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ドラマ「お別れホスピタル」の原作者、沖田×華さんに聞く、終末期医療の心構えとは?

『透明なゆりかご』の原作者である漫画家の沖田×華(おきたばっか)さん。NHKでドラマ化された『お別れホスピタル』を描くために元看護師としての経験を活かし、取材を通してたくさんのエピソードを耳にしたそう。そんな漫画制作の裏話と、多くの人間にとって無関係とはいえない終末期医療について、その心構えを聞きました。

漫画「お別れホスピタル」誕生!の裏話

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元看護師の沖田さんは漫画を描くにあたり、かつて同僚だった知人からの話を参考にしたといいます。そうして見聞きしたエピソードにフィクションの要素を盛りながら、終末期病棟(ターミナル)ならこういう展開があるかもしれない……と考えていったそう。

「患者さんが亡くなったあと、天井からその人の笑い声が響いたというオカルトチックな話を描きました(4巻【カルテ23】)。それはちょっと霊感のある看護師さんの体験がもとでしたが、実際にはニュアンスがやや異なります。“私は絶対に死なない!”と言っていた患者さんが、亡くなったあとに魂が体を離れ、天井から自分の死体を見てビックリしているような声がしたとか。それではあまりに怖過ぎるので、ビックリして笑うという描写にしました」(以下「」内、沖田さん)

いや、それでも充分に怖いんですけど!

「夜にご遺体を運んでいたら、天井から、わ~!という驚いた声が聴こえる。どう考えても、上の階で叫んでいる感じではなくて。エレベーターの扉が閉まった瞬間にぴたっと止まったらしいです。その場に二人がいて、今の声なに?しかもこの(ご遺体の)人の声に似てない!?って」

そんな沖田さん自身、霊感のようなものが。霊が見えたりはしないものの聴こえる、そうです。

「片耳だけに、ぼそぼそ……っと。そういえば、そういう音が聴こえるのはいつも左耳ですね。でも東京に来たら、そういうことは全然なくなりました。ただ一度だけ、高田馬場で道をすたすた歩いていたら、“すいませんね……”というおじいさんの声が聴こえたんです。え?と思って振り返ったら、そこに店舗兼住宅のような建物があって。その外階段から、黒スーツ姿の葬儀屋さんの人たちがどばどばっと、棺を霊柩車に運んでいました。たぶん自宅で亡くなり、セレモニーホールに運ぶところで。他におじいさんの姿なんてどこにもありませんでした」

匂いでも何かを感じることがあるそうで、それが「フルーツが腐ったような匂いで……」というその描写がもう恐ろしいのですが、沖田さん自身は「でも何かが見えるわけではないので、気のせいかも?」とケロリとしています。

「看護師をしていたとき、霊よりもやっぱり人間の方が怖いなと。精神病棟でパート夜勤をやっていたときに患者さんが、“夜中にお経をあげる声が聴こえるので、すぐ除霊してほしい”というのですが、実際にお坊さんが入院していて、本当にお経をあげていました。いや生きてるんかいっ。そっちも怖いし!と(笑)。夜中に正座して拝んでいたのですが、別にボケているわけでもなくて。“お経は明るいときにあげてもらっていいですか”とお願いしました。これ本当の話なんですけど、誰も信じてくれません」

確かに、そのまま漫画になりそうなエピソードです。沖田さんが、そういうネタを引き寄せるのかも……?

「実習のときも、精神科は濃い患者さんばかりでした。誰ひとり、普通の人がいない。そのなかにとても穏やかなおじいさんで、いつでも絵を描いている人がいました。普通の人がいた!と思ったら、“はい。じゃあヌードモデルになってください”と急に言われて。いや出来ませんよそんな、と(笑)」

自ら体験したり、人から聞いた話から、これ!という患者さんを軸にして。その人は過去にどんな仕事をして、どういう人間関係を経て今、終着地であるターミナルに流れついたのか?「妄想するのが大好き」と沖田さん。そうして漫画『お別れホスピタル』は生まれました。

『お別れホスピタル』4巻【カルテ23】より。

終末期医療、どうする?まずは家族で話し合いを

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看護師のエピソードをおもしろおかしく話してくださる、沖田×華さん。

kufura読者世代でも、介護や老後については他人事ではありません。自分や家族が将来、認知症になったり、病気やケガで動けなくなったときに備え、やっておくべきことを聞きました。

