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「僕の気持ちを勝手に決めないで」とキミは言う【新連載・ママはキミと一緒にオトナになる】

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色々なメディアでコラムニスト・ライターとして活躍する、佐藤友美(さとゆみ)さんの新連載がスタートします。9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えていただきます。第1回は、私たち大人にとって少し特別だった、今年の夏休みのできごとから。

「ママはそう思ったかもしれないけど、僕はそうは思わないんだ」

久しぶりにうちに来た義父が、息子氏(9歳)に「今年は、さんざんだったなー」と声をかけていた。
あれはもうすぐ夏休みも終わろうとしていた日のこと。おじいちゃんの家に行きたいと言った息子氏は、バッグにiPadやら任天堂スイッチやらをつめこんで、お泊まりの準備をしていた。
「花火もなかったし、夏祭りもないし、盆踊りもできなかっただろう? 友達にもなかなか会えなくて、今年はつまらない夏休みだったよな」
義父が、そう続ける。

それまでもくもくと準備をしていた息子氏は、その手をとめ
「いや、そんなことは、ない」
と、やけにきっぱりした声で答えた。
「僕、毎日フォトナでクラスの友達に会ってるし、一緒に楽しく遊んでいるし、全然つまらなくなかった。僕の夏休みを、勝手につまらないって決めないで」

彼の言うフォトナというのは、フォートナイトというゲームのことだ。オンライン上で友人同士が集まり、パーティを組んで、敵を倒したり、協力して建築物を建てたりしているらしい。
義父の言葉に怒っているふうでもなく、淡々と「フォトナのある夏休みの魅力」について説明する息子氏が面白くて、私はちょっと笑ってしまう。

保育園に通っているときから、そうだった。彼は、大人の価値観を押し付けられることを、すごく嫌う。

「ママはそう思ったかもしれないけれど、僕はそうは思わないんだ」
「僕の意見も聞いてから、決めてほしい」
「それは、ママがやりたいことであって、僕のやりたいこととは違う」

誰に似たのか、彼は、自分の好き嫌いをきっぱり伝えてくる。

たとえば、彼と一緒にどこかに行きたいと思ったら彼を説得しなきゃいけないし、これから行く場所の面白さをプレゼンしないと、ついてきてくれない。

ときどきめんどくさいなーと思いながらも、今はそんな彼のことを、ちょっと頼もしく思っている。子育てに余裕がなかった頃は、なんとまあ大変な子だなあと思っていたけれど、今は、おじいちゃんに冷静に反撃している息子氏を、面白い子だなあと思って見ている。私は、彼が、すごく好きだ。

さっき、誰に似たのか……としれっと書いたけれど、痛いほど私だ。
そういえば、私も小さい頃から、大人の言うことは、ずいぶん理不尽だし根拠も乏しいと思っていた。

たとえば木で作られた家にいくと「ぬくもりがあっていいですね」と、大人は言う。だけど、木で作られていることと、ぬくもりとは無関係だと思った。暑い夏の日に、木の建物に触れると、ちゃんとひんやりしている。コンクリートの打放しのほうがよっぽど熱い。

「今日はいい天気でよかったねー」という言葉にも違和感があった。その人にとっては晴れがいい天気かもしれないけれど、雨が降ったほうが嬉しい人もいる。勝手に「いい天気」の尺度を決めるのはどうなんだろうと思った。
そう感じたことを口に出したら、その場にいた大人たちは、いつもちょっと困ったような顔をして笑う。めんどくさい子だなあーと思っているのが、手に取るようにわかった。

でも、時々、私の言葉を面白がってくれる人もいた。
私の祖父は宮大工で、「うん、ゆみは面白いことを言うなあ。木をことさらありがたがるのは、現代人のエゴかもしれないなあ」と言ってくれた。まだ、「エゴ」なんて言葉の意味はわからない年齢だったけれど、自分が発した言葉が、新しい概念を連れてきた。その感覚だけはよくわかって、嬉しかった。

田んぼ仕事をしていた祖母は、「おばあちゃんは、ゆみちゃんの言うこと、よくわかるよ。雨が降らないと、お米が育たないからねえ」と言ってくれた。やっぱり、「そっちサイド」の人もいるんだなと思って、それもやっぱり嬉しかった。

自分の意見に頷いてくれたときだけではなく、全然思いつきもしなかった正反対の考え方を教えてくれる大人に出会ったときは、もっと嬉しかった。
スルーする大人、反論してくる大人、ちゃんと聞いてくれる大人、自分の意見を伝えてくれる大人。いろんな大人と出会って、私は、世の中をまっすぐ見たり、上から見たり、裏返して見たりすることを学んだ。完全に対立するように見える意見が、実は同じような願いからスタートしていることがあることも、この時代に知った。

いま、私は、自分が感じるちょっとした気づきや違和感を文章にして、それを仕事にしている。
それはきっと、あの頃、私のめんどくさい言葉を、ちゃんと受け止めてくれる大人がいたり、あからさまにスルーしたりする大人がいてくれたからかもしれないな、と思った。

義父は
「そうかそうか。息子氏は、ちゃんと、楽しい夏休みだったんだなー。それは良かった」と、笑っている。
息子氏は
「ところで、盆踊りって何?」
なんて、おじいちゃんに聞いている。義父は、盆踊りについて身振り手振りで説明をしている。
彼らは50歳以上、歳が離れている。でも、お互いの知らないことをお互いに伝え合おうとしているところが、なんかいいな、と思った。

世界がみんな、こんなふうだといいな、と思った。

 

タイトル画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第2回は10月18日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。

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