「忖度」の意味とは?
null“忖度”(そんたく)は、他人の心中をおしはかること。
似た意味を持つ漢字を組み合わせた熟語で、“忖”と“度”は、いずれも“はかる”という意味です。
“忖度”という単語が突如注目を浴びたのが2017年。同年には流行語大賞となりました。
このときの時事問題の中では「上層部の意向を汲んで、
「忖度」はビジネスシーンではどんなときに使う?
null2017年に“忖度”という言葉の認知が急激に進みましたが、それ以前は“忖度”という言葉はビジネスシーンで頻繁に使われることはありませんでした。
現在は、“他人の心中をおしはかる”“推察する”という本来の意味とは異なる意味で使われ始めているように感じます。
最近では、“目上の相手の意向におもねり、配慮すること“を指して“忖度”という言葉を使って表すことがあるようです。他者の行動をネガティブなトーンで論ずる場面も見受けられます。
「忖度」の使い方の注意点は?よくある間違った使い方は?
null“忖度”の使い方の注意点は2つあります。
(1) 本来の意味で使うと誤読される可能性もある
“忖度“には“相手の気持ちをおしはかる”という意味があります。しかし、先述したように、近年は気持ちを推し量る対象が権力者や目上の相手に絞られ、“上層部の意向をおしはかる”という意味で使っている方が多くなっています。
そのため、本来の意味で使うと誤読される可能性があります。
場合によっては相手に上層部の圧力を連想させることもあるかもしれません。“おしはかる”の意味で使うのであれば、“推量”“くみ取る”など、別の表現を使った方がよいでしょう。
【要注意例文】
・部長を忖度しすぎずに、言いたいことを言ったほうがいいよ。
→本来なら“おしはかる”の意味だが、“目上の相手に遠慮する”の意で使われているケースがある。
・上層部の真意を忖度した結果、彼が交渉に出かけることになった。
→文脈によっては上層部からの圧力があったような印象を与えることがある。
(2)助詞に注意「~に忖度」ではない
「おしはかる」という意味の“忖度”とともに使う格助詞は、
【NG例文】
・彼の立場に忖度してください。
→正しくは「彼の立場を忖度してください」。
「忖度」の例文は?
null例文を通じて、使い方をイメージしていきましょう。
・上層部の意向を忖度するばかりではなく、自分の意見を述べるべきだ。
・お客様の嗜好を忖度することも大切です。
・過剰な忖度を強いることで、現場が委縮してしまうこともあるようだ。
「忖度」を言い換えると?類語は?
null続いて“忖度”の言い換え表現・類似した表現をご紹介します。
(1)「くみ取る」
本来の“忖度”と類似した意味。“推察する”“おしはかる”“おもいやる”という意味があります。
【例文】
・彼の事情をくみ取り、本日は在宅勤務を命じた。
(2)「空気を読む」
“空気を読む”は、“その場の雰囲気を察する”という意味で使われるようになっています。
【例文】
・今年の新入社員のことを空気を読まないと言う人もいるが、私は率直な物言いに好感を持っています。
(3)「察し」
察すること。裏の事情などを推し量ること。“察しがいい”のように形容詞的に使われることがあります。
【例文】
・彼は察しがいいので、多くを語らずともすぐに動いてくれます。
(4)「斟酌」(しんしゃく)
そのときの事情や相手の心情などを十分に考慮して取り計らうこと。相手の気持ちをくみとって理解すること。
【例文】
・景気動向を斟酌し、生産量を決定しました。
・A社の状況を斟酌して、納入日を早めるための交渉をしています。
(5)「推測」
“推測”は、物事の状態、なりゆきなどをおしはかること。
【例文】
・クレームの原因を推測した。
(6)「迎合」
自分の考えを曲げてでも、他人の意向や世の風潮に調子を合わせようとすること。現在、使われている“忖度”のイメージとやや類似しています。
【例文】
・彼はすぐに上層部の方針に迎合する。
(7)「憶測」
“憶測”は、物事の事情や人の心を根拠もなくいいかげんに推測すること。
【例文】
・憶測にすぎませんが、もしかしたらA社は仕入先を切り替えたのではないでしょうか。
今回は、国語講師の吉田裕子さんに“忖度”の意味や使い方を解説していただきました。
流行語となったことで、本来の意味が見失われているようです。これを機会に正しい意味を知っておきましょう。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。