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「夜間保育園」なぜ増えない?利用者が語る…なくてはならない理由

ドキュメンタリー映画『夜間もやってる保育園』が注目を集めています。観客からは「夜間もやっている保育園があるの? ベビーホテル?」「えっ、認可されてるの?」と驚きの声が集まっています。

この映画を撮った大宮浩一監督は、「子どもたちは、安心して眠っている。夜更かししているわけでもなく、規則正しい生活している。そのとき、親は何を思い、何をしているのか。その家族に対して保育士や保育園の経営者は何を思うのか」そんな気持ちで撮影を進めたといいます。

夜間保育園が認可されて36年。その数は、一向に増えていきません。なぜなのでしょうか。子育ての環境は過酷です。飛行機での子どもの泣き声問題、住宅地での保育園建設反対など、子育てがしにくい寛容でない面もある社会の中で、私たちはどうしたらいいのでしょうか。前回に続き、新宿にある『エイビイシイ保育園』への取材を通して考えてみました。

上記写真提供:『エイビイシイ保育園』(東京都新宿区)(C)夜間もやってる製作委員会

 

1人の子育て…心細い気持ちにも寄り添う保育園

お迎えが来たらすぐ帰れるように子どもたちの荷物がまとめられている。

 

午後11時少し前、フランス料理店のシェフのカナコさん(32歳、仮名)が慌てた様子で飛び込んできました。東京・新宿区にある『エイビイシイ保育園』に預けている3歳のナオミちゃん(仮名)を迎えに来たのです。

カナコさんは、非婚のシングルマザー。「誰にも迷惑をかけないで、一人で生んで育てる」と決意してナオミちゃんを生みました。

「妊娠8か月のときに、勤めていた店がつぶれて、この先どうしようかと悩んでいました。飲食店経営の親の姿を見て育った私は、20歳から飲食店で働いてきていたので、次に務めるのも飲食店がいいと、新しい働き口を探しました。しかも自分一人で子どもを育てなければならない。同時に子どもを預けて働くために長く預かってくれる保育園が必要でした。長時間とあって無認可の保育園も見学しましたが、エイビイシイの評判を聞いて園長に会いに行ったのです」(カナコさん)

親には迷惑をかけないと決めたものの、やはり一人では心細かったカナコさん。そんなときに、保育園側は親身になって相談にのってくれ、母親になるカナコさんのことを心配してくれたそうです。しかも園での食事は完全オーガニック。ここなら安心して預かってもらえると確信しました。

 

目が覚めた娘と深夜に遊ぶ「それでも、親子の唯一の大切な時間」

カナコさんが目を見張ったのは、子どもに対する保育園全体の愛情深さでした。保育士が「自分の子どもを育てるように細かいところまで気配りしてくれた」と話します。

シェフという仕事柄、給食にも目がいきました。「粗食ですが、工夫があるのです。それは、ひとりひとりのことを考えた工夫です。離乳食のときは、その子に合った食事が用意されました。ご飯の硬さ、料理の大きさ・身長、体重にも気を付けて……。娘は家では野菜を食べないのに、園の給食は残さずに食べるそうです。最近ではお好み焼きのキャベツなど、家でも野菜を食べるようになりました」

カナコさんが勤務するフランス料理店は閉店が深夜0時。片づけをすませると、迎えは午前1時になってしまいます。ナオミちゃんはほぼ毎日、深夜組さんで寝ています。休みは毎週日曜日のみ。一緒にいられる時間が少ないので、たまに20時頃に迎えに行くとナオミちゃんは飛びついてきて、飛び跳ねて喜びを表すそうです。

一度眠りから覚めたナオミちゃんは、深夜遅くまでカナコさんと遊んでいることもあるといいます。「早く寝かせなきゃとも思うんですが、親子の唯一の大切な時間を楽しんでいます。エイビイシイがなければ仕事と子育てが両立できなかったと思います。夜働かなければならない私たちのためになくてはならない場所だと思います」

この日、カナコさんは寝ぼけ眼のナオミちゃんにコートを着せると、だっこひもで抱え、自転車に乗って帰って行きました。

増加する「夜間保育園ニーズ」と重なる親像

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夜間子どもを預かるベビーホテル(認可外保育施設)は、全国で1,579カ所。入所児童は3万21人(厚労省2016年3月調べ)となっています。ベビーホテルの入所児童数は、待機児童数の2万6,081人(2017年4月1日現在)を大きく上回っていることもあり、夜間保育所にニーズはあるはずです。

しかし、国や自治体は「今の体制で大丈夫、夜間保育園のニーズはそれほどないのではないか」という見方を示しています。

保育園に入るには認定や諸条件あり、それに満たない人は、やはりベビーホテルを使わなければ、仕事と育児の両立はできません。ベビーホテルの底上げをしながら、夜間保育園を増やしていくことに目を向けるべきです。

片野清美園長(写真)は言います。

「夜間保育園が増えないのは、やはり親が子どもを育てなければいけないという偏見が強いこと、夜間の保育士の人材確保や安全面での経営の難しさ、認可するために財源確保が難しいという行政側の事情、などが考えられます。ひとつひとつクリアしながら、増やしていく必要があるでしょう」

34年間、片野園長が園の保護者を見てきて最近感じているのは、“母親にとって、仕事を生きがいに感じている人が増えた”“ひとり親家庭が増えた”“深夜組が増えた”ことといいます。まさに夜間保育園のニーズと重なります。

「お母さんは仕事をやるときはやる、仕事のないときは抱きしめてあげる。メリハリをつけることが大事だと思います」(片野園長)

 

昼働く人がいます、夜働く人もいます。ひとつの仕事だけではなく、ダブルワークやトリプルワークで働かなければいけない人もいます。その多様性を認め、多様な働き方ができる寛容な社会を作っていくことが急務なのだと考えさせられました。

「玉の子夜間保育園」(沖縄県那覇市)(C)夜間もやってる製作委員会

【公開情報】

夜間もやってる保育園
(C)夜間もやってる製作委員会

2017年9月30日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショー

まだまだ知られていない、子どもたちが安心して過ごしている夜間保育園の現場から、家族の在り方、働き方を考える作品。『エイビイシイ保育園』のほか、沖縄県那覇市の『玉の子夜間保育園』、北海道の帯広市の『すいせい保育所』などが登場する。

撮影(映画写真以外)/樋田敦子

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