主役と脇役を決めると物語が生まれる
null兎村さんのご自宅は、壁面がコンクリートでデザインされたスタイリッシュな部屋。とはいえ、シンプルで無機質な空間ではなく、温もりある楽しい生活感を感じます。その理由は、ポスターや小物の飾り方にありました。
なかでも、ひときわ目を引くのが、壁に飾ってあるオランダのグラフィックデザイナー&絵本作家の『ディック・ブルーナ』の色とりどりのポスター。仕事場とリビングに3枚ずつ、計6枚が愛らしく飾られています。実はここにも、素敵な工夫が隠されていたんです。
「ポスターや小物を飾る時、私は必ず主役と脇役を決めるようにしています。たとえば、いちばん生活する時間が長い、リビングと仕事場の壁面には、夫婦で大好きな『ディック・ブルーナ』のポスターを飾っています。これが我が家の主役です」
ちなみに、主役の決め方って、どうやって決めているのでしょうか?
「私のルールでは、“とにかく好き!”という思い入れが強いもので、サイズが大きな物が主役。それを軸に飾るための物語を作っていきます。
主役がポスターならば、脇役はサイズが小さな絵や時計、オブジェなど、いくつでもOK。ひとつずつの個性よりも、全体の色のバランスを大事にしながら飾っていきます。
これって、演劇や映画に似ていますよね。みんなが主役の映画じゃワイワイしすぎてよく分からないストーリーになってしまうけど、主役を張る名俳優がいて、彼を輝かせるバイプレーヤーがいて、世界観を表す衣装や小道具があって、そういった全部がバランスよく詰まって面白い映画に仕上がっている。
部屋のインテリアも全体のバランスが大事だなって思うんです」
確かに全部を主役にしてしまうと、ガチャガチャとうるさくなってしまいます。兎村さんの部屋が洗練されて感じるのは、主役も脇役も見事に共演しているから。緩急ついたこのバランスが大事だったんですね!
色のテイストを部屋ごとに揃えてみる
nullまず、主役になるポスターを決めたら、主役を引き立てるための脇役たちを決めていきます。
たとえば兎村さんの部屋だと、ポスター周辺の空いている空間に、お気に入りの小さい絵やスケートボード、時計やオブジェなどが飾られ、絶妙なアクセントを生み出しています。
「まったく違う色のものを飾るのではなく、同系色の水色や黄色がどこかに入っているなど、共通点があるといいですね。色のトーンを合わせると、全体の雰囲気が自然とまとまります」
兎村さんは、リビングと仕事場に、ポスターを3枚ずつ並べて飾っているのですが、なるほど、それぞれのトーンが合っていることにも気づかされます。
「ホッと一息つきたいリビングは、ミッフィーの愛らしくカラフルでポップな世界に。逆に、仕事場は集中したいのでモノトーンな空間。ブラックやブルーなど、落ち着いたシックな雰囲気のポスターでまとめています。
部屋のイメージにあわせて、ポップやシックなど、それぞれのトーンを合わせることは気持ちにも変化を生みます。うちでは仕事場に一歩足を踏み入れると、自然と気分が仕事モードになる(笑)。
インテリアが気持ちを切り替えるスイッチにもなっているんです」
このように兎村さんのご自宅は、ひと続きの広いフロアを仕事場とリビングに分けていて、仕事場はキリッとシャープに、リビングはほっこり安らぐ空間になっています。
仕切る壁など一切ないのに、確かに別々の空間に居るように感じるから不思議……。同じフロアでも、感じる印象がまったく違うのは、このような工夫がされていたからなんですね。
ポスターは高さを揃える。小物は三角形に並べる
nullさらに、ポスターを飾る時のポイントを教えてもらいました。
「何枚か並べて飾る時は、どこか高さを揃えておくと、空間が美しく整います。
私の場合は、ポスター6枚のトップの高さを揃えています。こうすると、1枚1枚は大きくてもうるさい感じがせず、整然として見えます。複数並べて飾る時は、隣同士の間隔もそろえるとキレイですね。」
