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「それはただの特徴でしょ?」と、キミは言う【ママはキミと一緒にオトナになる vol.3】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第3回。今回は、相手を傷つけないように話す......そんな「空気を読む」会話について、さとゆみさんさんが、息子とのやりとりの中で考えたことから。

「え、どうして? 本当のことなのに?」

まだ私の中でも結論が出ていない話について書きたいと思う。
今でも、私はあの時、息子氏(9歳)にどんな言葉をかければよかったのだろうと考え続けている。

・・・・・・

同級生の男の子が10人ほど集まって遊んでいた時のことだ。息子氏が一人の男の子にこんなことを言った。
「A君は、ちっちゃいからなあ」
そして、その子の頭をよしよしといったふうに、なでた。

子どもたちは、その発言を気にしている風でなかったが、その場にいた親たちの間には微妙な空気が流れた。
A君と、A君のママの表情は私の場所からは見えなかったけれど、私は内心ひやひやしていた。

実は、息子氏は、生まれた時からずっと低身長・低体重だった。検診に行くたびに標準を大きく下回るグラフを見せられ、「栄養は足りていますか?」と、聞かれることがすごく苦痛だった。
いつのまにか、息子氏は指導対象にならない程度には成長していたのだけれど、今日、彼の言葉を聞いたA君ママは、どう思っただろう。

家への帰り道、私は彼に話しかけた。

「今日、息子氏さ、A君のことを、ちっちゃいって言ったよね。あれ、ママは気になっちゃったんだ」
「どうして?」
「だって、A君は、小さいって言われて嫌な気持ちになったと思うんだよ」

ところが、息子氏は、全く意に介してくれない。

「え、なんで? A君、背が低くて小さいじゃん」
「うん、それはそうなんだけど、それを言われるの、A君は嫌なんじゃないかなあ」
「え、どうして? 本当のことなのに?」

話が噛み合わない。
私は、言い方を変えることにした。

「たとえば、息子氏は、B君に“おまえ、本当に小さいなあ”って言われたら、嫌な気持ちになるでしょ?」

私は、クラスで一番背の高いB君の名前を引き合いに出した。
しかし息子氏は、きょとんとした顔をして聞き返す。

「どうして? 僕は全然、嫌な気持ちにならないよ」
「え? ならないの?」
「うん、だってB君の方が僕より全然大きいし」
「……」
「B君が僕より小さいなら、変だよねって思うけど、B君の方が大きいんだから、それって……」
「それって?」
「ええと、そういうのってなんて言うんだっけ?」
「事実?」
「ああ、それそれ。事実。B君が僕より大きいのは事実だから、それを言われても全然嫌じゃない」

「そういうのって、ただの特徴じゃん」

もしかして……と、思う。さっきから会話が噛み合わないのはアレか?

「息子氏、ひょっとして、背が低いことを嫌なことだと思ってないんだね?」
「え、うん。A君、ちっちゃくて、かわいいじゃん」
「……」
「ママは、背が低いのは嫌なの?」
「あ、いや、全然嫌じゃないよ」
「そうだよね。背が高いとか、低いとか、そういうのってただの……」
「特徴?」
「そう、それそれ。ただの特徴じゃん。どっちが強いとか弱いとかじゃないでしょ」
「たしかに……」

考えてしまった。

ちょうどそのとき私は、「人を見た目で判断するべきではない」という主旨の「ルッキズム」について執筆を頼まれており、かなり正論ぶった文章を書こうとしていた。

だけど。
と、ふと立ち止まる。

ひょっとして、そんな私の方が、息子氏よりもよっぽどバイアスがかかった目で人を判断しているのではないか?
身長が高い方がいい。そう思ったから、私は息子氏の発言に焦ったのではないか。
だとしたら、「背が低いことを指摘するのは、やめましょう」と伝えることは、むしろ大人目線の勝手な価値観を押し付けることになるんだろうか?

そこまで考えて、思う。
いやいや、でも、ちょっと待て。

いくら息子氏が、身長に対してフラットなものの見方を持っていたとしても、先方が、それを嫌だと思っていたりコンプレックスに感じていたら、やはりそれは、口に出すべきではない。それを教えるのは、大人の役割ではないだろうか。

すっかり、頭が混乱してきた。

この日、私は、考えに考えて
「息子氏の考えは、よくわかった。身長が高いのも低いのも、ただの事実だし、その人の特徴だよね。
でも、お友達の中には、見た目のことを言われるのが、嫌な人もいると思うんだ。
だから、この人は、そういう話をされて嫌なのか、嫌じゃないのか。相手の気持ちを想像しながら話してみるといいかもね」
と、伝えた。

息子氏の顔を見たが、腑に落ちた気配はなかった。
ただ、私が真剣に話したことだけは伝わったのであろう。
彼は、神妙な顔をして、わかったと頷いた。

一方、私は、そう伝えながらも、後味の悪さを感じていた。
ひらたく言うなら私は今、彼に、「空気を読め」と言ったのだ。

「空気を読む」
私が最も嫌いな言葉だ。
空気を読むとは、「この人とは分かり合えなくてもいい」と、ジャッジすることに近い。

・・・・・・

あれからもう何日も経つけれど、今でも私は、この件に関して、どんなふうに彼に話せばよかったかなと考えている。

それは、彼を正しい道に導きたいというような気持ちとは、ちょっと違う。

私たちが生きていく中で、今まさに直面しているいろんな課題の本質が、ここにあるような気がしてならないからだ。

ルッキズム
自己肯定感
他人との比較
生きづらさ

いろんな言葉が、頭をめぐる。
分断された世界のあちらとこちらで使われている言葉について、考える。

いつか、このことについて、私の考えをまとめてみたい。そしてまた、息子氏の意見を聞いてみたいなと思っている。

 

タイトル画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第4回は11月1日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。

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