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水族館を120%楽しむには?「魚にも右利き・左利きがある」…知れば知るほど面白いんです!

みなさんは水族館に行くとき、どんなところを見ていますか? なんとなく水槽を眺めるだけでも楽しいのですが、ポイントを知ると、もっと水族館が好きになりますよ!

今回は、動物園・水族館コンサルタントとして世界中で活躍する田井基文さんに、奥深い水族館の世界について教えてもらいました。前回の記事「動物園の楽しみ方」もぜひあわせてご覧ください。

あなたも新発見ができるかも…!? 奥深い魚の世界へようこそ

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-動物園と水族館、楽しみ方の面ではどんな違いがありますか?

「近年の水族館では魚類に加え、哺乳類や鳥類など、魚類以外の生き物も多く飼育していますよね。ペンギンやカワウソ、カピバラなどは動物園と水族館の両方で出会えますし、イルカも大変人気があります。

水族館は好きだけど、見たいのは魚じゃなくて別のもの……ということもあるかもしれません。でも、せっかく水族館に行くなら、ぜひ魚との出会いも楽しんでほしいと思います」(以下「」内、田井さん)

-水族館の巨大な水槽を眺めているとき、綺麗だなぁすごいなぁと思う反面、どこを見たらいいのか迷ってしまうこともあります。

「水族館で飼育している魚類は、動物園の哺乳類と比べて、個体数も種類も圧倒的に多くの数がいます。そのため、1つ1つの種類にじっくり向き合うのが難しいと感じるのかもしれません。

そんな時はぜひ、1匹の魚に注目してみてください。ちょっとしたきっかけで『面白い!』と感じることができたら、それを入り口に『じゃあこれはどうなんだろう?』と興味が広がっていくのではないでしょうか。コンサルティングをする際にも、そんなきっかけづくりを大事にしています」

肺呼吸する魚、ハイギョ。「最近人気のハシビロコウは“動かない鳥”というイメージがありますが、あれは、えさとなるハイギョが呼吸のために水面に上がってくるのをじーっと待っているんです。けしてのんびりした鳥ではないんですよ」(田井さん)

-“興味のきっかけ”になるのは、例えばどんなことですか?

「生物の進化の過程を紐解いていくと、元になった生き物って、みんな海からやってきているわけですよね。だから広い意味で、魚類は我々のご先祖さまとも言えます。それを意識するだけでも、ぐっと身近なものに感じられるかもしれませんね。

ハイギョという魚を知っていますか? ハイギョはその名の通り肺呼吸の魚で、水面までわざわざ上がってきて呼吸をします。水がなくても何カ月も生存できる、珍しい魚なんです。魚類から陸上脊椎動物への進化の過程を今に留めている貴重な存在として、研究対象にもなっています」

-陸上で生きられるとは……! なんだか進化のロマンを感じます。

「今までに見つかった哺乳類が約6,000種、鳥類が約10,000種なのに比べて、魚類は約30,000種。今でも毎年、数百種類の新種が見つかっています。

哺乳類に比べると、それぞれの種に対して専門的に研究している人が圧倒的に少ないので、もしかすると、ご自身、あるいはお子さんがふとした瞬間に感じた『なんでこんな動きをしているんだろう?』のような素朴な疑問が、世界的な発見に繋がるかもしれません。そう考えると、わくわくした気持ちになりませんか?」

好奇心を刺激する!水族館の5つの注目ポイント

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飼育している種類がとても多く、どこから見たらいいのか迷いがちな水族館。田井さん流の「ここに注目するとぐっと楽しくなる!」というポイントを教えてもらいました。

1:入門にぴったり!「タッチプール」

「あまり魚に慣れていないお子さんを連れていくなら、まず体験していただきたいのが“タッチプール”のような、魚や両生類などと触れあえるコーナーです。

犬や猫のふさふさの毛だったり、人間の皮膚だったりとは違う魚の手触りに驚くこと、いつも食べているサケの切り身が元はこうやって泳いでいる魚なんだと実感することが、魚への興味の第一歩になるでしょう。

親御さんが魚や両生類などに触るのが苦手な場合、親御さんが怖がっている様子を見ると、子どもの方も“怖い”、“苦手”といった気持ちになってしまうので……。できるだけ、子どもの素の反応を引き出してあげていただけたらと思います」

2:ビジュアルに驚く「個性的な生き物」

ゆらゆらした動きが可愛いクリオネ。「和名はハダカカメガイと言って、見かけによらず貝の仲間なんです。実際に、孵化した直後のクリオネは貝殻を持っています」(田井さん)

「見た目がわかりやすい生き物を入り口にするのもいいと思います。

動物園に比べて、水族館の魚はどうしても姿が似ているので、お子さんにとっては差別化が難しい部分もありますよね。例えば深海生物には、目がギョロッとして大きかったり、光っていたりなど、わかりやすいフックになるような独特な姿のものが多くいます。生態もまだまだ謎ばかりなんですよ」

「ふわふわと漂う姿が愛らしいクラゲや、カラフルで“海の宝石”と呼ばれるウミウシにも注目です。

どちらも飼育や展示が大変難しいのですが、クラゲでは常時80種類前後を展示している山形県の『加茂水族館』、ウミウシでは約40種類を展示している鹿児島県の『いおワールドかごしま水族館』といった、世界随一の飼育技術を持った水族館があり、そこで培われたノウハウが海外の水族館などでも活かされています」

