「子育て」が「孤育て」になってしまう理由は…
null現在、日本の合計特殊出生率は、1.44。出産は、生涯で1~2回のライフイベントとなっています。市川さんは、働く女性が増え、結婚、出産のタイミングが後回しになり、主に30代から40代前半での出産が多くなったことで出産の環境に変化が生じた、と話します。
「日本には里帰り出産という文化がありますが、親が高齢や遠方で頼れない。親に気を遣って、自分の出産や子育てを助けてと言えない現実があります。子育ては、“孤育て”になり、また泣き声で虐待として通報されるのではないか、と考えて家に閉じこもりがちになってしまい、行動範囲が狭くなります。また父親が育児休暇を取得できない現状もあり、母親が孤立してしまうのです」(市川さん)
出産年齢の高齢化により、出産に時間がかかるだけではなく、回復にも時間がかかる身体的なリスクに加え、出産まで一生懸命社会の中で仕事をしてきた頑張り屋の女性は社会的な役割の喪失を感じて、SOSを出せない事態に陥るのです。
「こんなはずじゃなかった…」多くの女性の戸惑いって?
null産後がこんなにつらいなんて思ってもみなかった、と多くの女性たちが感じるといいます。
「特に産後は3時間おきの授乳で、睡眠がとれません。母乳で育てたいのに母乳が出ない、子育てがうまくいかなくて、イライラもします。体も気持ちもついていかないマタニティブルーは多くの人に見られますが、このまま進めば産後うつになるボーダーライン上の人もいます。こうした人を早く発見してハイリスクにしないように支援をしていく必要があるのです」(市川さん)
東京都だけで(10年間で)63人の妊産婦さんが自殺しているというニュースに、医療従事者はショックを受けました。全国では100~200人にものぼるのではないかと推測されています。妊産婦の自殺は赤ちゃんも巻き添えになり、ともに亡くなってしまうケースも考えられます。
母親のメンタルのトラブルについて初めて言及した『母性と精神疾患』(I.F.ブロキントン、 R.クマー編)という本がイギリスで出版されたのは、1988年。かつて、希望した妊娠で赤ちゃんを産んだ女性の精神状態は幸せに満ちて、安定しているとみられていました。ところが前述のように、妊産婦を取り巻く状況は変化し、産後うつの出現を看過できなくなってきてしまったのです。
「産後うつ」は父親にも起こりうるもの
null産後うつは、産後2、3週間~6カ月ごろに発症するとされ、九州大学の調査では13.4%、厚生労働省の調査では9%が発症すると発表しているので、だいたい10人に1人がメンタルの問題を抱えていることになります。
アメリカでも同様で、米産婦人科医協会は「周産期の女性の7人に1人」が何らかのメンタルトラブルがあるとしています。しかも母親のうつとも関連し、10%の父親に産後うつが見られるというデータがあるのです。
マタニティーブルーは、出産後のホルモンの変化で起こる一過性のもので、ほとんどの人が短期間で治ります。一方で、「産後うつ」は出産を機に発症するうつで、病気なのです。
宗田院長は次のように話します。
「産後うつは、女性ホルモンの変化で起こるということがまことしやかに言われますが、それは事実ではありません。夫婦ともに、出産、育児というダイナミックな変化があり、そのストレスが引き金になって、産後うつは起きるのです。母親の問題だけではなく、父親にも起こります。
最近はイクメン・プレッシャーもあり、育児をがんばろうとする父親もストレスを感じています。母親と父親、同じような割合で産後うつは起こるともいわれています。さらに怖いのは、産後うつの母親の治療が行われていない状態が続くと、子どもの情緒的な発達や家族にも影響が出てくるのです」
夫や家族にも影響を与える産後うつをどう予防していったらいいか、次回も、セミナーでの取材を元に考えていきます。
リーフレット『ママから笑顔がきえるとき』
文京学院大学が、妊娠中のママとその家族を対象に、「産後うつ」に関する基礎知識、産前産後の生活や気持ちの変化、対処法などを解説。
公式サイト:https://www.u-bunkyo.ac.jp/faculty/health/2017/11/20171122.html