現在、アドベンチャーワールドには、お母さんパンダの23歳の良浜(らうひん)、良浜の子どもたちである7歳の結浜(ゆいひん)、5歳の彩浜(さいひん)、3歳の楓浜(ふうひん)の4頭のメスのパンダが暮らしています。
アドベンチャーワールド生まれのパンダには、白浜の「浜」の1字を入れた名前が付けられており、現在の4頭のパンダはすべてアドベンチャーワールドで生まれました。
アドベンチャーワールドのパンダたちは、間近にじっくりと見ることができるのが大きな魅力。夏休みにパンダファミリー“浜家”を見に行きたい!と計画しているみなさんがより楽しめるお話を、ジャイアントパンダの飼育担当・陣内郁佳さんにお聞きしました。
2023年に中国に戻ったお父さんパンダ「永明」はパンダ界の光源氏!?
null1987年にジャイアントパンダの保護を目的として中国に設立された保護研究施設に、支援として寄付活動に参加したのが、アドベンチャーワールドとパンダの関わりの最初のきっかけでした。
日中平和友好条約締結10周年、アドベンチャーワールド開園10周年にあたる1988年に、絶滅危惧種とされている貴重な動物をより多くの人に知ってもらいたいと「海と陸のパンダ展」と題して3カ月の期間限定で行ったのが、同パークでの最初のパンダ展示です。
1994年9月に中国からオスの永明(えいめい)とメスの蓉浜(ようひん)の2頭のパンダがやってきました。中国と海外動物園のジャイアントパンダ長期共同繁殖研究が世界で初めてスタートし、アドベンチャーワールドのパンダファミリーの歴史の始まりとなりました。
蓉浜は残念ながら1997年7月に死亡しましたが、その後2000年7月に出産経験のある梅梅(めいめい)がパークにやって来ました。梅梅はアドベンチャーワールドに来園して約2カ月後に、中国にいる別のオスパンダ哈蘭(ハーラン)との子どもである良浜を出産しました。
その後、永明と梅梅の間には6頭のパンダが誕生。2008年10月に死亡した梅梅の後、良浜と永明の間に10頭のパンダが誕生しました。
永明は2023年2月に中国に返還されましたが、アドベンチャーワールドにいた28年余りの間に16頭の子宝に恵まれた“ビッグパパ”でした。2020年に楓浜が生まれ、永明は飼育下で自然交配して繁殖した世界最高齢のパンダとなりました。
「今まで多くの繁殖に成功し、飼育のノウハウがあることがアドベンチャーワールドの強みです。パンダは発情の時期が年に数日で、発情のピークは2~3日程度と言われています。今まで蓄積されてきたデータや、ホルモンの状態を調べるなどして、発情の時期を見極めてオスとメスを一緒の部屋に入れます。時期を間違えるとケンカになってしまうこともあり、このあたりの見極めが非常に重要です。
永明が多くの子宝に恵まれたのは、メスとの相性が良かったというのも要因かもしれません。永明はメスに対してとても優しいアプローチをしていて、メスのことをよくわかっているタイプだったと思います。発情のタイミングも永明はいち早く気づくことができていたので、そういう能力が長けていたのかもしれないですね。
永明は立派なお父さんパンダで、これだけ子どもがたくさん生まれているということは、やっぱりモテるパンダなんだろうと思います。しかもメスパンダだけでなくお客様にもモテモテでした(笑)。
お客様に人気だったのは、のんびりして穏やかな性格で、人間のことを理解してくれるような性質だったからかもしれません。イベントでも、パンダによってはお客様にはよく見えない場所に座ってしまったりすることがありますが、永明は私たちが“素晴らしい!”と思うほど、一番いい場所にポンって座ってくれたりして、“永明はやっぱり持っている”って感じました」(以下「」内、陣内さん)
パンダ界の光源氏と呼びたくなるほど、穏やかな性格でメスに優しく接していた永明。モテるのは当然だったのかもしれません。
ジャイアントパンダの繁殖は非効率でそのために数が減少し、中国でも1987年から保護繁殖研究を行ってきましたが、16頭ものパンダを誕生させた永明はまさに“ビッグパパ”。保護繁殖研究のお手本となりました。
アドベンチャーワールドにいる個性豊かな4頭のパンダたち
null現在、アドベンチャーワールドにいるパンダ4頭はすべてメス。それぞれに個性があり、“推しパンダ”のもとに何度も足を運ぶファンも多くいます。それぞれどんな性格なのか、陣内さんにお聞きしました。
