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最新作は「狼の娘」!小玉ユキ作品が、私たちの心を掴んで離さない理由

秋の夜長に、漫画はいかがですか? 『月刊flowers』で連載中の『狼の娘』は、ちょっと不思議でドキドキする展開に、世代や性別を問わず「続きが気になる!」と心を掴まれる人続出。その作品はどのように生まれているのか、作者の小玉ユキさんにお話を聞きました。

少し不思議な世界にくすぐられる

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映像化もされた『坂道のアポロン』。伝統芸能“おわら”を守り継ぐ高校生の恋愛模様を届ける『月影ベイベ』。そして、長崎・波佐見の窯元で絵付けをする主人公の恋と仕事を描いた『青の花 器の森』など、数々の作品で知られる小玉ユキさん。

長崎の大学を卒業後、漫画家を目指して上京し、2000年にデビュー。子ども時代は、白い紙を見つけては漫画を描いていたそうです。

「初めて夢中になった漫画は、小学1年生のころ学年誌に連載されていた、上原きみ子先生の『まりちゃん』シリーズです。バレエ少女の主人公がバレリーナに成長してゆくのですが、華やかで、かわいくて、ドラマチックで。毎月毎月、ドキドキさせる展開で、漫画って楽しい!と感じました」(以下「」内、小玉ユキさん)

漫画家生活は20年以上。ライフステージの変化も経験し、さまざまな作品を描く中でも変わらないのは「常に、一つ前にやらなかったことをやりたい」という想い。

「人魚、白鳥が人間になる、狼に変身できる狼人(おおかみびと)……基本的に少し不思議なテーマが好きですね。あとは、自分とは生きる時代が違うとか。私自身が覗いてみたい世界を覗きに行くような感覚で、いろいろな作品に挑戦しています」

中でも長編は、やはり特別だそうです。

「とくに連載は覚悟がいるので。連載で、長編になるような話だと、向こうからテーマがくる感じがします。あっこれかも?って、カチンとハマるというか。今までもなんとなく好きだった物事を、実際に見に行ってみたらこれだ!ってなる瞬間があるような気がします」

「狼の娘」を生んだ出会いとは?

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自分の中にある「好き」や好奇心が作品につながっている小玉さん。2022年8月から連載がスタートした『狼の娘』は、どのように生まれたのでしょうか?

「当初から担当編集さんに“次は狼をテーマにしたい”と相談していました。もともと海外の研究者が発信する狼愛が詰まったTwitterをチェックしていたんですが、最初に“好き”に気がついたのは、担当編集さんが数年前の誕生日にくれた狼モチーフの靴下です。かわいい!なんで私が好きって知ってるの?って(笑)。

構想しはじめたのはコロナ禍で、現地取材がままなりませんでした。たくさん本を買い、読み漁っていたんですが、どうも肌で感じるものがない。ある日、家の用事で出かけたときに『蒼い夜の狼たち』という絵本の原画展に出くわして。そこにいらした寺崎美紅さんという原作者の方が、ニホンオオカミについてフィールドワークされたり、大学時代から山岳信仰について調べていらっしゃったんです。これは!とご協力をお願いしたことで、具体的に膨らんでいきました」

狼と少女が織りなす青春ファンタジー

月菜が出会った白い“大きな犬”の正体は……?

そして誕生した主人公は、受験を控える高校3年生の月菜(つきな)です。彼女は誰にも言えない秘密を抱えています。このままでいいのか葛藤する日々。家の近所で、白く光る“大きな犬”に遭遇します。

ワイナリーの一人息子・颯は、神から人間との橋渡しのため力を授けられた、黒い狼の末裔。

さらに、アルバイト先で出会った颯(はやて)から「仲間」だと言われたことで、月菜の運命は大きく動きはじめます。

彼の正体は、狼に変身できる「狼人(おおかみびと)」でした。その中でも珍しい灰色の狼に変身することがわかった月菜は、楓の一家が営む山梨のワイナリーでアルバイトをはじめることに。

9月に発売されたばかりの最新巻では、月菜と颯の仲はさらに親密に。新たなキーマンも活躍し、月菜は卒業後の進路を迫られ……。ファンタジーならではの魅力と、同じ女性として月菜が羨ましくなるような展開もありつつ、月菜のこれからが気になって!!

