なぜ世界遺産に? 「国立西洋美術館」が選ばれた理由
nullJR「上野駅」の目の前にある上野公園。この公園内には『東京都美術館』や『国立科学博物館』『上野の森美術館』、そして大人気のパンダ“シャンシャン”のいる『上野動物園』など、さまざまな文化施設があります。
『国立西洋美術館』はそれらのなかでも一番の駅チカ施設。1959年に開館した美術館の核となるのは、実業家で美術品の大コレクターでもあった松方幸次郎の「松方コレクション」です。
松方幸次郎は、明治時代に総理大臣も務めた松方正義の三男で、川崎造船所(現川崎重工業株式会社)の初代社長としても活躍しました。
彼が美術品の収集を始めたのは、第一次世界大戦のさなかロンドンに滞在していた頃のこと。絵画や彫刻、タペストリーのほか、浮世絵(現在は『東京国立博物館』が所蔵)など、約10年の間に1万点におよぶ作品を集めていました。それらのうち、パリに残されていた約400点の作品は第二次世界大戦末期にフランス政府の管理下に置かれることとなります。
戦後、作品群が日本に返還されることになったとき、フランス政府から出た条件のひとつが「専用の展示施設をたてること」。そのため、『国立西洋美術館』が作られました。
設計を手がけることになったのは、20世紀を代表する建築家、ル・コルビュジエ。
ル・コルビュジエは技術的な側面と、快適な生活を送る仕組みの両方から新しい建築を考え、サヴォア邸やユニテ・ダビタシオンなどの数々の名建築を作り上げ、建築の歴史を大きく変えた「近代建築の父」と呼ばれています。男性の身長183cmを基準として黄金比から作り出された建築のための尺度“モデュロール”を考案したことでも知られています。
2016年には数々の功績により、同館を含む世界7カ国17資産のル・コルビュジエ設計の建築が一括で「世界遺産」として登録されたのです。
ル・コルビュジエの哲学が凝縮された建物と空間
null『国立西洋美術館』内には、ル・コルビュジエの哲学が凝縮されています。
常設展の入口すぐの場所にある「19世紀ホール」は、天井に取り付けられた三角形のトップライト、木型に流し込んで木目をつけたコンクリート柱、上るにつれ景色が変わるスロープなど見所が満載。
外壁パネルや前庭の石畳の長方形のサイズは、上述の“モデュロール”の尺度をもとに作り出されたもの。「19世紀ホール」を囲むように配された2階の展示室は天井に高低がついていますが、この高さの違いも“モデュロール”により算出されたものです。
『国立西洋美術館』を訪れたら、作品とともに空間もゆっくり楽しんでみてください。
通称「モネの部屋」など、展示も見所たっぷり!
null1959年に「松方コレクション」を核としてスタートした『国立西洋美術館』は、開館以来コレクションを徐々に増やし続け、現在は約6,000点以上の作品を収蔵。それらのうち、常設展では約200点が展示されています。
前庭は、西洋の彫刻作品の中でも人気が高いオーギュスト・ロダンの『考える人(拡大作)』や、同じくロダンの『地獄の門』、『カレーの市民』などが並ぶスペース。開館時間内なら無料で鑑賞できます。
ロダンの作品は館内の「19世紀ホール」にも展示されています。
そして同館でなんといっても人気なのは、「松方コレクション」が核となる印象派の作品群。マネやルノワール、ゴッホにセザンヌなどの絵画をたっぷりと鑑賞できます。
新館2階の一角には、モネの作品が並ぶ通称「モネの部屋」(時期により別作家の展示になることもあり)も。印象派の立役者となったクロード・モネの作品15点を所蔵する同館でも人気の展示室です。
じつはモネの代表作『睡蓮』は、松方幸次郎がモネの暮らすフランスのジヴェルニーまで直接買付けにいった作品。近くで見ると荒々しい筆致の『睡蓮』ですが、遠くから見ると色彩が美しく溶け合うのが素晴らしい!
ほかにも14〜16世紀の宗教画や、ロココにロマン主義などさまざまな作品が展示されています。建物鑑賞と常設展示で1日たっぷりと楽しめる『国立西洋美術館』。ぜひ訪れてみてくださいね!
【施設情報】
『国立西洋美術館』
東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30~17:30(金曜・土曜は9:30〜20:00)
※ 入館は閉館の30分前まで
※ その他、時間延長期間あり。詳細はHPへ
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
最寄り駅:JR「上野駅」公園口出口よりすぐ
「近代建築の5原則」を知って建物を味わおう
null世界遺産に登録された「ル・コルビュジエの建築作品 −近代建築運動への顕著な貢献−」は、『国立西洋美術館』をはじめ3大陸7ヵ国にある17資産で構成されています。「近代建築の父」といわれるル・コルビュジエですが、彼の作り出した近代建築とはどのようなものなのでしょうか?
ル・コルビュジエは材料や方法などの“技術”、そして生活を豊かにする“仕組み”が両立した建物が“近代建築”であると考え、その要点を5つの原則にまとめました。順にご紹介しましょう。
「ピロティ」
ル・コルビュジエは柱で建物を持ち上げてできた空間を「ピロティ」と名付けました。『国立西洋美術館』の1階入り口部分も「ピロティ」になっています。
今では目にすることも多いため私達にとってはあまり珍しいものとは感じませんが、当時の欧米の建物にはない画期的なものでした。
「屋上庭園」
コンクリートができて建物に使えるようになったことで、水平の屋根をしつらえることができるようになりました。屋根は屋上空間になり、植物を植えたりすることで人間はより豊かな暮らしを送ることができます。
それまでの建物は勾配のあるとんがり屋根であることが多く、これもまた画期的でした。
「自由な間取り(平面)」
かつての建物は、その重さを壁が支えていました。近代建築では、この役割を柱が担当。壁の取り外しや移動ができるようになり、自由な間取りをデザインできるようになりました。
ちなみに、『国立西洋美術館』の本館を支える打ちっぱなしコンクリートの柱は全部で49本。「19世紀ホール」などで目にすることができるのでぜひ見てみてください。
「横長の窓(水平に連続する窓)」
かつては、建物の強度の関係から最低限の大きさしかなかった外壁の窓。近代建築では大きく開けられるようになり、部屋の隅々まで陽光の採り込みが可能となりました。
「自由な立面(ファサード)」
建物の荷重を柱で支えるようになったことから、窓以外の外壁部分のデザインも大幅に自由度が増しました。今日では、世界中で個性あふれるデザインの建築が建てられるようになりました。
以上が「近代建築の5原則」。この原則を踏まえて『国立西洋美術館』を見てみると、その素晴らしさが分かってくるはず。展示作品や美術館の内部だけでなく、建物もしっかり見学してみてくださいね。
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(※ 情報は2018年5月現在のものです)