食器棚に入る分しか持たないという循環ルール
null兎村さんのご自宅にお伺いすると、シンプルに整えられた空間の中で、壁に飾られたお気に入りのポスターや、テーブルに置かれた植物たちから、暮らしの彩りを感じます。なかでも、まず、kufura編集部が注目したのは「食器棚」。
この食器棚は、兎村さんと共同でデザイン事務所『TO2KAKU』を設立し、グラフィックデザイナーとして活躍されている旦那さまが細かくチューニングしているそう。スタイリッシュなコンクリートの空間に自然と溶け込み、ストンと気持ちよく並んでいる器たちが、ふたりの暮らしの心地よさを物語っているようです。
食器って、気に入ったものに出会うとすぐに買ってしまいがち。気付くと食器棚がパンパンになっている……という人も多いはず。兎村さんの食器棚も、決して器が少ないわけではありません。でも、キレイに整って見える秘密はなんでしょう?
「私は、“今の棚に入る量しか持たない”というルールを決めています。どうしても欲しい器に出会ってしまったら、その子を受けいれる代わりに、どれかひとつを手放すことにしているんです。
どれも出会った時はすごく気に入っていたし、我が家の食卓で大活躍してくれたもの。でも、今の自分には別にフィットするものが現れてしまった。そうしたらちゃんと手放して、新しいものと大切に向き合っていく。例えていうなら、恋人のようなものかもしれませんね(笑)。
ちゃんとお別れするから、次の新しい恋人が現れる。付き合っている時は未練とか情とか思うけど、ちゃんと恋愛してちゃんと別れると後悔がないので、しばらく経つと意外とケロッと忘れてしまう。新しく恋人が出来ると、「なんであんなに悩んでいたのだろう?」と不思議な気持ちになる。
食器を手放す時は、ただ捨ててしまうのではなく、まだ使えるモノであれば、できるだけ友達に譲るようにしています。私よりも必要な人がいれば大事にしてもらえて嬉しいし、新しい誰かのもとへ気持ちよく旅立たせています」
兎村さんは自分が持っている食器の数や種類をすべて把握しているそうですが、それはひとつひとつの器と向き合って、長年かけて育ててきた食器棚だからこそ。初めのうちは全ての棚ではなく、まずは大皿や茶碗など使用頻度が高い器が並ぶ棚だけでも、循環ルールを決めて始めてみるといいですね。
器を買う時は“体感”しながら慎重に
nullこうして、今まで大切に使っていた器を手放してまで手に入れるので、「本当に欲しいものかどうか」、選ぶ時はとっても慎重だと兎村さんは話します。そこで、買う時のポイントを尋ねてみると……。
「私は必ず手に取って、体で測るようにしています。みなさん、目で見ただけで大きさを判断して、すぐに買ってしまう人も多いと思いますが、サイズ感や使用感を、体で“感じる”ことが失敗しないポイントです」
確かに、広い店内で見ていると、自分の家よりも器が小さく見えがちで、実際に買ってみたら、思ったよりも大きかった……と感じることも多いですよね。
「まず、お皿の上で自分の手のひらを広げてみる。それから両手で持ってみて、お皿の下で両手の小指が触れ合うかどうかを確認します。
手のひらがお皿の中にすっぽり収まり、裏で小指が触れ合うと、私の棚では「小さめのお皿」になります。お店で間違いやすいサイズなので、小指の触れ感で感覚を掴んでいます。
手のひらよりお皿がひとまわり大きく、裏で小指が離れていると、私の棚では「中サイズのお皿」になります。このサイズが私のベースサイズになっています。これより大きいか小さいかで把握しています。
自分の使いやすい大きさを覚えておけば、定規がなくても自分の体で調べることができます。ぜひ試しに家にあるお気に入りのサイズ違いのお皿を持ち比べしてみて下さい。だんだんと「このサイズが好きなサイズ」「このサイズが好きな重さ」と感覚が掴めてきます。
体で感じたことって、しっかり記憶として残っているもの。だから、買ってから失敗することはほとんどないんですよ」
さらに、好みの器を一点ずつ集めるというよりは、色のトーンを揃えて、全体のバランスを優先しているそう。
「食器の色のトーンが揃っているので、料理と器をどんなふうに組み合わせても、食卓は自然とまとまります。だから、とってもラクなんですよ!」
食器棚は奥までたくさん入れないこと
null兎村さんが大切に選んだ器たちを、食卓でフル活用させるための工夫は、実は食器棚にも隠されていました。
「奥行きのある食器棚だと、奥にある器は取り出しにくいので自然と使わなくなって、化石のようになってしまいがち……。食器棚で大切なのは奥行きが浅いこと。
実際、うちの食器棚の奥行きはマグカップ2個分くらいです。なかでも小さい豆皿は、奥に入れると取り出しにくいので、あえて手前1列にしか並べていません。
棚の高さは、器にあわせてできるだけ揃えるようにしています。たとえば、大きくて深めの器の棚の高さは広く、豆皿の棚の高さは狭い。食器棚の高さを変えられる人は、器に合わせてそれぞれの高さを変えてみると、デッドスペースがなくなり、スッキリ気持ちよく収まりますよ」
「器を大切にしていると、食べることにも丁寧に向き合える」と、兎村さんは話します。家族をつなぐ場所である食卓に、彩りを添えてくれる器たち。好きなものを衝動買いで揃えるのではなく、ひとつひとつに居場所を与え、大切に向き合いながら、自分たちの生活になじむように育てていくこと。それが豊かな暮らしの第一歩なのかもしれません。
次回は、ついつい散らかってしまいがちな小物の収納法について、兎村さんならではのテクをご紹介します。
【取材協力】
兎村彩野さん
1980年東京生まれ、北海道育ち。
高校在学中にプロのイ ラストレーターとして活動を開始する。
暮らしをモチーフにしたシンプルなイラストを得意とする。
ドイツの万年筆 LAMY safari で描く「LAMY Sketch」が人気。
LAMY公認のイラストレーター。
Twitter:https://twitter.com/to
Instagram:https://www.instagra
取材・文/岸綾香