原作は、実話がもとだからこそのリアリティー
null漫画『お別れホスピタル』は、どんなきっかけで生まれたのでしょうか?
「私自身が元看護師で、小児科と、精神科の閉鎖病棟に勤務した経験があって。元同僚や先輩と、地元へ帰ったときに会ったりすることが多かったのです。そのうちのひとりがターミナルで2~3年働いていて、そこで働く苦労話や患者さんの話を聞くうち、頭の中で勝手にキャラクターが動き出しました。
ターミナルの患者さんって、意外と元気な方も多くて。お願いが聞き入れてもらえなくて入れ歯を投げるおばあちゃんや、用もないのにナースコールを押しまくって気の強い看護師さんに“いい加減にしろ!”と怒鳴られるおじいちゃん。胃がんで胃を切除したのに“今日のご飯は?”と尋ね続ける人や、看護師に“僕と結婚してください!”と言い出す人もいました。
そうした話が既に漫画的に成立しているというか、ちょっと笑えるなと。これまでの医療漫画って、腕のいいお医者さんが出てきて難しい手術を成功させる、そんな話が多いですよね。終末期医療をテーマにしていても静かでほんわかした話で、ただ患者が亡くなっていくだけの話ってなかったなと。それで描いてみたい!と思ったのです」(以下「」内、沖田さん)
自身の経験に加え、実際に経験した看護師さんの話をもとに、想像を膨らませて物語を構築していきました。元看護師なので病棟の雰囲気はわかるし、このタイミングでナースコールが来たらぶち切れるだろうな……と先読みもしやすい。だからこその異様なまでのリアリティーが、物語の吸引力となっています。
「“(ターミナルを)ゴミ捨て場と呼ぶなんて酷い”とか“看護師さんの患者さんへの向き合い方がよかった”と読んでくださった方の反応はさまざまでした。
私の場合、あまりに重い話を描いていると、どうしても途中でふざけたくなってしまって。しんみり終わりたくないとくすっと笑える話を入れたりしましたが、読者の方がそうしたことも汲み取って楽しんでくださったようでありがたかったですね」
安達さんが書いてくれるから不安はない
nullドラマ化にあたって脚本を担当したのは、『透明なゆりかご』(NHK)でも組んだ安達奈緒子さん。『きのう何食べた?』(テレビ東京)シリーズや、『おかえりモネ』(NHK)も手掛けた人気脚本家です。
「『透明なゆりかご』はまさに透明感のようなものを大事に描いたのですが、その雰囲気、空気感を損ねることなく脚色してくださって。俳優のみなさんが素晴らしかったのはもちろんですが、あんな簡単な絵柄の漫画がこんなことになるんだ!とびっくりしました(笑)。
そもそもドラマは映像が動くものなので、違って当たり前という思いもあります。ですからドラマ化にあたって私から何かお願いすることはなかったのですが、安達さんによるオリジナルストーリーの部分も大変に面白かったのです。それで今回も、私から何かリクエストすることは特にありませんでした。安達さんが書いてくださるなら何も不安はない、お任せします、と」
『透明なゆりかご』がドラマ化されたときは、出演者が集まって台本を読む「本読み」を見学。その時点で「誰もが役柄に馴染んでいてミスキャストがひとりもいない!」と驚いたそう。そして今回は、撮影現場へ。主人公の看護師である辺見歩役の岸井ゆきのさん、医師である広野誠二役の松山ケンイチさんらの撮影を見学も。
「こういう看護師さんや医師っているな~と。患者さんへの処置はこういう流れになるよななどと思わせ、すごいすごい!という感じでした。キャストのみなさんがナースステーションに集まっているところもとても自然でしたね。ただ見学出来たのは1シーンだけで。台本は読ませていただきましたが、10巻の原作から4話にしているので、エピソードがぎゅうぎゅうにつまってます。濃いドラマになると思います。それでいて映像になってすべてがつながったらどんなドラマになるのかな?と私自身が楽しみにしているところです」
終末期医療にかかわる人たちの現実を見てほしい
nullこれからドラマを観る方に、メッセージをいただきました。
「ターミナルに家族を預けてらっしゃる方には、病院のなかがどうなっているかというのはなかなかわからないですよね。そこで実際にどんな看護をしているのか?亡くなるときは、どういう流れになるのか? そうしたことを見てほしいです。
それから認知症で寝たきりだったり、生きているのか死んでいるのか?わからないような状態の人が多いわけです。そういうなか、日常的に関われるのは看護師さんしかいません。それでも意外と元気な患者さんもいて、ワガママを言ったり問題行動をとったり、ちゃんと生きた人間として最期まで病院にいたことを知っていただければ。
もちろん、医師や看護師はたくさんの患者さんを担当するので、流れ作業のようになってしまい、悔しい思いをする人もいるはずです。ドラマの舞台となる病院で働く人にもそうした苦労がありますが、そのなかで患者さんと向き合うことを諦めない人間もいます。主人公の辺見も忘れてしまうときがあるけど、そういうときはまた原点に戻って患者と関わっていこうとする。そんな姿を見てほしいなと思っています」
撮影/小倉雄一郎(小学館)
【取材協力】
沖田×華(おきたばっか)
1979年、富山県魚津市生まれ。2008年にデビューし、2018年に『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』で講談社漫画賞少女部門受賞。NHKでドラマ化され、文化庁芸術祭ドラマ部門大賞受賞。その他の作品に、『蜃気楼家族』(幻冬舎)、『毎日やらかしてます』シリーズ(ぶんか社)、『不浄を拭うひと』(ぶんか社)他。『お別れホスピタル』は「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)連載、最新の第11巻は1月30日発売。
土曜ドラマ『お別れホスピタル』
NHK総合 毎土22:00~(2024年2月3日より全4回)
原作:沖田×華 脚本:安達奈緒子 音楽:清水靖晃 演出:柴田岳志、笠浦友愛 制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、松川博敬(NHK)
出演:岸井ゆきの、松山ケンイチ、内田慈、仙道敦子、小野花梨、麻生祐未、丘みつ子、古田新太、きたろう、木野花、泉ピン子
映画ライター。映画配給会社勤務を経て、フリーランスに。二児の母。
『ビーパル』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)などの雑誌、「シネマトゥデイ」などのWEB媒体で映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。
『バカ卒業 ~映画「釣りバカ日誌」のハマちゃん役を語ろう~』(小学館)、『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(ワニブックス)を担当。