであろうがなかろうが、子育ての核心をついた言葉ではないでしょうか?

マーク・ウェブ監督:まさにそのとおり。ある意味、マッケナはとてもよい例です。子役として活躍する彼女は普通の人生を送っていませんよね。プロフェッショナルとして小さな頃から働いていますが、マッケナの母親は、マッケナが同世代の普通の子どもたちと遊べる環境をなるべくつくるようにしています。

学問、芸術、スポーツといった分野に限らず、心の知能指数が高い子どももいます。例えば、マッケナは感情的や精神的な面で非常に優れていて、人を思いやったり、人の感情を想像したりする才能に溢れています。とにかく、親が子どもの才能を発掘しようと躍起になるのではなく、少しだけ子どもにリードさせることが大切。子どもは子どもでいること、子どもらしく冒険することが必要なのでは?

“無条件の愛”と“ガイダンス”、それが親のすべきこと

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―『(500)日のサマー』、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズなど、続々とヒット作をつくるウェブ監督本人もギフテッドだと思いますが、ご両親は監督の才能に気づいていたのですか?

マーク・ウェブ監督:ハハハハ。僕の両親は素晴らしい人達だけど、映画監督になるなんて夢にも思っていなかったよ(笑)。僕の父親は数学者であり教育者。母親は生物学者で医学業界で働いていました。いま思うと、僕の興味があることはサポートしてくれて、“自信”をもつように育ててくれたように思います。父親は僕に教師になってほしかったようだけど、母親のほうは映画方面へすすむためにLAに行くことを応援してくれました。

初めてミュージックビデオを撮影したのは22歳のときで、そのときは母親が500ドルを寄付してくれたんです。まぁ、最後には、僕のやりたいことを父親も理解してくれましたね。思うに、“無条件の愛”と“ガイダンス”が親が子どもにしてあげられる最良のことじゃないかな。

親は、自分の知らない世界から子どもを守ろうとする

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―ご自分が進む道をいつ頃決めたんですか?

マーク・ウェブ監督:いまでも悩んでいるよ(笑)。コロラド大学、ニューヨーク大学、ウィスコンシン大学へ行って、それからLAで映像編集の仕事を始め、ミュージックビデオをつくり、やっと映画をつくれるようになりました。長いプロセスだったね。小さなころから映画関係の仕事をしたいと望んでいたけど、生まれ育ったウィスコンシンはアカデミックな学園都市という、映画とは無縁の世界。

親というものは、良かれと思って、自分の知らない世界から子どもを守ろうとする。本作のフランクも同じで、自分の世界観に基づいてメアリーを守ろうとする。自分の知らない世界へ子どもを送りだす、というの子どもを守ろうとする親の本能と逆行するから難しいんだね……。

(C)2017 Twentieth Century Fox
ウェブ監督からの「とにかく何でも楽しんでやりなさい」というアドバイスをずっと大事にしたいと言うマッケナ。どんな女優に育つのか今後の活躍が楽しみ!

今回の映画は「(主役の少女)マッケナなしではこの映画はつくれなかった! マッケナがもつ“ギフテッド”をみなさんにも感じてほしいです」と話すマーク・ウェブ監督。子どもの才能について、そしてその見守り方について考えさせられる映画です。ぜひ、ご覧になってください。


 

(C)2017 Twentieth Century Fox

作品名:

『gifted/ギフテッド』

公開表記:

11月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー

配給:

20世紀FOX映画

撮影/田中麻以(小学館)

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