そう、今まさに物語は、加速度をつけて転がっている真っ最中なのです。

舞台となる土地も登場人物の言動もリアルに

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『狼の娘』の舞台の1つ、山梨に広がるぶどう畑の姿がまた気持ちがよいのです。

『狼の娘』はファンタジーですが、登場する街はリアルにこだわって描かれています。たとえば、月菜がアルバイトをする颯のワイナリーは、実在する山梨のワイナリーがモデル。このほかにも山梨の勝沼と丹波山を何度も訪れ、目の前に広がる光景や作業風景をリアルに表現しているのだとか。

「私がもともとファンだったワイナリー『くらむぼんワイン』をはじめ、地域の皆さんに本当にお世話になっています。

『くらむぼんワイン』は自社でぶどうも育てるワイン作りをされているのですが、ワイナリーが全てそうではなくって。畑の様子や作業風景もたくさん見せていただいて、『狼の娘』に出てくる楓一家のワイナリーも『くらむぼんワイン』と同じワイン作りをしている設定にしました。颯たちが暮らす家は社長のご実家で、いまは売店とイベントスペースになっている場所。実在するんですよ」

そのリアリティーへのこだわりは今作に限らず、担当編集さんが「普段は穏やかな人なのに、漫画になると頑固」と表すほど。車での移動時間は、実際の距離と合っているか。登場人物に食事させたいお店が本当にあるかなども、作品に反映。それは苦しい作業ですが、だからこそ読者も感情移入し「訪れてみたい」「実際に行ってみた」という声も少なくないのだとか。

「やっぱり土地が持つ力は、作品に欠かせません。自分1人じゃ絶対に思いつかないことも与えてもらっています。そういうものを漫画にいかせたらいいなと思っていつも描いているから、行ってみたいと思ってもらえるのはとてもうれしいです」

恋に、仕事に、人生に。人は1つじゃない

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好きな人がいても、仕事や学業があったり、仕事をしながら家事育児をしたり。人が生きるということは、さまざまな要素が絡み合っています。

恋愛がテーマだとしても、それだけにとどまらないのも小玉作品の魅力。登場人物が自分の一所懸命なことに向き合い、そこに恋も絡んでくるので、ますます共感出来るんです。

「私自身もそうですが、人が生きていくのって、いろんなことがありますよね。恋愛ものだとしても、同時に仕事や好きなことも追いかける。これって人として、すごく大事な“当たり前”だと思うんです。

主人公の生きる道に、それを支えてくれる人とか刺激し合う人とか、人との出会いもあって主人公自身が変わっていきながら自分の生き方を探す。そういう姿を描きたいので、恋愛じゃない部分も大事にしたいんです」

漫画の世界に没入してもらえたらうれしい

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最後に、今後についても伺いました。

「いまは『狼の娘』のことしか考えてないので、まだ何もないです。1つ描いているときは、目の前に全力で……。あれも描きたい、これも描きたいっていう、夢のような漫画家になりたい(笑)」

では、小玉さんがいま一所懸命に向き合われている『狼の娘』を、どのように楽しんでほしいですか?

「誰もにそれぞれの生活があります。その中で、時間がゆるせば漫画に触れていただきたいです。そして、漫画を読むときだけは息抜きしていただけたら。

さらにうれしいのは、漫画の世界に没入してもらえることですね。その土地に行っていないけれど行ったような気持ちになったり、どんな街だろう?行ってみたい!と思ってもらえたり。想像の翼を羽ばたかせてもらえたら、こんなに素敵なことはありません。

『坂道のアポロン』『月影ベイベ』『青の花 器の森』と、ファンタジーではない長編を3つ描き続けてきたので、『狼の娘』は久しぶりの長編ファンタジーです。不思議な世界を楽しみつつ、青春ものでもあるので、月菜がここからどんな道をたどるかを一緒に体験してもらえたらうれしいです」


 

『狼の娘』(小学館)1~2巻発売中

小玉ユキさんの最新作は、狼と少女が織りなすファンタジー作品。秘密を抱えた高校生・月菜が新しい出会いに導かれて、今まで知らなかった未知の世界へと踏み出していきます。『月刊flowers』で大人気連載中。

『狼の娘』オフィシャルサイト

ニイミユカ
ニイミユカ

朝ランが日課の編集者・ライター、女児の母。目標は「走れるおばあちゃん」。料理・暮らし・アウトドアなどの企画を編集・執筆しています。インスタグラム→@yuknote

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