新米が出た瞬間から、昨年の米は「古米」になる
null今年8月に起きた「令和の米騒動」。スーパーの棚から米が消え、不安に駆られて米をまとめ買いしてしまった人も多いのではないでしょうか? 新米が出始めたのに家庭で余っているお米……。一体どうしたらよいのでしょう。
そこで、五ツ星お米マイスターの西島豊造さんに、古米を美味しく食べ切るコツを教えてもらいました。まずは新米と古米の定義をクリアにすることから始めてみましょう。
「新米というのは、みなさんご存知の通り、その年に収穫された米。今年で例えると、新米は2024年23時59分までしか“新米”として売ることはできません。年を越した瞬間から“令和6年産”という言い方になり、“新米”とは言えなくなるんです。
さらに、新米が出た瞬間から、2023年に収穫された米は、全て“古米”という呼び方になります。
基本的に、米には消費期限や賞味期限がありません。昭和の頃は、“古米”、“古古米”、“古古古米”と、3年前に収穫された米まで流通にのっていたんですよ。
古米はニオイが強くなり、味は落ちるけれど、カビなどが出ていなければ、食べても問題ありませんよ」(以下「」内、西島さん)
近年は、各地の低温倉庫の保管技術の進化が著しく、昔と比べるとそこまで品質低下も味落ちもしなくなったと西島さんは話します。
「倉庫にいる限りは新米のまま眠っている状態なので、前ほど“急いで食べて!”と、私は言わなくなりました。しかしながら、家庭で保管することを考えると、昔と今では住宅環境が大きく変わりましたよね。気密性の高いマンションが増え、一年中冷暖房が効いている家が多くなり、季節に関係なく米の傷み方が早くなった印象はあります」
さらに、特に2023年の米は出来が悪く、持久力がないため、味が落ちるのが早いそう。
「昨年は猛暑のうえ、雨が少なく、白い線が入っている米が多いんです。これは高温障害といって、米の出来の悪さを証明するもの。こういった米は上手に炊けず、溶けてのりみたいになります。古米になればなるほど溶けやすく、ベチャベチャのごはんになってしまうんです」
筆者の実家も米を作っているのですが、昨年は特に不作で、収穫量が例年の2/3でした。さらに白く線の入った米がとにかく多い! 西島さんいわく、この現象は全国的に見られたそうです。
買う時は「何年産&精米日」のチェックを!
null米は長持ちするイメージがあるので、表示などをチェックせずに買う人も多いかもしれません。でも、表示のチェックは必須だと西島さんは話します。
「米の袋には、“令和何年産”と収穫された年が書かれているので、まずいつ収穫された米なのか調べてください。さらに精米した日から味は落ちていくので、いつ精米された米なのかもチェック。この2点は必ず確認したうえで、できるだけ鮮度のよい新しい米を買うのがベストです!」
精米した米を美味しく食べる目安は、常温で2週間、冷蔵で1カ月半とのこと。さらにこれから暖房を使う家庭が増えてくるので、精米した米を買う人は、冷蔵保存は必須です。
「昔と今では保存法が全然違います。昔の家屋は使っていない涼しい部屋があったので、そこで常温で保管ができました。でも今は、特に都心に住んでいると、そんな部屋はないに等しい。トイレやお風呂でさえも暖房が入っているかもしれません。そのため、強制的に涼しい環境を作るしかありません。そのためには、冷蔵庫の野菜室が一番!」
保存法については、前回、詳しい方法を紹介しているので、こちらの記事を参考にしてください。
米に虫がわきやすいのは冬!梅雨はカビに注意!
nullまた、住宅環境の変化により、現在は夏よりも冬に米に虫がわきやすいそう。
「家庭のお米に関してだけいうと、四季が逆転してしまった印象です。夏は冷房で涼しい環境をキープでき、暖房を使う冬の方が、室内が暖かいので虫がわきやすい。
虫がわくというのは、虫が食べるほど美味しい米である証拠。農薬の使用が少ない証なので安全性が高く、一概に悪いわけではないんです。でも、冬を越して春になると、米の中身を虫が食べて空っぽになっている、なんてことも稀にあるんですよ。
もし、虫がわいてしまったら日陰干しをしてください。日陰にお米を広い範囲に広げて、虫がいなくなるまで半日くらい待ちましょう。虫が巣を作っていたら、芋蔓式にピュピュッと取れるので、取り除いてから金網のザルに軽くこすりつけて、明らかに品質が低下しているお米をすり潰してしまえば、あとはキレイに食べられます。巣や卵は洗っている最中に流れてしまうので、特に問題なし。昔はそういう風にして、最後まで食べ切っていたんですよ」
そして、絶対に食べちゃいけないのは、カビが生えてしまった米。
「米にもパンに生えるような青カビや黄色いカビが生えることがあります。カビを見つけたら、残念ですが全部捨てるしかない。カビてしまった部分だけ取り除いてもダメ。目に見えなくてもすべての米に菌が蔓延しているので、絶対に食べてはいけません。流し台の下や押し入れの中など、特に湿気がこもりやすい場所で保管しているとカビが生えやすくなります」
また、芳香剤や灯油、香水などの側に置くのもNGとのこと。米はにんにくの香りなど自然の香りは吸わないのですが、人工的に作った香りは大好きで、米が全部吸ってしまうそう。灯油の側に置くと、一瞬で灯油臭い米になってしまい、それは研いでも直りません。なので、保存する場所には注意が必要ですね。
「再精米」をして、古米を美味しく食べ切ろう!
nullでは余ってしまった古米を、手軽に美味しく食べ切る方法は何かあるのでしょうか?
