認可と認可外…それ以外にも増える新たな保育所
そもそも保育所は、都道府県の認可を受けた「認可保育所」と認可を受けない「認可外保育施設」の2種類に分けられていました。ところが待機児童問題が深刻化し、新たな制度が加わっていったのです。
認可外保育施設に自治体が独自に認定し、助成する地方単独保育事業、幼稚園を活用した「認定こども園」……。
地方単独保育事業というのは、東京都の「認証保育所」、神奈川県横浜市の「横浜保育室」などで、国の基準よりも定員、面積、保育士の有資格者の割合などが下回っても、自治体が独自に運営を補助するものをいい、東京都では約13%の子どもがこれを利用しています(2016年4月時点)。
さらに、2015年には、市町村が認可する「地域型保育事業」が創設され、翌年には認可外保育施設のまま、認可並みの補助が受けられる「企業主導型保育事業」が加わりました。こちらについては、前回のレポート記事もご参照ください。
「認可外は高い」はイメージだけ?
――認可保育所と認可外とでは、どんな違いがあるのでしょうか。
「認可保育所は、国が定めた許可基準をクリアして都道府県の知事に許可された保育施設です。以前は公立保育所が過半数でしたが、今では公立保育所の民営化が進み、社会福祉法人やNPO法人、企業も経営しています。
一方の認可外保育施設は、国の基準をクリアしていないために、都道府県の許可を受けていない保育施設です。
認可の保育料は、市町村が世帯の住民税額によって定めており、年齢が低いほど保育料が高くなっています。認可外は施設ごとに自由に保育料を設定しています。
一般的には認可外のほうが、保育料が高いイメージがありますが、世帯の住民税額が最高額になっている場合、認可よりも認可外のほうが安くなるケースもあります」
保育の質を確かめるためにできること
――最近、急増している企業主導型保育所ですが、どのようにご覧になっていますか?
「基準が緩和され認可並みの助成金をつけてもらえるということで、今までにないスピードで広がりを見せています。
2018年2月末の企業主導型保育事業助成決定施設は、2,365施設で定員は5万4,654人(『公益財団法人児童育成協会』調べ)で、確実に増加しています。企業内にある空きスペースを利用して、保育事業者に運営を任せることが多いようですが、なかには企業が独自に保育士を雇い、社員も保育に参加するなど、内容に力を入れているところもあります。
保育時間を企業が自由に設定できるので、開所の時間や延長保育などは比較的長くなっています」
――保育所が増えるのは、ママたちにとってうれしいことですが、そんなに急激に増えて、しかも認可外だけに、保育の質は大丈夫なのかと心配の声もあります。
「もちろん保育の質に対しては、心配な面も否めません。保育を企業に任せるべきではないという声もありますね。特に第一子の場合、親が見学に行っても、よい保育所かどうかを見極めることも難しいです。
しかし、民間企業が運営するからダメだということもありません。企業主導型保育所に関しては、前出の育成協会が年に1回以上立ち入り調査をする予定で、その結果の一部をホームページで公表しています。(http://www.kigyounaihoiku.jp/info/20180302-01 )
こうした第三者機関の評価を一つの基準にして選択するのもいいでしょう。
園の広さ、全員が保育士の有資格者、保育料の安さなどの面で認可のほうがよい。そう考える保護者が大半でしょう。
しかし、認可外でも認可並みの助成を得て、小規模でも既存の保育所でできないユニークな保育をして、子どもたちが生き生き活動している保育所はたくさんあります。一概に認可外の企業主導型保育所が、認可よりも質が低いと考えるのは早計だと思います。
外に向けてアナウンスしていないところも多いのですが、企業主導型保育所が、地域の人にも枠を設けている場合もあるので、地元での情報収集をして、見学に行ってみるのもよいでしょう」
企業主導型保育所の考えられるデメリットは?
――会社と保育所が近いので、いざというときに駆け付けやすい、など利用者のメリットがいわれていますが、デメリットはどういったことでしょうか。
「自身が勤務している会社がやっている保育所ということで、親が安心しきってしまい、保育の質に問題があっても発見が遅れる可能性があります。勤務先まで連れていくのが大変だという声もあります。
また保育の質に問題があっても“認可保育所に落ちたので育児休業を延長したい”とは言いだしづらいかもしれません。残業を求められたとき、保育所と勤務場所が同じ場合には“子どものお迎えがあるので”と、断りにくいと思います。一方、親の多様な働き方を企業が認めてくれるのであれば、大変使いやすい保育所にはなるでしょう。
そして企業主導型保育所は、待機児童解消のための措置なので、3歳児までが対象です。3歳になる前に、また保活をしなければいけないので、面倒に感じるママもいるかもしれません」
発見がたくさん!海外の保育園事情
――海外の保育所の状況を教えてください。
「日本のように施設によって助成金や保育の質の格差が出ないような工夫がされている国が多いと感じています。
たとえば、スウェーデンでは、面積基準や人員配置基準などについて国は何も定めておらず、保育所の設置は、日本ほどハードルが高くないので多様な経営主体が参入しているのです。その助成金は、公立保育所と一緒ですが、保育所の質は定期的にチェックされています。
ニュージーランドには、0歳児からの保育園、3歳からの幼稚園、親が運営する幼児教育施設などがありますが、施設の種類にかかわらず、子ども1人に対して1時間あたりいくらという助成が決められています。保育者に関しても、全員が有資格者ではなく、多様な人々がチームで保育を行っています。
驚いたのは、海外では“いつでも保育見学が可能”という考え方があること。園としてはいつ親が来ても大丈夫にしておかなければならないので大変ですが、それによって保育の質が確保できると考えられています。
親の不安も解消されます。保育施設を定期的に国の機関がチェックして、その評価をウェブで公表して情報提供している国もあり、親が保育施設を選ぶ際の貴重な情報源になっています。日本でも積極的に保育情報を公表すべきだと思います。
これからは保護者の力も大切になります。子どもたちが安心して楽しい保育時間を過ごせるように、親も保育者と一緒になって、質の高い保育所を作っていくべきだと思います。
“保育園落ちた、認可に入れない”ではなく、保護者が集まって理想の保育所を作る。日本でも、そんなアクションがあってもいいと思います」
実際に、認可に落ちた母親らが保育所をオープンするなどの動きも出てきています。
働きながらの育児は大変ですが、子どもにとっても、親たちにとっても、安心・安全できめ細やかな保育所が増えればいいと思います。