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開園直後が狙い目!「動物園を120%楽しむ技」を、日本唯一の動物園・水族館コンサルタントに聞きました

子連れのお出かけ先や、デートでも定番のスポット・動物園。でも、広すぎてどこから&何から見ていいやら……と悩んだこと、ありませんか?

日本で唯一の動物園・水族館コンサルタントとして施設の新設・リニューアルに携わり、世界中を飛び回って活躍する田井基文さんに、動物園を最大限楽しむテクニックを教えてもらいました。

活き活きした姿が見られるのは、開園直後&閉園前!

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-はじめに、田井さんのお仕事「動物園・水族館コンサルタント」について教えてください。

「動物園・水族館コンサルタントというのは、施設の新設やリニューアルに際して、人々に愛される魅力的な施設にするためのアドバイスをしたり、その動物園・水族館ならではのコンセプトを表現するお手伝いをする仕事です。

今のところ、日本でこの仕事をしているのは僕だけのようなので、耳なじみのない方も多いかもしれませんね。仕事の8割が海外ということもあり、これまでに訪ねた国内外の動物園・水族館は1,000カ所以上になります」(以下「」内、田井さん)

-1,000カ所以上! そんな田井さんが、動物園に行く際に一番大事だと思うことはなんですか?

「動物園と聞いてまずイメージするようなゾウやキリン・ライオンももちろん魅力的なのですが、その他にも動物園にはたくさんの出会いがあります。

これを見た、これを見た……とスタンプラリーのように通り過ぎてしまうのではもったいないので、必ずしも全部の動物を見ようとせず、1種類の動物にじっくりフォーカスしたり、自分なりのテーマを持ってめぐったりするのがおすすめです。

動物にもその時々の体調や機嫌があるので、“今日はなんだかこのプレーリードッグが可愛くてしかたない!”というようなことがあるんですよね」

-“動物の機嫌”といえば、見たかった動物が隅で寝てばかりで、「もっと見たいのに!」と残念に思った経験があります。

「実は、動物園に行くのに一番おすすめのタイミングは、朝の開園直後なんです。

夜の間、屋内で休んでいた動物たちは、動物園がオープンするのにあわせて放飼場(来園者から見えるスペースのこと)に出てきます。

一晩寝て元気な状態で放飼場に準備されたえさを食べ、自分のなわばりをパトロールするので、とてもアクティブな姿を見ることができるんです」

-動物たちにも朝のルーティーンがあるんですね。

「もう1つおすすめなのが閉園の間際。屋内に帰るとえさが用意されているので、閉園の時間が近づくと“そろそろ帰る時間かな”、“晩ご飯まだかな”とそわそわし始めます。

特に、夕方に動き出す薄暮性のレッサーパンダやコアラ、夜行性のトラやハイエナなどは、閉園が近づくにつれて活動的になってきますよ。

一度見に行って眠っていても、あきらめず、時間をおいて再チャレンジすると、きっと活き活きした姿が見られるはずです」

自分なりのテーマを決めて!5つの楽しみ方

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田井さんがおすすめする動物園の楽しみ方は、何かしら「その日のテーマ」を決めてめぐるという方法なんだそう。……とはいっても、どんなテーマを設定するといいのでしょう? 具体例を教えてもらいました。

1:写真を撮りながらじっくり観察!「カメラマンプラン」

「例えば、動物の写真をじっくり撮るのも立派な楽しみ方の1つ。写真には、撮る人の『これがすごくかっこいい!』『面白い!』という感動が詰まっているんです。

1人でじっくり撮影するのも楽しいですし、親子で行くなら、大人も子どももそれぞれカメラを持って撮影してみることをおすすめします。

私は動物園カメラマンでもあるので、動物園で写真の撮り方講座をやらせてもらうことがあるのですが、子どもたちはとても自由に、興味の向くままに撮影するので、驚くほどいい写真が撮れるんです。大人が撮ると見下ろした角度になりやすいのですが、子どもの目線からだとぐっと迫力が出たりなど、角度を変えるだけでもその写真のインパクトがまったく変わってきますね。

動物だけではなく、お子さんや夫・妻、デートなら彼氏・彼女の、その動物を見た時に出る“可愛い”、“びっくりした”、“怖い”といった素の反応も、ぜひそのままカメラにおさめてください」

2:食事シーンやイベントごとを逃さない!「がっつり計画的にプラン」

「オオアリクイは、ギ酸を含むアリと同じく“酸っぱい味”のグレープフルーツが大好物。半分に切ったグレープフルーツをあたえると、果肉の部分をきれいに舌でなめとって、薄皮だけが残った状態になります」 撮影/田井基文

「定番の楽しみ方ではありますが、事前にしっかり下調べをして、“もぐもぐタイム”や“ふれあい体験”、“ガイドツアー”のようなプログラムを中心にまわるのもいいですね。

こういったプログラムには、それぞれの動物園の個性や、飼育員さんのこだわりが凝縮されています」

「もぐもぐタイムで動物たちの食事を見ていると、いろんな発見があります。

例えばカバ。大きい口をバカッ!と開けてすいかを食べる、迫力ある食事のイメージがありますよね。でもそれだけじゃなくて、草やおからなどの地面に置かれたえさも、唇を上手に使いながら、きれいに全部食べるんです。あの大きな口からは想像できない細やかな食べ方に驚きますよ。