「まず古米かどうか見極める簡単な方法があります。米を触って軽く手でもんでみて、手に白い粉が付いたら古くなっている証拠。その白い粉はニオイや黄ばみの原因です。
そうなってしまったら、一皮むけばいい。金網のザルなどに古米を入れて、網に米をこすりつけるようにして表面を研いてください。これで、粉をふいた表面だけむけて、鮮度のいい部分が出てきます。ニオイも少なくなり、ツヤも戻ってきて、かなり挽回して食べられますよ。
これは“再精米”という、古米を復活させるための昔からの知恵なんです。でも水をかけたらダメ。吸水する前に必ず行うのがポイントです」
古米までは普通の研ぎ方で大丈夫ですが、“古古米”、“古古古米”になると、再精米の作業を最初に行う必要があるそうです。古米は水分が少なくなっているので、その分、水を吸ってしまうため、米の状態を見ながら炊く時の水加減は多めに調整してください。米の劣化状態にもよりますが、目安としては、炊飯器をパカッと開けた時に、ツヤが出て美味しそうに見えるまで水を増やしてよいそうです。
新米と古米を「ブレンド」して美味しく食べ切る!
nullもし、大量の古米が残っている場合は、新米と古米のブレンドも有効とのこと。
「新米:古米=3:7を目安にブレンドすると、古米の悪さが消えて、新米のツヤが出て、味も若干復活します。
さらに古米の劣化がひどい時はブレンドする比率を逆にして、新米:古米=7:3に。新米の力で古米臭が消え、パクパク食べられますよ」
これが新米と古米をブレンドする際の黄金比。プロは3〜4種類の米を混ぜて、もっと分からないようにブレンドするそうですが、一般家庭なら新米と古米の2種類で充分。これで普通の白米と同様にお茶碗で食べられるレベルまで復活するそうです。特に、今年の新米は価格が高いので、コストを下げるのにも役立ちそうですね。
もっと古い“古古米”などを使う場合は、一度再精米する作業を行ってから、新米に混ぜればOK。炊飯器に入れっぱなしで保温すると多少ニオイが出てくるかもしれませんが、お弁当にすると分からないレベルまで底上げできるそうです。
水を濾過してくれる「備長炭」を入れて炊く
nullさらに、ネットなどでは、古米にみりんや酒を入れて再生させる方法なども提案されていますが、それって実際はいかがですか?
「みりんや酒を加えると、もはや調理したごはんになってしまうので、白米のよさはなくなってしまいます。氷を入れると水加減がアバウトになるし、塩を入れると塩むすびになる。はちみつは、炊飯器の圧力弁を糖分で壊す可能性があります。いろいろな方法がありますが、今の炊飯器の状況を考えると全部アウトな印象です。
どうしても入れたい場合は、炊飯器でおすすめなのは備長炭。炭には浄水効果があり、キレイな水へと濾過してくれます。備長炭を入れて一緒に炊くと、炭の浄水効果で米が吸水しやすい水へと変わるので、ツヤと甘みが出てくる。これは伝統的な昔からの復活法です。
炊飯器の中で米が滞留する時に、大きい炭は炊飯器の内釜を削ってしまう可能性があるので、親指くらいの小さめな備長炭を使ってください。竹炭はすぐにボロボロになりますが、備長炭なら長持ち。何度も使うと木目が詰まってきますが、定期的に煮沸すれば木目に詰まった汚れが流れるので、何度も使用できますよ」
古米が復活するあらゆる方法を教えてくれた西島さんの最後の手段は……。
「これだけいろいろやってダメなら、丼ぶりやカレー、チャーハンにして、最後は味でごまかすしかない!(笑) ドライカレーがいちばんごまかせますよ!」
確かに!(笑) 白米だけで食べると味落ちを感じやすいため、濃い味付けに頼るのもひとつの手ですね。
今回取材して感じたのは、日本人は米と密接に暮らしてきたゆえ、古米を美味しく食べる知恵を昔の人はしっかり持っていたということ。
「米は昔の主食だから、美味しく食べるための逃げ道はいろいろあるよ」と、西島さんが話してくれたように、昔の人たちは最後まで無駄にすることなく、米を大切にしていたのだと改めて感じました。
洋食文化が浸透し、生活スタイルも多様化した現代ですが、このような方法を知っておくことは、食品ロスにつながり、暮らしを豊かにする支えになると思います。米と共に歩んできた日本人だからこそ、知っておきたい知恵ですね。古米がある人は、ぜひ試してみてください!
西島豊造
五ツ星お米マイスター。東京・目黒区にある米店『スズノブ』の3代目。北里大学獣医畜産学部畜産土木工学科を卒業後、北海道で水路などの農業土木の設計に携わり、1988年に家業の米店『株式会社 鈴延商店』を継ぐ。五ツ星お米マイスターの資格を取得し、膨大な米と土に関する知識を活かし、新しい米の時代を作るべく産地と消費者をつなぐパイプ役として、産地の特徴を活かした地域ブランド米作りに力を注ぎ、全国を奔走する。
ライター&エディター。『女性セブン』(小学館)で約 20年、料理、家事、美容、旅、タレント取材など、実用記事を中心に幅広いジャンルで取材&執筆を行う。『kufura』では2017年のローンチより、料理やヨガなどを中心に動画記事を350本以上作成。好きなものは絵本、美術館、音楽フェス、自転車。週刊誌で鍛えられた体力&根性で 40代から子育て奮闘中。