【Amazon「Prime Video」】オリジナル作品
nullナイスキャスティング!な刑事もの 「No Activity/本日も異状なし」シーズン1
豊川悦司と中村倫也による刑事ドラマ――。そう聞いて『地面師たち』(Netflix)の恐ろしい姿が頭をよぎり、あのトヨエツが中村倫也と組むバディもの!?そう早合点する人もいるでしょう。
でも『No Activity/本日も異状なし』は、それとはまったく違います。ヤバいキャラ続出、ズレた会話がえんえん続くけれど先の展開が読めなくて目が離せない! そんな、ちょっと観たことのない刑事ドラマなのです。
トヨエツが演じるのは警視庁の万年ヒラ刑事、時田信吾。敏腕刑事のようにクールな見た目で、常に鋭く真実を突くかのようなイケボの持ち主。その声で「(出世の)階段は上るだけじゃない」と名言のような迷言、っていうかただの言い訳?を真顔で言い放つ男です。それでいて極端な小心者で、しょうもない下ネタをニヤニヤしながら話し続ける、常人を越えたマヌケでもあります。そんな主人公?と首を傾げる男を、そこにいるだけでミステリアスな男の色気が漂うトヨエツが演じる。それがこのドラマのぶっとい芯になっています。
その新たな相棒の椎名遊を中村倫也が演じます。こいつも、かなりのおとぼけ。自動車学校の元教官で、「どうせ車に乗るなら、犯人を追いかける方が格好いいかな~と思って」とか言って、警視庁に転職したのが彼。
ドラマの基本は、パトカーに乗った時田と椎名がだらだら話すワンシチュエーションで、それをトヨエツと中村(←この人もかなりのイケボ)が絶妙なさじ加減で、でもナチュラルに演じていきます。配役自体がギャグのような役柄を嬉々として演じるトヨエツと、緻密な計算に基づく絶妙な受け芝居を的確に連打し続ける中村。まさにナイスキャスティング。
さらに際立つのは脚本です。手掛けたのは凄腕コント師、シソンヌのじろう。オーストラリアのドラマを日本版に脚色したとはいえ、恐ろしいまでの完成度で確実に笑わせ、マジな変態とかなりヤバいやつを、セリフの応酬からあぶり出していきます。
無線連絡室の有能なオペーレーターながら人の話をまったく聞かない里見美里(木村佳乃)、美里とペアを組む新人オペレーターで正義感が強すぎて時に制御がきかない大平阿漓羅(清野菜名)。意外とお人よしの小悪党・諌山(岸谷五朗)、犯罪心理への興味から自ら犯罪に手を染める一条(岡山天音)、麻薬取引の情報を耳にして事件に巻き込まれるSNS命!の茉莉(岸井ゆきの)と、みんなヘン。それを映画『東京リベンジャーズ』の英勉監督が手際よくさばいていきます。いや~これ本当に面白い!
良い夫婦って何?『1122 いいふうふ』
高畑充希と岡田将生の結婚には驚かされました。でも『1122 いいふうふ』を観ていた人は、「ああ、やっぱり!」と膝を打ったかも。それほどにこのドラマの二人は、夫婦としての相性がピッタリに見えます。フィクションであるはずのシーンのあれこれが、まるで現実と地続きのようです。
高畑演じるwebデザイナーの相原一子と、岡田演じる文具メーカーに勤務する相原二也は結婚7年目。「私達は、たぶん、けっこう、いい夫婦」と一子が自分で言っちゃうくらい、ベタベタしていない種類の仲良し。
仕事人間でややガサツなところもあるけど自分の頭で考えて行動する一子と、お花を習い、掃除や料理をさりげなくこなす二也には、どんな場面も長く暮らした人間だからこその阿吽の呼吸があります。二人の日常をのぞき見るようなシーンの積み重ねは、実は演技としてはハイレベルであるはずですが、そのやりとりはあまりに自然で好ましく、何気ないシーンの連続に見入ります。「ああ夫婦っていいなあ」と思うのですが、実は彼等には秘め事が。「性欲がず~っと凪状態」の一子は夫婦仲を保つため、夫との間に「婚外恋愛許可制」を敷いていて、二也には一子公認の恋人がいるのです――。
