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夫の愛を忘れがちな妻へ…映画「ノクターナル・アニマルズ」【月イチ映画のススメ】

こんにちは。映画ライターの此花さくやです。働く主婦の心に活力を与える、11月のイチ押し映画は、11月3日に公開される『ノクターナル・アニマルズ』(ビターズ・エンド/パルコ)。ファッションデザイナーのトム・フォード第2作目の監督作です。

あえて自身のブランドは使用しなかった意欲作

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衣装担当は、「衣装は物語を伝え、登場人物のキャラクターを伝えるツール」という衣装デザイナーのアリアンヌ・フィリップス。スーザンの心理にそって変化していくファッションも見所。

1990年代から2004年までイヴ・サンローランやグッチでクリエイティブデザイナーを務めた後、2005年以降は自身の名を冠したアパレルとビューティーブランドで世界中を魅了するトムが、トム・フォードの洋服ではなく物語に注目してほしいと、自身のブランドをあえて使わなかったという意欲作『ノクターナル・アニマルズ』。

ファッションや映像も素晴らしいのですが、本作のテーマは“結婚”や“貞節”にあります。

子どもができると夫婦の形は変わり、働く母親は夫への不満を募らせがち。赤ちゃんが夜泣きしているのになぜかぐっすりと眠りこけている夫、子どもの宿題をいいかげんに見る夫、歯磨きもさせずに子どもを寝かしつける夫、自分ばっかり飲みに出かける夫……。そんな小さな不満が積もり積もって起こる夫婦喧嘩ってありますよね。

本作は、「もう、一緒にやっていくのは無理なのかも……」なんて思ったときに、ぜひ観てほしい作品です。

パートナーと30年以上連れ添うトム・フォードの結婚観

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幼馴染のエドワード(ジェイク・ギレンホール)とスーザン(エイミー・アダムズ)はNYで再会し、すぐさま恋に落ちて結婚する。
しかし、小説家志望のエドワードに次第にエイミーはイラだちを感じ始め……。

『ノクターナル・アニマルズ』はエイミー・アダムズ演じるハイソな女性、スーザンが“失った愛”を振り返る不思議なミステリー。現代アートのギャラリストとして成功を収めるスーザンは、インテリア雑誌から抜け出たようなモダンな邸宅、ハンサムでリッチな夫、子宝にも恵まれて何不自由のない暮らしをしていました。

LAに住む富裕層として全てを手にしているはずなのに、自分の人生にはなにかが欠落していると感じるスーザン。そんなとき、20年前に離婚した元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から彼が書いた小説『ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)』が送られてきます。

貧しい小説家志望のエドワードと恋に落ちて結婚した若いスーザンは、現実的な人生設計を立てられないエドワードに次第に不安を覚えます。離婚を切り出しますが、「問題が起こったら別れる、というのが結婚じゃないはずだ」と反論するエドワード。

このエドワードの言葉には、実はトム・フォードの結婚観がつまっています。トム・フォードが実生活で30年以上、同じパートナーと連れ添っていることをご存知でしょうか? 1986年、当時『VOGUE HOMMES INTERNATIONAL』の編集長だったリチャード・バックリーとエレベーターで偶然一緒になったトムは、彼に一目ぼれをします。

2人はすぐに恋に落ち、トムは1989年にリチャードが重度の喉頭ガンにかかったときも献身的に闘病生活を支えました。2011年に2人は結婚し、翌年には息子を迎えています。

「まず、お互いをリスペクトしなければいけない。パートナーが、それ以上はないと信じる素晴らしい心と魂の持ち主なら、絶対に離れてはいけない」「言い合いや喧嘩が続く難しい時期があっても、尊敬してやまない相手なら、その人以上の相手は見つからない。努力して、一緒にいるべきだ。離れてはいけない」と2011年にイギリスのWEB版『VOGUE』に語ったトム。

きらびやかなファッション界の頂点に君臨し、若く美しいモデルやセレブたちに囲まれながらも、結婚や貞節の意義を信じるトム。ささいなことで夫に腹を立ててしまったときは、このトムの言葉をかみしめるのもよいかもしれませんね。

小説、過去、現在の世界、そして神演技に心が揺さぶられる傑作ミステリー

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小説の世界で保安官ボビー役を演じるマイケル・シャノン(左)はアカデミー賞助演男優賞にノミネート。犯罪者レイ役のアーロン・テイラー=ジョンソン(右)はゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞。
カメレオン級の演技がリアルすぎて怖い……。

テキサスでの悲惨な事件を描いた小説、スーザンとエドワードが結婚していたニューヨークでの過去、スーザンが住むLA(ロサンゼルス)の現在……3つの世界が交互に入れ替わり、小説、過去、現在がどのように繋がりどんな結末を迎えるのか!?

スクリーンから一時も目が離せないまま、“失った愛”を思いだすスーザンのはりつめた鼓動が、物語を見つめる自分の鼓動と重なり、そのまま息を飲むクライマックスへ。

本作では、保安官ボビー役のマイケル・シャノンがアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、犯罪者レイ役のアーロン・テイラー=ジョンソンがゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞したなど、全キャストによる抑えた狂気の演技が、心底怖い……!

 

スーザンのオフィスや屋敷に飾られた、ジェフ・クーンズやスターリング・ルビーらによる現代アートを見ていると、まるでギャラリー巡りをしているかのよう。その上、登場するハイファッションやインテリアは現実世界を忘れさせてくれるほど妖艶で美しい。対極に、小説が見せる粗野で暴力的な世界が象徴的に描かれており、映画の最初から最後まで心がざわめき、動揺し、揺さぶられます。

映画館を出た後は美しい悪夢を見たかのような余韻がありますが、不思議と嫌な感じではなく、ワインを片手に“愛のなんたるか”をじっくりと考えたい……そんな傑作ミステリー。

夫への愛を忘れがちな妻へ、おすすめの1本です。

ノクターナル・アニマルズ

2017年11月3日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

(C)Universal Pictures

 

【参考】

Tom: It Was Love At First Sight –  VOGUE

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