食べた食品が生体内の組織にどんな影響を与えるかを研究する分子栄養学
分子栄養学とは、食べた食品が、生体内の各組織にどのような影響が与えるかを遺伝子(細胞)レベルで解析する学問だ。美肌の観点から考えると、なにを食べると皮膚によくて、なにを食べると悪いのかを調べていくことになる。
東京農業大学オープンカレッジ世田谷キャンパスではこうしたことが学べる「分子栄養学で美しい肌を手に入れる」講座を開催している。講師は東京農業大学応用生物科学部助教の山根拓実先生。
皮膚の構造 (c)Tokyo University Of Agriculture
水と油の成分が重なって……
山根拓実先生は語る。
「角質層は、表皮細胞とセラミドがミルフィーユ状に交互に重なって成り立っています。表皮細胞は水分を含み、セラミドは油の一種。水と油という、相反する成分が何層にも重なっているため、体外からアレルゲンや細菌が侵入するのを防ぐバリア機能の役目を果たし、逆に体内からの水分が蒸散するのを防いでいるのです」(山根先生 以下「」同)
しかしセラミドは、老化とともに減少してしまう。
「セラミドが不足すると、体内からの水分が蒸発して肌が乾燥し、またバリア機能が崩れ、アトピー性皮膚炎を発症したりします」
確かに、加齢と共に肌は乾燥気味になる。身体も弱くなってくるのも、傷の治りが遅いのも、もしかしたらセラミドが不足しているせい? ではセラミドをよい状態に保つためにセラミドそのものを食べるのは、お肌によいのだろうか?
「答えは○です。特にグルコシドセラミド(糖が結合したセラミド)がよいといわれています」
グルコシドセラミドを多く含む食材は、麦や米などの穀物、大豆、とうもろこしなどだそうだ。とうもろこしご飯に豆腐のお味噌汁なんて最強なのかも?
1gで6リットルも。驚異的な保水力のヒアルロン酸だが
老化で減るのはセラミドだけではない。ヒアルロン酸も減っていく。ここで、実際にヒアルロン酸の粉を水に溶いて、その触感をためさせてもらった。
粉の入ったビーカーに水を入れてかき混ぜると……プルップルの美容液みたいな液体になった。これは肌につけたらお肌もプルップルになりそうである。
しかし、ヒアルロン酸などの分子は非常に大きいので、いくら肌に塗っても浸透しないと聞く。よくヒアルロン酸やコラーゲン入りのコスメがあるけれど、いくら叩いても揉み込んでも、皮膚の中には入らない。それらを真皮に浸透させるのは、コーヒーカップの中に高層ビルを入れようとするようなものと聞いたことがある。
「ヒアルロン酸は肌からは吸収されませんし、水溶性なので、お風呂に入れば全部流れて行ってしまいます」
「コラーゲンは食べると効果があるのか」問題は
「肌の約80%がコラーゲンでできています。コラーゲンはタンパク質の一種で、皮膚の張りや弾力に関与し、紫外線を浴びることで減少してしまいます。そして、たった1日タンパク質を取らないだけで、肌の弾力性は失われ、コラーゲン(1型)は減少してしまいます」
ダイエットなどで生野菜しか食べないと、カロリーは抑えられるかもしれないが、肌にはよくないらしい。確かに、サラダのみで1日過ごした翌日は、くちびるがガサガサになるぞ……!!
そして、よくささやかれる「コラーゲンは食べると効果があるのか」問題。
「答えは△です。食べたコラーゲンがそのまま皮膚にたどり着くわけではありません。ただし、摂取したコラーゲンは胃や小腸で分解されてアミノ酸やペプチドになり、小腸から吸収されます。それが血液から全身に運ばれ、皮膚のヒアルロン酸の増加やバリア機能の改善につながる可能性があるんです」
なんと!ここでコラーゲンとヒアルロン酸がつながった。確かに、コラーゲン鍋を食べた翌日は心なしか肌がプルプルだ。風が吹けば桶屋が儲かる的な効果はあるわけだ。
「そしてビタミンCは、コラーゲンとコラーゲンをつなぐ役目をしています。そのためビタミンCが不足すると、コラーゲンが合成されません。とはいえ、ビタミンCを取り過ぎても、尿として排出されてしまうだけなので、大量に摂るのは意味がないのです。日本人女性なら1日100mg、食べ物で言うと、おおよそ赤や黄のピーマンなら2/3個、イチゴなら7個、グレープフルーツなら1個分となります」
講座のあとに、山根先生に肌にいい食材を尋ねてみた。
「それ、よく聞かれるんですが、『これを食べればいい』というものはありません。結局は、バランスのよい食事をするのが一番です」
至極まっとうな回答である。しかし講座を聴いてから、ビタミンCを積極的に取り、和食中心の食事に変えた。穀物や大豆が肌にいいと聞けば、それは和食が手っ取り早いからだ。