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流れるようにやってきた竹富島。夫婦2人で夢だったものづくりを仕事に【竹富島で暮らす人々#3前編】

沖縄県竹富島在住のライターが、島で出会った人々の暮らしをご紹介する連載「竹富島で暮らす人々」。竹富島は、石垣島からフェリーで10分の場所に位置する、人口およそ350名の小さな離島です。

今回は、「手作り工房KUMA」をご夫婦で営む、熊谷未来男(くまがいみきお)さん、千恵(ちえ)さんご夫妻にお話を伺いました。


竹富島の西集落、水牛車が通る場所にある小さな赤瓦の古民家。そこに熊谷夫婦の自宅と工房を兼ねている店舗があります。

店舗の外観。石垣の手前に毎日水牛車が通る

お店に入ると、オリジナルデザインの型染めグッズや、竹富島のサンゴやシーグラスを使ったジェルキャンドル、沖縄の生き物をモチーフにしたオリジナルのバッグやTシャツが並んでいます。それらはお2人でのんびりと作っていて、通販も行い、全国各地にファンがいるそうです。

1点1点型染めで模様をつけたバッグ

「ここに来るまで、すごくフラフラしていたんです」と笑いながら話すご夫婦。竹富島でお店を開くことになった経緯や、ご自身の暮らしを大切にしながら仕事に取り組む日々のすごし方とは……。

自然に魅せられ、新潟から八重山諸島へ

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千恵さんは、新潟県上越市の出身。高校3年生の頃に童話コンクールで入賞し、童話作家に憧れ、働きながら夢を追っていました。ところが、書くことは挫折。雑貨店で勤めながら、趣味のハンドメイド作品を販売したり、友人のネットショップを手伝ったり、色々な仕事をしていました。

新潟から出たことがなかった千恵さん。30歳になる頃、屋久島へ一人旅をしたことが転機となります。「屋久島の自然のなかでもっと過ごしたいと思い、リゾートバイトを探しました。屋久島では見つからなくて、じゃあ沖縄に行こうと、小浜島へリゾートバイトに行くことになったんです。来てみたら人も自然も心地よく、とても楽しく過ごせました」

小浜島は、八重山諸島の一つで、竹富島の隣にある島です。任期が終わり、次は西表島から水牛で渡る、由布島(ゆぶじま)で働きはじめました。由布島は島全体が亜熱帯植物園になっている人気の場所。そこで未来男さんと知り合うことに。

そして由布島で働いたのち、石垣島で2人での生活を始めました。石垣島ではリゾートバイト時代のような友人ができず、千恵さんは徐々にホームシックに。加えて未来男さんが長時間労働で体調を崩したことが重なり、千恵さんの故郷・新潟へ行くことを決めました。

「古民家を買っちゃった」千恵さんの驚きの行動

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新潟では、娘のちおりちゃんが生まれるまで、未来男さんは農場、千恵さんは工場で働いていました。ある日、未来男さんが畑にいると、千恵さんと不動産屋さんが近所の古民家へ入っていく姿が見えて……。

「え、あの人何してるの!?と驚きました。その日家に帰ったら『契約しようかな』って言うんです」(未来男さん)

千恵さんが、築100年の大きな古民家を勢いで購入したのです。

「Tシャツを買う、みたいな小さなことだとすごく優柔不断なのに、思いついたら突然行動しちゃうことがあります。軽自動車1台分くらいの値段だったので、自分たちで改装したら絶対良くなる!と思って、買っちゃいました」(千恵さん)

それからは、壁の漆喰を塗ったり、必要な棚をDIYしたり、コツコツとリフォームしながら暮らす日々。そんな汗をかきながらの暮らしは楽しかったと振り返ります。

ところが、娘のちおりちゃんが生まれ、未来男さんが転職した頃、仕事のストレスからか、未来男さんが鬱を発症してしまったのです。

竹富島の家を一目見て「ここでお店をやろう」

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ご主人の未来男さんは、石垣島育ち。新潟は冬の寒さが厳しく、石垣島の気候の方が体調も良くなるかもしれないと、石垣へ戻ろうと考えました。なかなか家が見つからずにいたところ、以前、未来男さんのお父さんが竹富島で暮らしていた縁で、竹富島の家を紹介してもらえることになりました。

「父は、石垣島を中心に雑誌や絵本の挿絵を描くイラストレーターをしています。昔1年ほど、竹富島で家を借りて住んでいたと聞いていて。家の持ち主に連絡してもらったら『熊谷さんの息子なら良いんじゃない』とトントン拍子に話が進みました」(未来男さん)

竹富島には、賃貸業者はなく、人づてで借りたり、社員寮に入るような形で暮らし始める方がほとんどです。引っ越しを本格的に決める前、下見に来たときに、竹富島の赤瓦屋根の古民家を見て、千恵さんがひらめきます。

「家を見たときに、『ここでお店をやったら良いんじゃない?』と、思いうかびました。雇われて働くのは向いていないんじゃないかと思っていたのもあって、マイペースにできる仕事がいいよねって2人で話して。そこから何をするのか、必死で考えました」(千恵さん)

未来男さんと千恵さんが作るジェルキャンドル

新潟へ戻り、ジェルキャンドル作りの試作を始めました。型染めは以前竹富島でお父さんが暮らしていたときに作っていたもの。「せっかくだから型染めもやってみよう」とオプションのような気持ちで、型染めも始めました。

型染めは、型紙の上から筆やスポンジで色を乗せて染色します

こうして、竹富島でお店を始めることになった2人。強い意思を持ちながらも「無理はしない」と決めていたと言います。お店や暮らしはどうなっていくのでしょうか? 次回へ続きます。


片岡由衣

ライター。東京都出身、竹富島在住。朝日新聞社のメディアや企業サイトなどで取材記事やコラムを執筆。東京学芸大学卒業後、星野リゾートにて広報やイベント企画に携わる。

3人の子育てを発信を続けるうちに専業主婦からライターへ。
積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた、児童館のような家で暮らしています。Instagramアカウント@yuuuuui_mom

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