竹富島で民宿を営む巧さん・彩花さん
null竹富島の西集落へ行くと、白いサンゴの砂が敷き詰められた道や赤瓦屋根といった沖縄らしい景色に加え、水牛車から三線の音が聴こえます。竹富島の集落は伝統的建造物群保存地区になっているため、歴史的な街並みが残っています。
ブーゲンビリアのアーチが印象的な「民宿泉屋」は竹富島で50年以上続く、全国各地にリピーターのいる民宿です。
竹富島出身の上勢頭巧さんと、静岡県出身の彩花さん。近所で暮らす、巧さんのお母さんと3人で民宿を経営しながら、3歳のはなちゃん、1歳のいつきくんの2人の子育て中でもあります。
私が夕方海へ行くと、ご家族で遊んだり夕ご飯を食べているところを見かけます。そんなご家族の日々の暮らしで大切にしているものとは。
いずれ島に戻ろうと決めていた
null巧さんは、3人兄妹の真ん中生まれ。子どもの頃、ご両親は忙しい日々の合間に海へよく連れて行ってくれ、夏休みには親戚が持つ船でシュノーケルをすることもありました。島の暮らしの中でできることをしてもらったと、懐かしそうに話します。
人口300人の離島、竹富島には高校はなく、隣にある石垣島の高校へ進学する友人がほとんど。ところが、巧さんは飛行機の距離にある沖縄本島の高校を選びました。将来は島に戻ってくることを意識していたといいます。
「民宿を継ごう、というよりは、子育てを島でしたいなあと思っていました。島に戻るのは大前提だけど、まわりの先輩たちも見て、沖縄の外に1度は出ようと思って。大学は県外に行きたかったので進学の選択肢が広がるかなと本島の高校を選びました」
高校では多くの同級生が受験のため塾へ通う中、寮生は外の塾には通えない、という決まりがありました。「どうしたら良いか?」と考え、友人と協力し、高校の先生を寮に呼び勉強を見てもらうことに。努力のかいあって県外の国立大学へと進学します。
「島にはないものがたくさんありました。だからこそ、ない中でどうしたらいい?と工夫するという考えが身についたのかもしれません」
島の伝統文化を担う世代として
null大学4年生になり、沖縄本島のリゾートホテルへ就職が決まります。ところがここで転機が。就職先のホテルが廃業になってしまったのです。大学4年生で、就職先も決まっていないなか、休学して一度竹富島へ戻りました。
「島には外で働いてから戻りたかったので、こんなに早く戻ることになるとは思っていませんでした。実家の民宿を手伝いながら、ふと、島出身の20代は僕しかいないことに気がついたんですよね」
竹富島では1年を通して多くの祭事があり、島最大の祭は600年の歴史があり国の「無形民俗文化財」にも指定されています。島外出身の方も参加しているものの、伝統文化を引き継いでいくには島出身の若者の力も必要だと実感します。小さな頃から伝統に触れて育ち、踊りや狂言(キョンギン)を見て、聴いて、実際に舞台に上がりながら育ってきました。
「踊りや歌は子どもの頃から好きでした。ただ、誰から言われたわけではないんですけど、島を出て大学まで行ったのに、民宿で働いていることへの後ろめたさのようなものも感じてきてしまって」
こうして、いずれ島へ戻ることを決めながら、沖縄本島のホテルで数年働き社会人経験を積んだ巧さん。ふたたび島へ戻るころには、結婚を意識していました。
竹富島での子育てとは
null巧さんの妻、彩花さんは、東京都内のアパレルショップで働いていました。結婚して島で暮らすことへの抵抗はなかったのでしょうか。
「上京して10年近く東京で暮らして、若い頃は刺激的で楽しかったけど、近所の人の顔もわからない暮らしへの違和感がありました」
島に縁のある方の紹介で知り合ったお2人。結婚前は、お試しで1年間島で暮らし、迷うことなく結婚しました。今でも、都会が恋しくなることはあまりないと話します。
「自然の中で子育てをできて嬉しいと思うし、県外へ帰省したときも、島に戻ってくるとほっとします。こんな海で毎日遊べるのは贅沢ですよね」
彩花さんはものづくりが好きで、民宿の敷地内で巧さんのお母さんと小物作りのお店も営んでいます。お店に立ちながら、商品を作ったり、子ども服を作ったり。近ごろは島の植物を使った民具づくりを、近所に住む民具作りが得意な知人から教わっています。
「バッグなどを教えてもらいながら島の植物で作っています。編む前に何週間も植物を干したり、割いたり、編むのはご褒美タイムだって師匠が話していました。完成までに時間も手間もかかり、昔の人たちはすごいなあと感じますね」
のんびりとしたイメージの島の暮らし。ところが、実際の暮らしには大変なこともあったとか……? (次回へ続く)
片岡由衣
ライター。東京都出身、竹富島在住。朝日新聞社のメディアや企業サイトなどで取材記事やコラムを執筆。東京学芸大学卒業後、星野リゾートにて広報やイベント企画に携わる。
3人の子育てを発信を続けるうちに専業主婦からライターへ。
積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた、児童館のような家で暮らしています。Instagramアカウント@yuuuuui_mom