前回までのお話
null熊谷さん一家は、夫・未来男さんと妻・千恵さん、一人娘のちおりちゃんとの3人家族です。
新潟で生まれ育った千恵さんと、石垣島で育った未来男さんは、八重山諸島の西表島に隣接する小さな由布島で知り合いました。千恵さんの故郷、新潟で暮らしはじめ、古民家を購入! コツコツ自分たちで家を作りながら暮らしていました。ところが、体調を崩してしまい、ふたたび南の島へ。縁があって、竹富島でお店を開くことになりました。お店をはじめてから、どのような暮らしが待っていたのでしょうか。
島の人たちに心配をされながらも
null竹富島は、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。そのため、外壁一つ変更するのにも許可申請が必要です。暮らし始めた頃は、外に洗濯置き場を作ることもためらっていました。
「洗濯は島の方から『大丈夫だよ〜』と言ってもらってほっとしました(笑)。看板一つ置くのにも申請が必要ですが、『お店をやりたいんです』と話すと『お〜、やったら良いよ〜』ってアッサリした反応で驚きました」と、千恵さん。
また、島には「御嶽(うたき)」と呼ばれる、地元の方にとっての聖域となる場所が28カ所もあることに驚きました。神様に仕えることを任命された人だけが入れる場所です。
「島のみなさん、神様や伝統、暮らしている土地を大切にしているんだなあと感じました。『若いのがきたぞ』と、40代は若者扱い。色々な行事の手伝いに駆り出され、忙しいなあと思うことはあっても、嫌な感じはないんです。野菜を分けてもらうなど、親切にしてもらっています」(未来男さん)
お店をするのは、お父さんを始め周囲の人からは「うまく行かないんじゃないか」と心配されました。島へ引っ越した当初は、「うちで働かない?」と声をかけてもらうことも多くありました。
「来たばかりの私たちに声をかけていただいたのはありがたかったです。それでも、お店と他の仕事を掛け持ちすると、どちらも疎かになってしまいそうで。まずは半年か1年か、お金が尽きるまでは自分たちで頑張ってみようと決めました」
自分たちのペースで、仕事も子育ても
null竹富島に来る前、新潟で体調を崩していたため、仕事では「無理をしない」ことを決めていました。娘のちおりちゃんが小学校へ行っている間の時間に、お客さんの対応をしながら、制作活動をしています。少しでも具合が悪そうだったら横になるなど、自分たちのペースを優先しながらの暮らし。未来男さんの体調も良くなっていきました。
海で流木やシーグラス、貝殻やサンゴを拾うのも仕事の一部。店内や敷地内には未来男さんお手製の棚や看板が並びます。
お店を始めると、型染めへのお客さんの反応が良く、徐々に軌道に乗っていきました。はじめは未来男さんのお父さんからもらった型を使って作っていましたが、少しずつ未来男さんと千恵さんも型のデザインから作るように。カラフルで繊細なモチーフは見ているだけでワクワクしてきます。
また、島にやってきたときに3歳だった娘のちおりちゃんにも変化がありました。春には小学生になり、毎日元気に小学校へ通っています。
「どちらかというと、おしとやかだったのがどんどんアクティブに、たくましくなっていきました。島の保育所は、少人数で異年齢の子たちで一緒に過ごします。行事を見ても、活躍の場面が多かったり、親だけではなく地域の人も参加したり、楽しいなあと思います! 島内に知っている方ばかりなので、外にいても声をかけてもらえて安心感があります」
コロナ禍での新たな変化
nullコロナ禍でお客さんがほとんど来ない日が続き、通販にも本格的に力を入れるようになりました。流行っていたアマビエの型染めを出してみたところ、思わぬ人気をよび、1日中アマビエの制作をしているような状況に。次に「ハシビロコウ」がハンドメイド好きの人たちの間で人気があると聞き、作ったところこれも人気になりました。実際に島に来た人たちには、水牛など竹富島らしいモチーフが人気です。
状況を見ながら、お店を開けたり閉めたりを続け、ネットショップと実店舗のバランスがよくなっていきました。収入面も安定してきたと言います。その時々で柔軟にスタイルを変えることで、ピンチをチャンスに変えてきた2人。お店を始めるときも、ネットショップを始めるときも、2人それぞれのこれまでの経験が役に立ちました。
今までの経験が繋がった
null「昔からものづくりで生活をしてみたい、自分のお店を持ちたい、とぼんやりと思っていました。沖縄では旅人みたいな生き方の人に多く出会っていたので、私たちみたいなふらふらした生き方も普通だと思っていたのですが……。以前新潟で仕事の面接を受けたときに、私の転々とした職歴を見て厳しく突っ込まれたことがあって、自分はダメ人間なのかも……と落ち込んだこともありました」
雑貨屋での接客、ハンドメイド作品の通販、古民家での暮らし。流れるように生きてきた経験が、自分たちでお店をするようになって、全て生きていると話します。
「ただ、娘には大学までできれば行ってほしいかな。広い世界を見て、人との繋がりも大切にしてほしいと思っています」と、“繋がり”の大切さを身をもって感じているお2人ならではの温かい子どもへの想いでした。
片岡由衣
ライター。東京都出身、竹富島在住。朝日新聞社のメディアや企業サイトなどで取材記事やコラムを執筆。東京学芸大学卒業後、星野リゾートにて広報やイベント企画に携わる。
3人の子育てを発信を続けるうちに専業主婦からライターへ。
積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた、児童館のような家で暮らしています。Instagramアカウント@yuuuuui_mom