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2021年版のエンディングノート【ママはキミと一緒にオトナになる vol.17】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第17回。今回は、2021年版のエンディングノートを作り、4年生になった息子とそれを次々に実行に移している中での、エピソード。

一度もやったことがなかったことをやろう

新学期が始まった。
息子氏も、ついに4年生になってしまった。

“なってしまった“と書いたのは、先輩ママやパパたちから、
「男の子の親離れは早いよー。今のうちに楽しんでおきなよ」
「4年生くらいになったら、もう、ママとなんか遊んでくれなくなるから」
という言葉を浴びるほど聞いていたからだ。

2021年が始まった時、あれ? 4年生ってあともう3カ月じゃない? と思って、私は猛烈に焦った。

コロナ禍という事情はあったけど、2020年はほとんどどこにも行けなかった。
このままさっくり親離れされちゃうと、あれもできなかった、ここに行っておけばよかったと、後悔することになるんじゃないか。
そう思ったんです。

そんなことを考えているとき、私自身が45歳の誕生日を迎えた。

私は35歳で出産したので、当時は「彼が10歳になるときに私は45歳、ハタチになるときに私は55歳。はあ〜、長い道のりだなあ」なんて思っていたけれど。
想像上では遠い将来に思えていた「息子10歳×私45歳」の組み合わせが、あっという間に来たわけです。
これ、ボヤボヤしてたらきっと、「20歳×55歳」もすぐきちゃうんじゃない?
そう思ったら、誕生日当日に、ものすごく焦った。自分でも驚くほど、ジタバタ焦ったのです。

焦った私は、エンディングノートを書くことにした。

いやまだ死ぬつもりはないのだけれど、でも、少し命に期限をつけないと、日常に流されてやりたいことがどんどん後回しになる。
ちょうどドラマ「俺の家の話」で、西田敏行さんがエンディングノートを書いていたことにも影響された (単純)。
とりあえず、2021年版のエンディングノート、作ろう。2021年が終わったときにまだ生きていたら、2022年度版を作れば良い。

書き出しながら、「とにかく毎週ひとつ、これまで一度もやったことがなかったことをやろう」と決めた。
とくに、これまで息子氏から「ここに行きたい」とか「これをやりたい」と言われたことのある項目には、二重丸をつけた。

「最初に一番怖いのに乗る」

エンディングノートに書き出したことは、いま、着々と遂行されている。

たとえば、一緒に遊園地に行ってジェットコースターに乗る。

これは、エンディングノートを書いた次の週に実現させた。
いや、正確に言うと、遊園地には一緒に行ったけれど、ジェットコースターには、一緒に行った友人に乗ってもらった。

というのも、息子氏が
「ぼく、これまでジェットコースターに乗ったことがないでしょ。だから、一回乗って怖かったら心が折れちゃうと思うんだ。なので、最初に一番怖いのに乗る」
と宣言したからだ。
その言葉を聞いた大人たちは一様に、「なんか、息子氏、深いこと言ってるね」と感心したのだが、ちょっと待て。

みなさん、ナガシマスパーランドの白鯨って知ってますか?
あの、90度直角に落ちるやつです。
まさか、最初からアレに乗りたいって言うと思ってないから、私の方に覚悟がない。もうちょっとノーマルなヤツだと思ってたわけですよ。ムリだ、ムリってなったので、友人に託しました。

日本でも有数のジェットコースターを攻略した彼は、「めちゃくちゃ怖かったー!」と言いながらも、得意げだった。
友人も「途中でやっぱりやめたって言うんじゃないかと思ってたけれど、頑張ったなー」と褒めてくれた。
「いや、途中棄権とかナシでしょ!」 と言う彼の顔を見ると、鼻の穴が少しふくらんでいる。かわいい。

「ライオンキングを見る」も、エンディングノートで二重丸した項目だった。
最初に「ライオンキングが見たい」と言われたのは、小学校1年生の時だった。言われるたびに、「うんうん、いつか行こうね」と適当に答えてきたやつ。

結論からいうと、休日のライオンキングはチケットが取れなかったので、キャッツで代替した。が、キャッツはちょっと、子どもには難しかったようだ。

前半が終わって幕間の休憩になったとき、
「ねえ、ママ、これってどのあたりから面白くなるの?」
と聞いてきて、その声が意外と響いてしまったので、周囲にいる大人たちは笑いをこらえていた。劇団四季のみなさん、すみません。

全編終わって駅に戻る途中、彼は
「ママ、やっぱり僕は、ライオンキングが見たい」
とだけ、言った。
うん、ごめん。次はライオンキングにしよう。
エンディングノートに
「ライオンキング、そのものを、見る」
と、書き足す。二重丸。

「失敗したときにめげないこと」

最近、2人でハマっているのが、ボルダリングだ。
YouTubeでその存在を知った息子氏が、これをやってみたいと言い出した。事前に私一人で見学に行って試しにのぼってみたら、すごく気持ちいい。さっそく二人でジムを訪ねた。

一度目のトライの時は、こちらが恥ずかしくなるほど、ブーブー文句の言いっぱなしだった。
何度挑戦してものぼれないルートがあると、
「ママや大人の人たちは手も足も長いからいいけど、僕は子どもだから、届くはずがない」
と、すねる。
インストラクターの人に
「そんなことないよ。同じくらいの身長の小学生でも、のぼれる子もいるから、体の使い方しだいなんだよ」
と言われて、むくれる。

もうやらないと言うかなと思ったのだけれど、次の日の朝、起きてきてすぐに
「また行きたい。のぼれなくて悔しかった」
という。

二度目に連れて行った時は、もう、全然泣き言を言わなかった。下から何度もルートを確認して、前回のぼれなかったところを、ひとつずつ攻略していく。

難しい課題では、
「ここでどうしても落ちちゃうんですけれど、どこに足をのせたらいいですか?」 と、上級者の人に質問をする。
先週とは別人だ。

次の日の朝、起きてくるなり彼は、
「ねえママ、生きているうちですごく大事なのは、失敗したときにめげないことだと思うんだ」
と、言った。
「ボルダリングの話?」
と聞いたら、彼はちょっと考えて
「今、思いついたんだけれど、そうかもしれない」
と答える。

世紀の大発見をしたときのような顔をしている。
なんだかこちらまで嬉しくなる。

「お母さんって呼ぼうかと思う」

4年生の始業式を終えて帰ってきた彼は
「ねえ、ママ、ひとつ思ったことがある」
と、話しかけてきた。

「なに?」
と聞くと
「もう4年生になったし、ママって呼ぶのはやめて、お母さんって呼ぼうかと思うんだけど」
と言う。

あ〜。先輩のママ&パパたちが言っていたのは、こういうことか。
彼は、ついに、4年生になってしまったのだ。

「ヤダ。なんかさびしい」
という言葉をぐっとのみこんで
「そっかー。わかった」
と、伝える。

それから数日経つけれど
「ママー! あ、間違った、お母さーん!」
と、何度も言いかえているのが、かわいい。
そのうち、そうやって間違えることも減っていくのだろう。
いつか
「うるせえ、クソババア」
とか言うようになるのかな。
まあ、なるんだろうな。何年後くらいかな。

そんなことを考えながら、まだまだたくさん残っているエンディングノートのリストを眺めています。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第17回は4月25日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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