ベテランママ「良浜」(2000年9月6日アドベンチャーワールド生まれ)
鼻が低くて丸い顔が特徴の良浜。2008年に初めて日本で双子の赤ちゃんを出産した日本生まれのパンダで、これまでに10頭の赤ちゃんを出産したベテランママです。
母親の梅梅に負けないぐらい子育て上手なお母さん。わんぱくな性格で、子どもたちと一緒にいる時期は子どもと共に良浜も夢中になって遊んでいたそう。
肝っ玉母さん的な面もあり、子どもたちがダメなことをしたら叱ったり、危ないと思ったら迎えに行ってあげたりことも。とても食いしん坊で、おいしく竹を食べている様子もまた魅力です。
好奇心旺盛な「結浜」(2016年9月18日アドベンチャーワールド生まれ)
出生時の体重が197gと、それまで同パークで生まれた赤ちゃんの中で最も大きな体で誕生した結浜。初めて見る大きな遊具やすべり台にも物怖じせずにチャレンジする、好奇心旺盛な性格。ピョコと頭がとんがっているのが特徴です。
結浜はアドベンチャーワールドのパンダの中でも一番個性的で、部屋の端っこの隙間に挟まって寝ていることも。竹を食べるポーズも独特です。
取材していた日も、むしゃむしゃと竹を食べていた結浜が突然、のそのそと水場に近づき、水浴びするのかと見守っていると、何もせずに水辺にたたずんでいました。
他のパンダもそうですが、白い毛の部分が茶色くなっている子が多く、なんだろう?と思ったら単なる「汚れ」なのだとか。結浜はもしかして、体をきれいにしたいと水浴びを考えていたの?
「水浴びはしますが、きれい好きな動物ではないので、体をきれいにしようと思って水浴びするわけではないですね。
特に発情期になると、自分のテリトリーをうろうろして相手を探す行動をしますが、パーク内でもこのような行動が見られて、うろうろすると体温が上がり、体を冷やすために池に浸かって水浴びをしたり、夏の時期だったら単純に暑くなって入ったりすることはあります」
小さな体から社長に出世!?「彩浜」(2018年8月14日アドベンチャーワールド生まれ)
体重がわずか75gと、同パークでは過去最も小さな体で生まれた彩浜。一時は命の行方も心配されたそうですが、スタッフの懸命なサポートとお母さんの良浜の愛情をたっぷり受けて、ケガや病気もなく元気に大きくなりました。
どっしりと座る姿はファンから「社長座り」と呼ばれているそうで、小さな体から堂々たる姿に成長しました。
パンダファミリーの末っ子「楓浜」(2020年11月22日アドベンチャーワールド生まれ)
アドベンチャーワールドのパンダファミリーは頭のとんがりが特徴で、楓浜もお姉さんの結浜と同じく少しとんがっています。
体重157gで誕生した楓浜は生まれた瞬間から元気が良く、お母さんの良浜のお腹から転げ落ちそうになるなど、よく動き回っていたそうです。
「末っ子の楓浜は今成長期でたくさんの竹を食べる食いしん坊です。大人のメスパンダは100~110kgくらいまで大きくなりますが、楓浜も体重が100kg台に乗り、すくすくと成長しています」
夏休みに「美パンダ母娘」にみなさんも会いに行きませんか? なお次回は、パンダファミリーがどのような生活を送っているのか紹介します。
取材・文/阿部純子
【教えてくれた人】
飼育部 ふれあい課 陣内郁佳さん
2009年にアドベンチャーワールドを運営する株式会社アワーズに入社。ふれあい広場の動物担当を経て、2016年からジャイアントパンダの飼育を担当。
同園の「パンダチーム」が執筆した書籍『知らなかった!パンダ ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』(新潮社) でもイラストを担当している。
所在地: 和歌山県西牟婁郡白浜町堅田2399番地
1日入園券:大人(18歳以上)5,300円、シニア(65歳以上)4,800円、中人(中学生・高校生)(12歳~17歳)4,300円、小人(幼児・小学生)(4歳~11歳)3,300円(すべて税込)
※営業時間につきましては、ご入園前に必ずホームページで最新の情報をご確認ください。
※通常は予約なしで入れますが、ゴールデンウィークやお盆の時期など、来場者が多い繁忙期は事前予約制になっているので注意を。詳しくは公式サイトを確認してください。