絵師たちを再発見! 伝説の名著の世界を体現する展覧会
null展覧会名の「奇想の系譜」とは、1970年に出版された美術史家・辻惟雄(つじのぶお)が著した江戸の絵師を紹介する本のタイトル。辻惟雄は、この本でいわゆる“わびさび”や“幽玄”という単語ではくくることができない、そして日本の美術史の中で忘れられてしまっていた作品と絵師たちを紹介しました。
名著『奇想の系譜』(ちくま学芸文庫)に登場する作品は、ダイナミックな構図や激しい色使いなど、ひと目見たら忘れられないインパクトの強いものばかり。
辻の著したこの本がきっかけとなり、それまで忘れ去られていた伊藤若冲や曽我蕭白、長沢芦雪らが注目を集めました。そして彼らを研究する人々が増え、現在の江戸絵画ブームが巻き起こったのです。つまり『奇想の系譜』がなければ、伊藤若冲ら一部の江戸の絵師たちは忘れられた存在のままだったかもしれないのです。
今年2月には、『新版 奇想の系譜』(小学館)も出版されており、新たに図版を加え、さらに4色で大きく見せられるレイアウトに生まれ変わりました。
「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」では、『奇想の系譜』で紹介された岩佐又兵衛(いわさまたべえ)、狩野山雪(かのうさんせつ)、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳といった6人の絵師に、新たな注目絵師として鈴木其一(すずききいつ)と白隠慧鶴(はくいんえかく)の作品も展示。それぞれの自由で斬新な作品をたっぷりと楽しむことができます。
下記作品は、曽我蕭白の『群仙図屏風』。辻惟雄が『奇想の系譜』を描くことになったきっかけのひとつがこの絵と出会ったことだったそう。
ほかにも、伊藤若冲の『梔子雄鶏図(くちなしゆうけいず)』や『鶏図押絵貼屏風(とりずおしえばりびょうぶ)』、長沢芦雪『猿猴弄柿図(えんこうろうしず)』など、近年になって発見された作品や、初公開の作品も多数出品されています。
現代人の心を掴む、愛らしくユーモラスな描写も魅力
nullなかでも私、浦島のイチオシは、長沢芦雪の『白象黒牛図屏風(はくぞうこくぎゅうずびょうぶ)』。
象と牛、白と黒のコントラストのみならず、どちらも荒々しい描写が素敵です。そして、黒牛のお腹に白いかたまりがあるのがわかりますか?
こちら、よーく見てみると白いわんこ! 牛の大きさを強調するために、あえて配置されたのだと思われます。しかしそこまでリラックスした姿で登場する必要があるのか?と、疑問に思ってしまうほどのゆるさ。
あまりのかわいらしさから、単体でもグッズがたくさん作られています。
この白いわんこのように、『奇想の系譜』で紹介されている画家たちはインパクトのある画風の中にときおりキュートで愛らしい描写を挟み、心を和ませてくれるところも愛されている理由のひとつでしょう。緩急織り交ぜているのですね。
白隠慧鶴の『達磨図』も、パッと見ではとてもいかついお顔ですが、よく見てみるとどことなくユーモラス。
白隠の本業はお坊さま。「臨済宗中興の祖」と呼ばれる高名な禅僧で、仏の教えを伝える手段として絵を描いていました。
「日本美術はわかりづらい」という声をよく聞きます。けれども、この展覧会に関しては、「鶏のとさかは赤くてかっこいい」「牛や象や鯨は大きくてかっこいい」など、絵師たちの興味のポイントやときめきポイントが現代の私達でもよくわかり、そこがとにかく面白いのです。
魅力的な作品ばかりの「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」、毎週金曜の夜間延長の時間(20時まで)は比較的ゆったり観られておすすめです。お仕事帰りなどにもぜひ足をお運びください!
【展覧会情報】
会場:『東京都美術館』
東京都台東区上野公園8-36
会期:2019年2月9日(土)~4月7日(日)
開室時間:9:30〜17:30/金曜、3月23日、30日、4月6日は20:00まで(最終入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜(ただし、4月1日は開室)
最寄り駅:JR「上野駅」公園口より徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口、京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分
問い合わせ:03−5777−8600(ハローダイヤル)