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「あそこにだけは…!」JALの激務部署が残業ほぼゼロに生まれ変わるまで

政府が推し進める「働き方改革」。企業が実践するには、どんな苦労があるのでしょうか。また、社員はどのくらい働きやすくなるのでしょうか? 企業にインタビューし、現場のリアルをお伝えします。今回、取材をしたのは日本航空(略称・JAL)。「あの部署にだけは異動したくない」と社内で囁かれるほど激務だった「調達本部」で、働き方改革を実践しました。調達本部は名前の通り、業務に必要な物品、役務を調達=購入する部署。パソコンのモニターから飛行機まで、会社に欠かせないものを全て扱います。そんな激務部署が、“残量ほぼゼロ部署”に生まれ変わるまでのストーリーとは? 前編では、改革ポイントとなった「5本の柱」について、埋金洋介さん(調達第一部 企画グループ グループ長)に伺いました。

経営破綻で社員減少……当初は長時間労働で回していた

——経営破綻というと「復活するために死に物狂いで働かなければならないのでは?」と想像しますが、JALは逆に、長時間労働を見直したのですよね。どんな経緯があったのでしょうか。

埋金洋介さん(以下、埋金):ワークライフバランスに取り組もう、業務を効率化しようという話が出たのは2014年のことです。長時間労働が常態化した調達本部がトライアル部署として手を挙げ、同年10月から改革に着手し、翌年6月に完了しました。

調達本部は、経営破綻後に作られた部署。性別や年齢を問わず少ない人数で成果を上げる必要があり、最初はあくせく働いていました。でもこのままでは、長い目で見てヒューマンリソースを確保し続けられないと、改革に乗り出したのです。

ITを活用した「5本の柱」でワークスタイル変革

——具体的には、何をどう変えたのでしょうか。

埋金:5本の柱があります。書類を減らす「ペーパーレス化」、どこからでも仕事をできるようにする「ノートPCとリモートアクセス」、電話の取り次ぎをなくす「個人スマートフォン化」、オフィスに流れを作る「フリーアドレス座席」、柔軟な働き方を実現する「勤務管理」の5つです。

最初の取り組みとして、まず3ヶ月かけてダンボール箱を291個、バインダーを810冊廃棄しました。文書はデータ化して、共有ストレージに保存。組織で共有でき、また出張先や自宅からでも参照できる仕組みにしました。文房具が購入不要になったほか、コピー用紙の消費量が4分の1に。職場環境が向上しただけでなく、コストダウンにもなりました。

——ノートPCだけで作業するとなると、「画面が小さい」などの不満もありそうですが、いかがですか?

埋金:フリーアドレス座席なので、必要なときは大きなモニターを使えるよう、専用席を作ってあります。メインで使うのは、みんなで大きなテーブルを囲む「ワークデスク」。集中したい人のための「ソロデスク」、予約不要で使える「打ち合わせデスク」「立ち会議テーブル」などがあります。

全員が毎日、着席位置を変更するので、デスクは一日ごとにクリアになります。「このグループはだいたいここに集まろう」という曜日もありますし、完全にバラバラな日も。場所にとらわれず働くためのノウハウ取得の第一歩という意味合いがあります。

「個人のスマートフォン化」については、社員に業務上の問題をヒアリングしたところ、若手を中心に「鳴った電話に出て取り次ぎをすることで、集中力が削がれてしまうのが困る」という声が多く実施しました。どこにいても、テレビ電話で会議に出られるというメリットもあります。

——5つめの柱である「勤務管理」は、どういった内容ですか?

埋金:勤務ルールの見直しですね。サービス残業を発生させないため、基本は18時定時退社、17時半以降のメール・電話・会議は禁止、残業は所属長の事前許可をとって「残業ブース」に移動して行う……など、業務時間内に仕事を終える習慣をつける工夫をしました。

また、事前に申請することで、勤務時間帯を変更することも可能です。「基本的には9時出勤だけど、今日は早く帰って病院に行きたいから8時出勤にする」とか。7時、7時半、8時、8時半……と30分刻みで決められます。在宅勤務の方法を忘れないように月1回、必ず自宅勤務をする日も設けています。

それまでは、仕事を“面積”で捉えるというか、長時間労働も成果の一部という空気感があったんです。でも今は、やるべきことを時間内で終えなくてはならない、という考え方が定着してきましたね。8時間のなかで、いかに価値を作り出していくか、という。

「無駄を削減しよう」ではなく「質を高めよう」という考え方

——働き方改革は、開始から完了宣言まで8ヶ月間と急ピッチな印象を受けますが、反発はありませんでしたか? 例えば、管理職世代の男性社員だと、若手の頃にがむしゃらに働いて実力をつけてきたという経験から、若手にもそうしてほしいという気持ちを持ってしまうような気がするのですが。

埋金:反発はそう多くありませんでしたが、「なぜやるの?」という疑問を抱く社員は確かにいました。また、「勉強になるから、たくさん働きたい」という若手社員もいましたね。

「無駄を削減しよう」という方向性だとどうしても反発心を抱くとため、「クオリティをアップするために働き方も改革する」という考え方で説明するようにしました。

また、働き方改革に積極的なカルビーの方から、「やりながら慣れてもらうほうがいいこともある」と伺って。私自身も、やりながら納得していく部分がありました。今となっては「もう昔には戻れない」という声も聞かれるので、成功したかなと思っています。

——政府が働き方改革を推進しているとはいえ、まだまだ“現場の意識”は完全には変わっていないと思います。若手である自分は効率よく仕事を進めてワークライフバランスを整えたくても、上司は残業してがんばる社員を評価するとか……。そういった上司のマインドを変えることは可能なんでしょうか?

埋金:残業を重ねてキャリアを積んできた社員のマインドを変えるのは、個人のレベルだと、残念ながら難しいんじゃないかと思いますね。会社全体で取り組む必要がありそうですね。

また、過去を否定すると、その人自体を否定することになってしまうので、モチベーションは上がりません。改革したその先をどうしていくか、建設的に考えられる雰囲気が重要だと思います。

2017/4/12 BizLady掲載

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