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この1年で一番、勇気をふりしぼった日【ママはキミと一緒にオトナになる vol.16】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第16回。今回は、今年度の大変な1年、PTA役員をやってきた中で感じたことから。

本当に、大変な一年だった。

今年度最後の学年保護者会。zoomには100人近くの親がログインしていた。
あらゆることがイレギュラーだった令和2年度。リアルな保護者会は、結局一度も行われず、すべてオンラインでのやりとりとなった。

画面の向こうでは、クラス担任の先生が、今学期に子どもたちが取り組んだ勉強について説明してくれている。

小学3年生にもなると、ずいぶん難しいことも習っているのだな。今年度は授業参観がなかったので、いつも以上に興味深く感じる。
隣のクラスの先生は学期途中で妊娠がわかったそうだ。それをクラスで伝えたところ、子どもたちがその後ずいぶん身体をいたわってくれて嬉しかったという話をしてくれた。
なんだか、ぐっとくる。

最後に、保護者を代表して、クラス委員のお母さんが先生たちに感謝のことばを伝えた。とおり一辺倒ではない、とても心のこもった挨拶だった。

「こんな大変な一年間、子どもたちを安全に楽しく導いてくださって、本当にありがとうございました」

ああ、本当だ。本当に、大変な一年だった。
彼女の言葉を聞いて、私自身が、この1年で一番勇気をふりしぼった日のことを思い出した。

PTAの役員だからこそ、見えた景色

実はこの1年間、私はPTAの役員をしていた。

結論からいうと、役員を引き受けた1年前の自分をぽかぽか殴りたいくらい、大変だった。
1年前に戻れるなら、絶対に、やらない。
もうありとあらゆる人たちに迷惑をかけながら、この3月31日の任期満了を待ちわびていた。それくらい、私には荷が重かった。

でも、PTA役員をさせてもらったからこそ見えた景色は、本当に得難いものだった。とくに、コロナに振り回されたこの期間。
この1年を、ほんの少しだけ学校の内部事情を知りながら過ごすことができたのは、幸せなことだったと思う。

以前も書いた(今日も、気をつけて 【ママはキミと一緒にオトナになる vol.11】)が、先生がたがどれだけ子どもたちのために時間を割いて考えてくれたのかがわかったし、現場でどんな工夫をしてくれていたのかも、一部ではあるけれど垣間見ることができた。
先生がたの活動を知るにつけ、リスペクトの念は、この1年でものすごく高まった。

「親の満足度」を上げるための仕事

そんな渦中のことだ。
久しぶりに、頭にカーッと血がのぼる経験をした。

たまたま、小学校の先生がたがコロナ禍でどのような活動をしたのかを報告しあう会を取材することになった時のことだ。

会に先立って子どもたちとその保護者にアンケートが行われており、そこではコロナ禍の学校でも、子どもたちは毎日を楽しいと感じて登校していることが数字で示された。

しかし一方で、親に関しては「学校が何をしているかわからない」「自分の子どもが学校生活を楽しんでいるのかわからない」という回答が前年を大きく上回った。

そのとき、その場に参加していた年配の元教育関係者が、データを見ながら発言をした。

「子どもの評価が高いのは結構なんだが、『自分の子どもが学校の授業を楽しんでいるか』という項目の点数が、昨年に比べて、ずいぶん低くなっているよね。こんなに数字が低いのは、先生がたの怠慢じゃないか。研究授業とか、ちゃんとしているのかね」
と、一喝したのだ。

ある先生が、
「確かに、我々の努力不足もあるかもしれませんが、今年はコロナで一度も授業参観できていませんので、親御さんの『わからない』という回答が昨年の数倍になっているんです。今年は研究授業も開催できず……」
と答えたのだが、

「いやいや、面白い授業をしていれば、子どもはおのずと家で『今日、こんな授業があった』と話すはずだよ」
と、説教が続く。

それまで
「コロナで大変だけれど、子どもたちのために、これからも情報交換しながら頑張りましょう」
と前向きだった先生がたは、みんな下を向いている。

過去に取材したことがある顔見知りの先生がいたのだが、彼女は涙をこらえているように見えた。
「自分が感染源にならないように、もう、半年以上、友人にも両親にも会っていません」と話していた先生だ。
どうして、現場で必死に働いている先生がたが、隠居生活で今の事情も知らない人に恫喝されなきゃいけないんだろう。
私は、それぞれの発言をメモしながら、悲しい気持ちになっていた。

微妙な空気のまま、会はお開きになろうとしていたのだが、最後にと、主催者の方が取材に参加していた取材者たちにも感想を求めてくれた。

この仕事を任せてくれた編集さんの顔がちらっと思い浮かんだ。私が生意気な発言をしたら、編集部に迷惑をかけるかもしれない。
でも、ここで何か言えないくらいなら、あとからどんないい文章を書いたって意味がない。そう奮い立たせて、話した。

「取材者としてではなく、一人の息子を小学校に通わせている母親として発言させていただきます」
と前置きして、私はその時に思っていることを、話した。

「私は今年、子どもを学校に通わせていて、先生がたが、子どもたちの命を守ってくれていることだけでも心から感謝しています。
それだけでも感謝すべきことなのに、子どもたちが、この大変な状況下『学校が楽しい、授業が面白い』と感じていることは、本当にありがたいことだと感じています。

親がのぞむのは、子どもたちが楽しいと感じて学校に通うことです。ですから、私たち親の満足度をあげるために余計な仕事を増やさないでもらっていいと私は思っています。

とにもかくにも、先生がた、お体に気をつけて、これからも私たちの子どもをよろしくお願いします」

その言葉が、どんなふうに受け止められたのかは、わからない。

会がお開きになったあと、帰り際、何人かの先生が、
「佐藤さん、さっきは、ありがとう」
と、声をかけてくれた。
顔見知りの先生も声をかけてくれた。
「ありがとうございます。救われました」
彼女はやっぱり、泣いていた。

保護者会の最後に…

このことを思い出したのは、保護者会の最後に、クラス委員の人が
「こんな大変な一年間、子どもたちを安全に楽しく導いてくださって、本当にありがとうございました」
と話したからだ。

ああ、あの時、勇気をふりしぼって話してよかった。そう思った。

彼女の挨拶が終わると、示し合わせたわけでもないのに、それまで画面をオフにして参加していた保護者たちが続々と画面をオンにしはじめた。
パソコンの画面につぎつぎといろんな顔がうつっていく様子は、どんどん花が咲いていくようだった。

画面に向かって頭を下げる保護者、子どもと一緒に手をふる保護者、子どもを呼んで画面に入るように伝える保護者……。

私も、部屋にいた息子氏に
「先生に、ありがとうのご挨拶しよう」
と伝え、2人で画面におさまりパソコンのカメラに向かって手を振った。

その様子を見た先生方が、全員の顔を表示しようと、一生懸命パソコンの画面を切り替えている。
妊娠を報告してくれた先生は、ちょっと涙ぐんでいたように見えた。

誰とも会えなかったけれど、みんなが一同に会したこの保護者会のことを、私はきっとずっと忘れないだろう。

先生、この一年間、本当にありがとうございました。
4月からも、子どもたちのことを、どうぞよろしくお願いします。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第17回は4月11日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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