渡辺ペコによる同名漫画を、『窓辺にて』『アンダーカレント』の今泉力哉監督が実写ドラマ化。原作へかなり忠実に脚色したのは、今泉監督の奥様で、ベルリン国際映画祭「ジェネレーションKプラス」部門準グランプリにあたる賞を受賞した監督としてのキャリアも持つ今泉かおり。夫婦で夫婦ものを手掛けた、いわば物騒な(?)意欲作でもあります。
ドラマのなかでは公認不倫だったり女性向け風俗が描かれます。そう聞くと、あまりに突飛で特殊な夫婦のカタチ? と思うのですが、決してそうではありません。一子と二也は、30代のごく普通の夫婦。互いを大切に思う二人が、このややこしい現代を生きながら、なんとか夫婦というカタチを維持していきたいと七転八倒する話です。
このとても微妙な塩梅を求められる物語をぎりぎりのところで成立させるのは、俳優たちの技アリな演技と、それをバランスよく配置する今泉監督の采配。
下手したら周囲を振り回す迷惑な女になってしまう一子を、適度なキュートを散りばめて愛らしいヒロインにする高畑充希、やさしいふりして弱くて身勝手な男になってもおかしくない二也を、甘さのなかにリアリティある大人の男に仕立てる岡田将生だけではありません。
二也の不倫相手でどこか幸の薄い美月(西野七瀬)は、そんなことしちゃうの!?みたいな行動をとるのですが、そうしたすべてを飲み込んでニコリと微笑むような女。西野七瀬の演技力に驚嘆します。そんな美月の夫で、‟モラハラ夫”という枠から1ミリもはみ出さない前半から次第に男として人として成長してくさまを説得力を持って構築した高良健吾にも。
夫婦って?どんなカタチが正解?と考えないわけにはいきません。いろいろな意味で見応えのある作品です。
【Netflix】オリジナル作品
nullハッピーでゴージャスで奥深い、極上のエンタメ作『ザ・プロム』
“プロム”とは、高校卒業間際に開催されるフォーマルなダンスパーティー。ハリウッド映画の学園モノで、「パートナーがいない!」と落ち込む童貞君とか、「ドレスはどうしよう!?」と頭を悩ますJKをなんども観た気がします。
そしてこの映画、タイトルはそのものズバリの『ザ・プロム』。しかも監督は『glee/グリー』のライアン・マーフィーです。でもたかが学園モノでは終わらない奥行きの人間ドラマとゴージャスな歌と踊りがたっぷりつまったミュージカルで、極上のエンタメ作なのです。
落ち目のブロードウェイスター、ディーディー(メリル・ストリープ)とバリー(ジェームズ・コーデン)は新作舞台が酷評されて初日に打ち切り決定。バーでくだを巻きながら起死回生の策を練る二人は、「セレブの活動家になればいいのでは!?」と思いつきます。ちょうどそこで、インディアナ州の田舎町に暮らす女子高生エマ(ジョー・エレン・ベルマン)がSNSで大バズリしたことを知ります。エマは同性の恋人とプロムに行きたかったのに、保守的な土地柄もあってPTA会長らが猛反対。プロム中止を決めてしまったのです。
「今の時代、ゲイは犯罪じゃない。今こそ世界を変えるのよ!」。居合わせた売名を目論む女優のアンジー(ニコール・キッドマン)と、実はディーディーと共演経験もあるテレビドラマ俳優のバーテンダー、トレント(アンドリュー・ラネルズ)と4人、異様に高い志を勝手に掲げ、頼まれてもいないのに、インディアナ州のエマの元へと押しかけるのです。
つまりこれは『glee/グリー』風の元気な学園モノと、きらびやかなブロードウェイミュージカルががっつりと手を組んだような欲張りな映画です。しかもメリル・ストリープ、ニコール・キッドマンと超S級のスターが、惜しげもなく歌と踊りをたっぷりと披露してもいます。ちなみにバリー役のジェームズ・コーデンは、この映画の元となったブロードウェイミュージカルがノミネートされたトニー賞授賞式で、MCを務めて歌って踊っています。監督を含め、実力派揃いというわけです。