こんな風に、普段はなかなか見られないシーンに出会えるのが、事前にしっかり計画を立てるメリットです」

3:あえて予習ゼロという良さも…「偶然の出会いプラン」

「一方で、予習はせず、あえてノープランで行く良さもあります。私も、初めての動物園に行く際は下調べをせずに、その場で感じたことや、偶然の出会いを楽しんでいます。

一見すると何もいない放飼場でも、“いません”という注意書きでもない限りは、そこに必ず生き物がいます。見えていなかっただけで、実は目の前にいるかもしれないし、下から見上げると見つかる場合もあります。意地でも見つけてやるぞ!という気持ちで、1つ1つの展示に向き合ってみてください。

また、たまには立ち止まって耳をすませてみると、動物たちの声や鳥の声、お客さんの反応が聞こえてきます。どこに行くか迷った時は、声を頼りに行ってみると、面白い瞬間に立ち会えるかもしれません。

見たかったイベントが終わってしまっていたとしても、五感をはたらかせてじっくり楽しめば、きっと忘れられない何かが見つかりますよ」

4:今だけの瞬間を楽しむ「四季を味わおうプラン」

「四季のある日本では、季節によって動物園のたたずまいや楽しみ方も変わります。

春:動物の赤ちゃんは春に生まれることが多いので、生後間もない姿に出会える貴重なチャンス。桜が咲いて、動物園がピンク色になる美しさもあります。

夏:暑い時季は、水浴びをしたり、氷のかたまりで遊ぶ動物たちが見られます。スカッとした青空と活き活きした緑は写真映えしますし、野生の自然を思わせます。

秋:食欲の秋といいますが、動物たちも食欲旺盛になって、動物によっては冬眠に向かって食いだめをする季節。体がまるくなってくる動物もいます。紅葉と動物たちとのコントラストも綺麗です。

冬:夏毛と冬毛で柄が大きく変わる動物だけでなく、オオカミやネコ科などでも、毛の長さや質感が変わってきます。雪景色のなかにいる動物たちの姿も、冬ならではですね」

5:ちょっとディープに「動物園の個性に注目!プラン」

野生のニホンライチョウの親子。

「最後に、少しマニアックな視点ですが、動物園ごとの個性にフォーカスして楽しむ方法もあります。

ただ動物を飼うだけではなく、種の保存活動や学術的な研究、動物への理解の促進といった取り組みも、動物園が担っている役割の1つ。例えば上野動物園など国内のいくつかの動物園が協力して、日本の固有種であるニホンライチョウの保全に取り組んでおり、2021年には初の人工授精による繁殖も成功。絶滅を防ぐための大きな一步となっています。

異なる種類が同じ空間で過ごす“混合展示”も、動物園の腕の見せどころ。なかには、シマウマとチーターといった草食動物・肉食動物を同じ空間で飼っている園もあります。特に企業が運営していることが多いサファリパークの場合、公立の動物園などと比べて、より先進的なプログラムや展示のしかたにトライしているケースが多くあります。

アニマルウェルフェアの面でも大きく進歩していて、より自然に近い形で、活き活きした姿が見られる動物園が増えてきているんですよ」

今回ご紹介した「5つの楽しみ方」を参考に、ぜひ、自分なりの動物園での過ごし方を探してみてはいかがでしょうか。

田井さんには次回以降も引き続き、「水族館の楽しみ方」や「おすすめ施設」といったテーマでお話をうかがっていきます。どうぞお楽しみに!

 

写真提供/田井基文(記載のあるもの)、Adobe Stock


【教えてくれた人】

田井 基文(たい もとふみ)

動物園・水族館コンサルタント、動物園写真家。

動物園・水族館専門のフリーマガジン『どうぶつのくに』の専任写真家・編集長・発行人を経て、2012年から動物園・水族館コンサルタントとして活動。ビジネスパートナーであるベルリン動物園・水族館の前統括園長ユルゲン・ランゲ博士と共同で、ドイツの「ハノーヴァー動物園」、イタリアの「ナポリ水族館」など、世界中で動物園・水族館の新設やリニューアルに携わっている。国内では、「アクアマリンふくしま」「加茂水族館」「のいち動物公園」などでアドバイザーを歴任。

『世界をめぐる動物園・水族館コンサルタントの想定外な日々』田井基文・著(税込み1,870円/産業編集センター)

日本で唯一の動物園・水族館コンサルタントが、その知られざる日常、世界中で出会った生き物、命を支える人たちについて綴ったお仕事エッセイ。

「見てみたい」「なぜだろう」「面白そうだ」という知的好奇心は、人間が生きるうえで欠かせないものです。(中略)ますます多様になる世界中の価値観に対し、共に考え、共に学び続ける、そういった機会を何よりもナチュラルに提供できるのは動物園・水族館にほかならないのです。
(以上、本文より引用)

生き物が好きな人、動物園・水族館の裏側を知りたい人、もっとディープに楽しみたい人にぜひ読んでほしい1冊です。

編集部・関口
編集部・関口

音楽&絵本&甘いものが大好きな、一児の父。文具や猫もとても好き。子育てをするなかで、新しいコトやモノに出会えるのが最近の楽しみ。少女まんがや幼児雑誌の編集を経て、2022年秋から『kufura』に。3歳の息子は、シルバニアファミリーとプラレールを溺愛中。

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