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「キミを守る」と誓ったけれど【ママはキミと一緒にオトナになる vol.5】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第5回。今回は、さとゆみさん家族がこの春迎えた大きな転機について。

「僕はパパについていく」

今年の春、離婚をした。

話し合い自体は昨年の夏から続いており、その間、息子氏(9 歳)は、ずっと
「僕は、なにがあっても、家族3人で暮らしたい」
と言っていた。

双方の離婚届の判が出そろった最後の夜には
「もしどうしても離婚するなら、僕はパパについていく」
とも言った。

仕事が忙しく、24時間臨戦態勢のパパについていくことが現実的でないことは、彼もよくわかっていたと思う。
ただ、私が息子氏を手放すくらいなら、離婚を諦めると考えたのだろう。「親権」という言葉も知らない年端の彼に、そんな駆け引きをさせてしまったことを、本当に申し訳なく思う。

パパとママは一緒に暮らせないこと。
でも、一緒に暮らせないだけで、パパのことはとても大事に思っているということ。
パパはずっとキミのパパだから好きなときに会っていいということ。
そして、ママは、キミと一緒に暮らしたいということを、
伝えた。

私たちの気持ちが変わることはもうない、と察したのだろう。
最後は、小さな声で、わかったと頷いてくれた。
「僕、ママと一緒に暮らす」
そう言って、彼はそのまま寝室に閉じこもり、布団をかぶった。

・・・・・・・・・・

父親が出て行った家は、2人暮らしをするには、広い。

引越しも考えた。
母が暮らす北海道の実家に戻る選択も、頭をかすめた。
でも、息子氏が「転校だけは絶対にしたくない」と言ったので、この場所を維持していこうと決めた。
結果、私たちは、今も離婚前と同じ場所に住んでいる。

もともと彼の父親は仕事が忙しい人だったので、私たちは2人で過ごす時間が長かった。だから、離婚をしてからも、一見、それほど大きな変化はないように見えた。
コロナで学校が休校になったことや、友達とサッカーができなくなったことなど、今年はイレギュラーな出来事が多かったせいもあるだろう。

平日は私と一緒に過ごし、週末はパパの家に行く。
そんな新しい生活に、彼は自然と慣れていったように見えた。

子どもの順応性ってすごい。
私はほっとしたような、でも我ながら本当に身勝手すぎるのだけれど、ほんの少しだけ切ないような気持ちにもなった。

「ハグはやめてほしい」と言っていた彼が…

あれ?
と思ったのは、離婚後2カ月くらいたったころだろうか。
買い物からの帰り道、息子氏がすっと私の手を握ってくることがあって、驚いたのだ。

彼が、「友達と会ったら恥ずかしいから」と言って、私の手を払うようになったのは、小学2年生の時だった。
同時に、学校に行く前と帰ってきたときに欠かさずしていたハグも、「やめてほしい」と言うようになった。

「どうして? 家だったら、誰も見ていないからいいじゃん」
と言った私に
「うん。でも僕自身が恥ずかしいから、もうやめてほしいんだ」
と、答える。

私がちょっと傷ついたような顔をしたからだろう。
彼は、神妙な表情で、こう付け足した。
「だからといって、僕がママのことを嫌いになったとか、そういうことじゃないから心配しないで。それとこれとは別だから」
私は
「そうか。わかった」
と言うほかなかった。

それが、一年ほど前のことだった。
だから、彼が久しぶりに私の手を握ってきたことに驚いたのだ。私たちは、手をつないだまま、ほんの数分、スーパーから家までの道を歩いた。

数日後、私はためしに、学校から帰ってきた彼をハグしてみた。
前はあんなに嫌がっていたのに、そのとき息子氏は、すっぽりと私の腕の中におさまった。

そういえば、最近、別の部屋で寝ていたはずの彼が、朝方、私のベッドにもぐりこんでくることもある。
いずれも、離婚後の小さな変化だった。

新しい生活にすんなり慣れたように思っていたけれど、彼は彼なりに、寂しい思いをしているのかもしれない。いや、当然だ。大好きなパパと離れて暮らさなきゃいけなくなったのは、大人側の都合だ。

私は、心の中で、彼に頭を下げる。

「ママ、よく眠れた?」

先日、久しぶりに、歳上の友人に会った。
息子氏が小さい頃から、何度も会ってくれていた友人だった。
私は彼女に離婚を報告し、そして、息子氏に起こった変化について話した。

「きっと、寂しいんだろうなあ。だから私に甘えてくるんだろうね」
と、私が言うと、彼女は
「いや、それ、きっと逆だと思う」
と、言う。

「え?」
と、聞くと
「ママが寂しくないように、そうしてくれてるんだよ、きっと」
と彼女は言った。

あーーーーーーーーー!
そうか。
そうだったのか。
そうかもしれない。

そういえば
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
とハグをすると、彼は必ず
「ママも、お仕事頑張ってね」
と言って、その両腕に力をこめてくれる。

布団にもぐりこんでくるときは必ず
「ママ、よく眠れた?」
と聞いてくれる。

私は昔から持病があるのだけれど、私が痛みに耐えているときは
「あたためたほうがいい? 冷たいほうがいい?」
と、救急箱をあさってくれるようになった。

それだけじゃない。

あれほど苦手だった虫が家に入ってきたときも、今は
「僕が外に逃してあげるから、ママはお部屋に隠れていなよ」
と言ってくれる。

・・・・・・・・・・

離婚したとき、私は誓った。

シングルマザーになったのだから。
これからは、何があっても、私が、この子を守っていく。
そう、誓ったんだ。

でも。
そう思っていた存在に、私のほうが、守られている。
この小さくてあたたかい手が、私に差し伸べられるたびに、私は、いつも彼から勇気をもらっている。

先日、息子氏に
「いろいろあるけどさ、2人で仲良く暮らしていこうね」
と、伝えた。
彼は最初きょとんとした顔をして、そのあと笑った。
「うん。そりゃ、そうだよ」

この笑顔にも、私は守られている。

 

タイトル画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第6回は11月15日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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