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つい我が子に求めてしまう「みんなと同じ」。個性を伸ばす子育てとは?【井桁容子先生の育児ワークショップ】#3

乳幼児教育実践研究家としてテレビ出演や全国での講演会などで活躍する井桁容子さん。42年の保育士歴から語られる、子どもの多様性を認めて子どもの気持ちに徹底的に寄り添う保育論は、子育てのプレッシャーで頭が凝り固まっている親たちにとっては目からウロコ!の連続です。

井桁先生が代表理事を務める非営利団体「コドモノミカタ」のワークショップを、2回に渡ってお伝えしてきましたが、最終回は「個性を伸ばす子育て」についてkufura読者の皆さんとシェアします!

「ごめんね」「いいよ」を言わせても、優しさは教えられない

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子ども同士のやりとりで大人が言わせてしまいがちな「ごめんね」「いいよ」や、「かして」「いいよ」というシーン。

「いいよ」と言える子は優しいおりこうさんのように見えますが、井桁さんはこのシーンについて

子どもにとっては、自分が納得いかないことを大人に押し付けられている状態です。子どもは、建前上の正解を教えてくれる人ではなく、自分の気持ちに共感してくれる人がそばにいてくれる方が本当の意味で他者に優しい心で接することができるんです」

と子どもの気持ちを代弁します。

「親も保育者も学校の先生も、子ども同士を比べない大人であるべきです。人と比べられると自分よりできる人に対して“いなくなればいいのに”という感情が芽生えてしまいます。

そういう子どもが成長しても、人と人の心をつなぐ存在になれません。なので、ひとりひとりの良いところに“いいね!”をしてあげられる環境が必要なんです」

子ども同士のトラブルを前にすると「仲良くしなさい!」とつい言ってしまいますが、子どもの心の中はそんなに簡単な話ではないことを、もっと大人が理解しなければいけないんですね。

人と違って当たり前!子どもはみんなアーティスト

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たとえば我が子と周囲の子どもとの違いに戸惑ったとき。周りが「個性的でいいね!」と言ってくれているのに、親は“みんなと同じ”であることを求めてしまうことはありませんか?

ワークショップに参加した、アートに携わるお母さんが達が、こんな勇気が出る言葉をくれました。

アーティストは、人と違って当たり前。オリジナリティを持って常に新しくないといけない。造形系の表現を教えるために色々な保育施設に行くのですが、そういう世界の人間から見ると、保育園や幼稚園は“こうあるべき”という形が決まっていて、すごく不思議な場所。なんとかしたいなと思っています」

「子育てを経験して、子どもって油絵なんだなと思いました。水彩画は最初から精密に描かないといけないのですが、油絵は最初はぐちゃぐちゃの方が、塗り重ねていった時に最終的にいいものが出来上がるんです」

『日曜美術館』(NHKEテレ)が大好きだという井桁さんも、

ひとりひとりの人生は、アートだと思って認めるべきだと思います。その人の佇まいそのものがアートであり、そういう誰にも真似できないことを子どもたちはありのままに表現していて価値があるのに、どうしてみんなと同じ規格品にしてしまうんでしょう

と、ありのまま子どもたちの価値を力説してくれました。

柔軟な考え方が身につく、探すこととよけることの教え方

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井桁さんが保育士時代に、ナースリールームを利用していたというお母さんは、

「先生に感謝していることは、子どもが信頼できる大人を探せる力がついたことです。学校に行くようになっても、担任の先生が忙しそうなら保健室の先生とか、引っ越し先で親切にしてくれる近所の人とか、余裕がありそうで助けてくれそうな人をうま~く探してくる」

と、9才の我が子に”いい人を探す力”が身に付いていることを話してくれました。

井桁さんも、自身の子育てで”探すこと”と“よけること”を大事にしてきたそうです。

「嫌なことがあっても頑張って乗り越えるべき、と教える大人がとても多いのですが、逃げるが勝ちという言葉があるように“場所も人も、他にもあるんだ”と視野を広げてあげることが大事です。

正解は何か!ということを正面から突き詰めていくのではなくて、自分にとってどうかな?と考えたときに、合わなければよけたっていいんです。今の学校が合わなければ無理して通わなくてもいいのかもしれないし、物理的によけられなければ考え方の中で逃げたっていい。

ぶつかりたくないことがあるときは、よけ方を考える柔軟さが大事です。

そうやって柔軟に考える力というのが、21世紀では最も求められていて、AIにはできないことなんです」

親の価値観を押し付けるのではなく、子ども自身で探して時にはよけて“自分にとっての居心地のいい場所”を見つけられるように導くことが、個性を伸ばす子育てに通じるということですね。

ワークショップを通して、まずはひとりひとりの大人が、子どもにとって信頼できる人であることが大切だと感じました。そうすれば、いまの子ども達が社会に羽ばたくとき、競争社会の中で周りはみんなライバル!という時代ではなく、優しさでつながった誰もが自分らしく輝ける未来になるのではないでしょうか。

 

【取材協力】 

井桁容子(いげた ようこ)

 20183月まで保育士として東京家政大学ナースリールームに42年間勤務。現在は、乳幼児教育実践研究家として、全国での講演のほか『すくすく子育て』(NHKEテレ)への出演や『いないいないばあっ!』(NHKEテレ)の監修も行う。著書は「保育でつむぐ子どもと親のいい関係』(小学館)など多数。また、20186月に立ち上げた“子どもから学び、豊かに生きる”をテーマにした非営利団体『コドモノミカタ』の代表理事を勤めワークショップを開催するなど、保育士からステージを移した後も精力的に活動している。

 

撮影/菅井淳子

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