「ポスター同士のそれぞれの相性もあるので、同じ作家で揃えたり、色味を合わせたり、ひとつだけルールを作るとまとまりやすくなります。
ポスターはそのまま画鋲などで壁に貼るのではなく、必ず額装しています。額装したほうが、アート作品として空間できれいに見えるし、ポスターの保護ができます。フレームの色や幅を揃えると統一感がでます。」
また、棚の上に小物を飾る時は、高さやサイズを揃えるのではなく、動きを出して飾ったほうがアクセントになると兎村さんは話します。
「いくつか小物を並べる時は、横から見た時に全体が三角形になるように並べます。三角形を意識すると調うなぁと感じます。
実はこの技は生け花で覚えました。さすが伝統的な技法だけあって、これだけでなんとなく全体のバランスが良くなるので驚きます。
部屋の壁面はポスターを固定しているので、玄関の棚の上は、時々自由に入れ替えて遊ぶようにしています。季節や気分に合わせて、変化を楽しみ飽きないようにしています。
レイアウトを変えるときに掃除も出来るので一石二鳥ですね。」
こういった自由な空間があると家の中に変化が生まれ、日々の暮らしの心地よいアクセントになりますね。
好きなお店のインテリアを暗記して、センスを磨く
nullとはいえ、なかなか素敵に飾るセンスを急に身につけるのは難しいもの……。兎村さんが何か普段から参考にしていることはあるのでしょうか?
「いい方法があります。私は、“素敵なディスプレイだなぁ”と思うお店を真似して覚えました。
初めのうちは、ディスプレイのまま買ってきたり、本や雑誌も参考にしたり。自分がなりたいイメージを1度真似してみると、“あぁ、なるほど! 私は全体のバランスではなく、色だけを見ていたのか”など、失敗していた点が分かってきました。そういった訓練を繰り返し行っていたら、自然とバランスの取り方が身についていきました。
今でも好きなお店のディスプレイは、家で再現したりしています。その時大切なのは、あえて写真は撮らないこと。その場でできるだけ暗記して、自分の中に記憶として持ち帰ります。
写真を撮ると、忠実に再現しようとしすぎてしまう。家に帰って忘れてしまったことは、興味がないことなのでOK。
“あの花を生ける感じよかったなぁ”“あんな風に棚を飾ってみよう”と、覚えていたこと、感じたことを記憶の中から引き出して、自分の部屋で再現してみる。かなり良い訓練になります」
慣れないうちは、お気に入りのディスプレイを真似した後に、実際にお店へもう一度行って答え合わせをしてみるのもおすすめだそう。これなら、手軽に実践できそうですね!
「美しい棚を育てる」のは、まさにセンスあっての賜物。
とはいえ、急に身につくものではなく、兎村さんのように日々の経験の中から、少しずつ自分が心地よいもの、好きなものを探して、実際に暮らしの中に取り入れ、フィット感を試してみる。そういった知識と経験、日々の積み重ねがあってこそ、心地よい部屋は作られていくのだと改めて感じました。
ぜひ、兎村さんのテクを参考に、毎日少しずつ変化を楽しみ、成長しながら、センスアップしていきたいですね。
次回は、誰かと心地よく暮らすということから、インテリアの参考になるSNSとの上手な付き合い方までお話を伺いました。少し肩の力が抜けてラクになれる、そんなエピソードが満載です。
【取材協力】
兎村彩野さん
1980年東京生まれ、北海道育ち。
高校在学中にプロのイ ラストレーターとして活動を開始する。
暮らしをモチーフにしたシンプルなイラストを得意とする。
ドイツの万年筆 LAMY safari で描く「LAMY Sketch」が人気。
LAMY公認のイラストレーター。
Twitter:https://twitter.com/to2kaku
Instagram:https://www.instagram.com/ayanousam/
取材・文/岸綾香