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できるようになったこと【ママはキミと一緒にオトナになる vol.10】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第10回。今回は、子どもを産んだことで生じた、さとゆみさんの心の変化のおはなし。
今年もご愛読のほど、よろしくお願いいたします!

誰のことも、嫌いになれない

「ねえ、ママ。ママは、ぼくがいなければいいのに、って思うことある?」
突然、息子氏(9歳)が、そう聞いてきた。

つい先日、ダッシュで2人分のお夕飯を作っていた時のことだった。
日中、思ったほど原稿が進まず焦っていた私は、がちゃがちゃと音を立てながら、テーブルにお皿を並べていた。

たしかに私、「ああ、一人だったら、ご飯も作らなくていいのにな」と、一瞬思ったのかもしれない。そういう空気のひりつきに、彼はとても敏感だ。

「ごめん。なんかママ、イライラしていたかもしれない」
私は、頭を下げる。
「でも、息子氏がいなければいいのにって思ったことは、キミが生まれてから一度もないよ」

・・・・・・・・・・

そう。
子どもが生まれる前は、「出産したら、きっといろんなことができなくなるんだろうな」と思っていた。

仕事をセーブしなきゃいけないだろう。
自由な自分の時間も、きっと減るだろう。
諦めなきゃいけないこと、増えるんだろうな。
って。

でも、実際に子どもが生まれてわかったのは
「確かにできなくなったこともあるけれど、それ以上に、できるようになったことの方がずいぶんと多い」
ということだった。

これは、私にとって、驚きの誤算だった。

たとえば、できなくなったことは、
朝までカラオケで飲み明かすことだったり、
ヒールの高い靴でミニスカートをはくことだったり(ママチャリに乗れない)、
取引先の携帯電話のコールに3回以内に出ることだったりした。

でも、よく考えたら、それって、無理してやらなきゃいけないことでもなかった。
唯一の例外は「朝まで起こされずにゆっくり眠る」こと。これは、できなくなって残念なことNo.1だったけれど、それだって、2年もしないうちに「できること」の方に戻った。

一方で。
そんな「できなくなったこと」や「難しくなったこと」を補ってあまりあるほど、「できるようになったこと」のほうが、多かった。

この「できるようになったこと」を口で説明するのはちょっと難しい。

たとえば、私、ちょっぴり性格がよくなった。

子どもが生まれる前の私は、そうとう嫌なヤツだったと思う。いつだって、自分のことしか考えていなかった。

フリーのライターになってからは、
「あの先輩ライターさん、結婚か出産で休んでくれないかなー。そうしたら、私があのレギュラーの仕事、奪うのに」
と、毎日思っていた。

仕事でスタッフがミスしたときは
「マジで勘弁してよ。あんたのミスのせいで、私まで仕事できない人みたいに見えるじゃん。この人とは、二度と組みたくない」
と、本気でぷんぷんしていた。

でも、子どもが生まれてからは、なにか、心持ちのようなものが変わった。
「ああ、この人にも親御さんがいるんだよなあ。きっとその親御さんが、大事に大事に育てられたんだろうなあ」
とか
「きっと、いい人と出会って、幸せな人生を送ってほしいと祈って、社会人になるまで育てたんだろうなあ」
と、勝手に想像してしまうようになったのだ。

そう考えたら、もうダメだ。
誰のことも、嫌いになれない。
誰のことも、大切にしたいって思ってしまう。

この頃、
「子どもが生まれて、驚くほど丸くなりましたね」
と、よく言われた。

「ごめんね、ママが間違ってた」

子どもが生まれて、できるようになったのは、それだけではない。
たとえば、人に、頼れるようになった。
そして、人に、謝れるようになった。

人に謝れるようになったのは、完全に息子氏の影響だ。

彼が小学校に入学した頃のこと。
それまで、素朴で従順で、「かわいい。かわいい。本当にかわいい」以外の感想を持ちようがなかった息子氏の態度が、急に変わった。
こんな時期に反抗期がくるなんて聞いていないと思ったほど、毎日喧嘩ばかりだった。

売り言葉に買い言葉。子ども相手だとわかっているのに、本気で怒鳴ってしまう。

いや、喧嘩になっているときは、まだマシだ。

ときには、私の顔を一瞥して、「いや、もういいや」と言う。「ママのしたいようにすれば」と言われたこともある。そして、この件に関して私を「話す価値のない相手」とみなして、何も話さなくなる。

大声で泣き叫びながら反論してくるのもめんどうだし参るけど、会話をシャットダウンされると、もっとこたえる。

そして、どうしてこうなっちゃったんだっけと元をただすと、大抵の場合、彼のいう「ママはぼくの気持ちをぜんぜんわかってない」が正しくて、私が「ごめんね、ママが間違ってた」と、謝る羽目になる。

仕事でのミスはともかくとして、プライベートでは、
私は、「ごめんなさい、私が間違っていました」と、誰かに言った経験が、ほとんどない。

これまで、とても頭でっかちに生きてきたので、しかも無駄に弁が立つタイプだったので、いつも会話で人を言い負かしてきた。
会話とは、キャッチボールではなく、相手から三振を取ること、もしくはヒットやホームランを打つことだと思いこんでいた節すらある。

だから、過去発した「ごめんなさい、私が間違っていました」のうちほとんどは、ここ数年の間に息子氏にむかって言った言葉だ。

でも、ひとたび
「ごめんなさい」とか、「そうか、そういう考えもあるよね」とか、「自分のことばっかり考えてたね」とか、「私が悪かった」とかを口に出すと、
それは「負け」でもなんでもなくて、むしろ、新たな気づきでしかなくて、とても素敵なことなんだと思うようになってきた。

そして、彼に指摘されて、自分がいかに詭弁や矛盾が多い人間かを自覚するようになってこのかた、他の場面でも、「あれ? 私、ほんとに相手のことを考えて話してるっけ、いま」と、立ち止まることが多くなった。

彼以外の相手にも、自分のことばかり考えてごめんなさいと、いう機会が増えた気がする。

キミと出会ってから。
ママは、キミと一緒に、少しずつオトナになっている。
そんな気がするよ。
キミと出会えて、よかった。

今年もどうぞ、よろしくね。
ときどき喧嘩もするかもしれないけれど、なるべく仲良く助け合っていこうね。

 

タイトル画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第11回は1月17日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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