「元気なうちに終末期医療、こういう看護が受けたい等ということを、家族でちゃんと話し合っておくことが大事だと思います。意思疎通が取れなくなってしまうと、どういう治療をするのか?本人ではなく、家族が決めなくてはいけなくなるので。相続の問題もそうですね。でも、お年寄りとそうした話をしようとすると、“早く死んでほしいんか!?”と怒ってしまう人もいます。家族としては迷ってしまうから聞いているので、冷静に話し合えるといいのですけど」

沖田さんのお母さまもヘルパーさんとして働いています。この漫画がきっかけではないものの、将来について具体的に話すようになったそうです。

「ペットを飼っているので、ペット可のグループホーム(専門スタッフ、ヘルパーの支援のもと、集団で生活を行う施設)に入る、で間違いないよね?って。それで亡くなってからは樹木葬がいいと確認を取っています。周りに田んぼがあって、フラッと立ち寄って手を合わせて帰る。それいいじゃん!と」

沖田さんご自身も、どんな最期を迎えるか?の理想があるそう。

「旦那は先に逝くだろうし、おばあちゃんになったらきっとひとりぼっち。そこで温泉付きの老人ホームに入り、温泉につかりながらヒートショックを起こして死ぬのが夢です。まず死因を考えてます(笑)。老人ホームのお風呂なら、そのまま放置されることもないでしょうし。セルフで湯かん(棺に収める前に、遺体を湯で清めること)も済ませられますしね!

あと漫画家の女同士で、シェアハウスをしようとも話しています。それで孤独死しても大丈夫。あとはサクッと、家族葬がいい。そんなことを思っているんですよね」

kufuraで無料配信中!3巻カルテ16「夏木ハルさん」の見どころは?

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ただいま、kufuraではドラマ化を記念して『お別れホスピタル』3巻の「カルテ16:夏木ハルさん」の回を無料配信しています。

「これも実際にいた患者さんの話をもとにしています。ターミナルに入院中の患者さんが誤嚥性肺炎と診断されます。肺炎は日本人全体の死亡原因の第5位。再発を繰り返しやすく、患者さんはえんえんと抗生剤を飲まなければいけません。薬の効きが悪くなると再発し、そのうちすべての薬が効かなくなっていきます。

病院としては治療をしたいのですが、母親の年金で暮らす一人息子は、“お金はいくらかかるのか? 治療はちょっと……”という感じで。人って、点滴をしているとかなり生きられるのですが、それは治療ではありません。本人にとっては地獄だな……と思うのですが、その息子は“今、死なれたら困る”とも。

その患者さんは看護師さんや周りの患者さんに気遣いを忘れない、とてもいい方で。一人息子を甘やかしてしまったんでしょうね。患者さんにはさまざまな問題を抱えた方がいらっしゃいますが、この年金の話は絶対に漫画にしようと思っていました」

神回との声もある「カルテ16:夏木ハルさん」をぜひご覧ください。終末期医療のみならず、親子関係などいろいろなことを考えさせるエピソードになっています。

撮影/小倉雄一郎(小学館)


【取材協力】

沖田×華(おきたばっか)

1979年、富山県魚津市生まれ。2008年にデビューし、2018年に『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』で講談社漫画賞少女部門受賞。NHKでドラマ化され、文化庁芸術祭ドラマ部門大賞受賞。その他の作品に、『蜃気楼家族』(幻冬舎)、『毎日やらかしてます』シリーズ(ぶんか社)、『不浄を拭うひと』(ぶんか社)他。『お別れホスピタル』は「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)連載、最新の第11巻は1月30日発売。

土曜ドラマ『お別れホスピタル』
NHK総合 毎土22:00~(2024年2月3日より全4回)
原作:沖田×華 脚本:安達奈緒子 音楽:清水靖晃 演出:柴田岳志、笠浦友愛 制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、松川博敬(NHK)
出演:岸井ゆきの、松山ケンイチ、内田慈、仙道敦子、小野花梨、麻生祐未、丘みつ子、古田新太、きたろう、木野花、泉ピン子

浅見祥子
浅見祥子

映画ライター。映画配給会社勤務を経て、フリーランスに。二児の母。
『ビーパル』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)などの雑誌、『@DIME』、『シネマトゥデイ』などのWEB媒体で映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。
西田敏行の語り下ろしエッセイ本『バカ卒業 ~映画「釣りバカ日誌」のハマちゃん役を語ろう~』(小学館)、お笑い芸人ニューヨークのエッセイ本『今更のはじめまして』(ワニブックス)を担当。

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