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もうひと頑張りする理由【ママはキミと一緒にオトナになる vol.7】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第7回。今回は『ドラえもん』の新作映画を観た息子の姿を通して、考えたこと。

「心がとける感じがする」

「ぼく、はじめて映画で、泣いちゃった」

劇場が明るくなると、息子氏(9歳)は、ちょっと恥ずかしそうに告白した。

『STAND BY ME ドラえもん2』を観た時のことである。見ると、目のふちが、少し腫れぼったくなっている。

帰り道すがらも、彼は、映画の余韻にひたっていたようだ。
「映画って不思議だね。それを観ている間は、心が映画の中にとける感じがする」
心なしか、声もいつもより少し小さい。

「それは、登場人物と自分が同じ気持ちになるということ?」
と聞くと
「いや、違う」
と答える。

「そうじゃなくて、うれしい気持ちや、悲しい気持ちが、いっぱいあふれる感じになる。でも、映画が終わったら、その気持ちは、消えていっちゃうの」

心が映画の中にとける感じ、かぁ……。
どんなに練っても、ライターの私の中からは出てこない言葉だ。

うっとりしたような顔をして帰宅する子の顔を見ながら、彼に貴重な「体験」を手渡ししてくれた映画の作り手の人たちに、心の中でそっと頭を下げる。

こういうとき、いつも私の頭の中には、恩送りとか、バトンとか、そんな言葉が、よぎる。
よし、私もまた、自分の仕事を頑張ろうと、思う。

素敵な人と出会ってほしい

子どもが生まれたとき。
私の胸に必死にしがみつく赤子を見て、もうほかには何も望まないから、ただただ健康で大きくなってくれればいいと祈った。

そして、これは自分でも意外だったのだけれど、その気持ちは、彼が成長してからも驚くほど変わらなかった。

今でも私は、彼がどんな学校に行くか、どんな職業につくかといったことについては、心の底からどうでもよいと思っている。
ただただ、健康で元気で生きていてくれれば、ほんと、それだけで十分幸せだと思っている。

ただ、あとひとつだけ。
もし、あとひとつだけ欲を出して、彼について何かを願ってよいのであれば……。

素敵な人と出会ってほしいなあと思う。

かっこいいでも、憧れるでも、びっくりしたでも、こんな人になりたい、でも。
なんでもいいから、素敵な大人や先輩に出会って、なんだか人生って面白そうと思ってくれたら、あとはもう、ほんと、なにもいらないと思っている。

そういう人たちに出会って、そういう人たちが世の中に生み出す作品や商品やサービスと交わって、
「自分もおもしろい人生を送りたいな」
「自分もおもしろいものを作りたいな」
と、思ってくれたら、もう、親としてそれにまさる幸せはない。

もし、息子氏に「すっごいカッコいい人に出会った。あんな人になりたい」と報告されたら、私は心から嬉しいし、それだけで安心して死ねる気がする。

・・・・・・・・・・

そう考えるようになったからか。
自分の、仕事に対するスタンスがちょっと変わったような気がする。

自分の子どもに「素敵な大人と出会ってほしいな」と望むのであれば、まず、私が誰かにとってのそんな存在になろう、と考えるようになった。

なんとなく、私が、誰かにとってのそういう存在になれたら、まわりまわって、自分の子どもにも、素敵な出会いがあるような気がしてしまうのだ。

仕事先で会う若いアシスタントさんたち。セミナーで出会う大学生。ライターの卵さんたち。
そういう人たちのうち、1人でも2人でもいいから、自分の母親に
「ねえねえ、今日、さとゆみっていうやたら元気のいい人がきて、なんかさ、妙に人生楽しそうだった。あんな風に楽しそうに仕事したい」
って、報告されるような存在になりたいな。というか、なったほうがいい、と思うようになった。

だから、子どもが生まれてからのほうが私、ものすごく真剣に、仕事に、人に、向き合っている。
誰と会ってもそこに、彼/彼女を産んだ人の存在を感じて、接しているな、と思う。

これは、子どもが生まれて、変わったことのひとつだ。

・・・・・・・・・・

家に戻った息子氏は、すぐにスイッチを取り出して、クラスの友人たちとオンライン上のゲームをしながら、会話をしていた。

「オレさ、今日ドラえもん観てきたんだよ。スタンドバイミーの方」

早速、先ほどの興奮を伝えているようだ。

「超よかったよ。オレ、映画みて、はじめて泣いちゃったもん。みんな、絶対みにいったほうがいいよ」

そう言われるクリエイティブを生み出している作り手の人たちにちょっと嫉妬しながら、でもやっぱり感謝しながら、そして何かを奮い立たせられるような気持ちになりながら、私も仕事に戻る。

もうひと頑張りするか。
彼の顔を見ながら思う。

 

 

タイトル画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第8回は12月13日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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