しかもただ華やかなだけではありません。それぞれのキャラクターが抱える人間ドラマもじっくりと掘り下げられます。ディーディーが出会う大人の恋、エマと同性の恋人アリシアの純粋なだけに痛みを伴う恋、PTA会長の娘であるアリシアの心の葛藤、「1000%ゲイ」なバリーの母親との確執、厳しい日々の中でミュージカルに夢を見る高校の校長に至るまで、歌と踊りに合わせて語られる彼らの物語に深く感情移入しないわけにはいきません。まさに、ミュージカルの力を思い知らされるはずです。
そう簡単に物事は解決しないし、世界をガラリと変えることは出来ない。でもラストのハッピーでゴージャスなシーンを迎えるころには、極上のエンタメ作に触れたときの満足感で胸がいっぱいになることでしょう。
年齢なんて数字!を地で行く長距離スイマーの挑戦『ナイアド ~その決意は海を越える~』
これは実話です――。その言葉の威力をまざまざと見せつけるのが、映画『ナイアド ~その決意は海を越える~』です。
『フリーソロ』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ&ジミー・チン監督は、そんなことは百も承知。だからこそ冒頭、主人公ダイアナ・ナイアド本人の映像をコラージュし、彼女が20代で「金メダル級」の功績をあげ、有名なトーク番組に出るような時の人になった長距離スイマーであることを紹介していきます。
かつてマンハッタン島一周を経て、バハマ~フロリダ間を完泳。その偉業を‟前菜”と呼んだ彼女が、‟メイン”と表現したのがキューバ~フロリダ間の遠泳でした。サメ、猛毒のクラゲ、高波、嵐、そんなこんなを乗り越えて2日半もの間、食事も休むのも海のなかで過ごし、160キロ先の対岸を目指す。
ところがこの壮大な計画は失敗に終わり、ナイアドはスイマーを引退します。映画の始まりはその30年後。60歳になった彼女が、再び挑戦へと駆り立てられるところからスタートします。
え、60歳?大半の人が引退するそのトシです。でもナイアドは、「60歳になると、世間は年寄り扱い。でも私は人より秀でていたい」と心を決めます。近所のプールでぼちぼち泳ぐことから始め、やがてくすぶっていた熱い魂が目を覚ますのです。「私は終わっていない。もっと出来る!」と、目標達成に爆走していきます。
アネット・ベニング演じるナイアドには、親友ボニーがいます。演じるのは本物の知性派であるジョディ・フォスター。二人の友情が、物語のもうひとつの核です。実はナイアドの超人的な挑戦への意思、そこには少女時代の心の傷が関係するのですが、それにしても猪突猛進な人でもあって。目的を達成するためならどしどし人を巻き込んで自分の力にして前に進もうとする。下手に近づくと火傷するよ!みたいな人でもあります。ボニーはそんなナイアドの親友、つまりは魂レベルで対等の力がある人なので、ナイアドが挑もうとする冒険のスケールに躊躇しながらも、ただ巻き込まれるのではなく、自ら飛び込んで共に進むのです。アネット・ベニングとジョディ・フォスターはこの役でオスカーにノミネートされました。
二人の挑戦はいちどや二度では成功しません。でも決して諦めない。なんど失敗しても、ナイアドは迷うことなく立ち上がります。その姿を見るうち、まだ30歳のときに一発で成功することより、60歳を過ぎて4回失敗してもあきらめなかったことのほうがよっぽどスゴイやん!と心から思うのです。そうして、「私だって!」とか本気で思いそうな自分に気づくでしょう。
以上「Prime Video」「Netflix」オリジナル作品から、おすすめ4本でした。特に気になった作品はありましたか? 他にも数多くの名作が見放題なので、サブスクの会員になったことがないという人も、ぜひ1カ月試しに登録してみてくださいね。
では、よい年末年始を!
【文・構成】カラフル不思議くん
映画コラムニスト。デヴィッド・リンチと塚本晋也と笠智衆、エグいのも笑えるのもキラキラも、洋画も邦画もほしがる雑食系。