3:知るともっと好きになる「名前の由来」

天然記念物のイタセンパラ。繁殖期になると、オスの体が鮮やかな色に変化します。 提供/アクア・トト ぎふ

「手触りや見た目に加えてもう1つ、興味のきっかけとしておすすめしたいのが魚の名前。

イタセンパラという、絶滅危惧種にも指定されている日本固有の魚がいるのですが、漢字で書くと“板鮮腹”。ひらべったい形(=“板”)をしていて、繁殖期になるとオスのお“腹”の色が“鮮”やかなピンクや紫になるので、イタセンパラなんですね」

神々しい姿のマトウダイ。「学名に、ギリシア神話に登場する全知全能の神と同じ“ゼウス”の名を冠しているのですが、それもうなずけますね。聖書の中に出てくるキリスト教のストーリーをもとにした、聖ペテロの魚(St. Peter’s Fish)という名前もあります」(田井さん)

「他にもマトウダイという魚は、お腹に点があって弓矢の的に見える=“的鯛”、馬の頭のように見える=“馬頭鯛”など複数の説がありますし、先ほどお話ししたハイギョ=“肺魚”、牛の角のような触覚があるウミウシ=“海牛”などもいい例ですね。

カタカナだとどこで区切っていいかわかりづらいですが、一度漢字の表記やその由来を知って附に落ちると、きっと忘れないのではないでしょうか。それまで見ていた魚の見え方が、まったく変わってきますよ」

4:年々見せ方も進化!「生態をじっくり観察」

「それぞれの生き物に興味が出てきたら、ぜひじっくりと生態を観察してみてください。

巨大水槽の魚をじっくり見ていると、それぞれの魚の、ある程度決まったルートがあるのに気づくと思います。写真を撮りたいとき、魚が動いてしまってうまく撮れなくても、じっと待っていると一周して同じところに帰ってくることがよくあります。

最近では水族館側の見せ方も進化していて、例えばカワウソだったら泳いでいる姿、陸上での姿、巣での暮らしなど、多様な角度から自然に近い生態が見られるようになってきています。私はカワウソがとても好きなんですが、愛らしい見た目と、魚を骨までバリバリ食べる肉食獣らしい姿のギャップも魅力の1つですね。

魚とそれ以外の生き物が共生している展示も多く、なかには、その地域の魚を飼育している屋外水槽に野生の鳥がやってきて、水槽の魚をえさとしてくわえて行っちゃうなんてこともあるそうですよ」

5:こだわりが伝わる「最先端のチャレンジ」

右利き・左利きがある魚、ペリソダス・ミクロレピス。 撮影/田井基文

「どの水族館にもそれぞれのこだわりがあるので、『この水族館は何に力を入れているんだろう?』と考えながら見るのもいいですね。

岐阜県にある淡水魚の水族館『アクア・トト ぎふ』で飼育されている、ペリソダス・ミクロレピスは、右利き・左利きがある魚として知られています。えさとして、他の魚の鱗をはぎ取って食べるのですが、その際に、右から狙う個体と左から狙う個体がいるんです。

富山大学、名古屋大学や『アクア・トト ぎふ』で構成される研究グループが、共同研究で右利き・左利きの獲得メカニズムを明らかにすることに成功。水族館には、最先端の技術や知識が集結しているんですね。

他にも、巨大水槽の前でお寿司を提供している水族館や、自然の川の中に建物を作って直接川の中が見られるようにした水族館など、個性あふれる展示をしている水族館が日本中にありますよ」

次回は田井さんイチオシの動物園・水族館について。計12カ所のおすすめ施設とその魅力を、詳しくうかがっていきます。どうぞお楽しみに!

 

写真提供/田井基文、アクア・トト ぎふ、Adobe Stock、photolibrary


【教えてくれた人】

田井 基文(たい もとふみ)

動物園・水族館コンサルタント、動物園写真家。

動物園・水族館専門のフリーマガジン『どうぶつのくに』の専任写真家・編集長・発行人を経て、2012年から動物園・水族館コンサルタントとして活動。ビジネスパートナーであるベルリン動物園・水族館の前統括園長ユルゲン・ランゲ博士と共同で、ドイツの「ハノーヴァー動物園」、イタリアの「ナポリ水族館」など、世界中で動物園・水族館の新設やリニューアルに携わっている。国内では、「アクアマリンふくしま」「加茂水族館」「のいち動物公園」などでアドバイザーを歴任。

『世界をめぐる動物園・水族館コンサルタントの想定外な日々』田井基文・著(税込1,870円/産業編集センター)

日本で唯一の動物園・水族館コンサルタントが、その知られざる日常、世界中で出会った生き物、命を支える人たちについて綴ったお仕事エッセイ。

「見てみたい」「なぜだろう」「面白そうだ」という知的好奇心は、人間が生きるうえで欠かせないものです。(中略)ますます多様になる世界中の価値観に対し、共に考え、共に学び続ける、そういった機会を何よりもナチュラルに提供できるのは動物園・水族館にほかならないのです。
(以上、本文より引用)

生き物が好きな人、動物園・水族館の裏側を知りたい人、もっとディープに楽しみたい人にぜひ読んでほしい1冊です。

編集部・関口
編集部・関口

音楽&絵本&甘いものが大好きな、一児の父。文具や猫もとても好き。子育てをするなかで、新しいコトやモノに出会えるのが最近の楽しみ。少女まんがや幼児雑誌の編集を経て、2022年秋から『kufura』に。3歳の息子は、シルバニアファミリーとプラレールを溺愛中。

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