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ドラマ「ハヤブサ消防団」は「ぞわぞわ」感のフルコース!もう全員が疑わしい

池井戸潤原作のミステリードラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)、誰が放火犯なのかが気になる局面です。芸達者な役者さんが揃っていて、見応えがありますよね。

独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんに、その見どころを教えていただきました。

隼地区の不穏にぞわぞわ

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自治会とか理事会とか管理組合とか隣組とか消防団とかPTAとか、面倒な決まり事や争い事に関わらなければいけない組織がある。「誰かがやらねば」「他にいない」「順番だから」と引き受けざるを得ないときもある。生半可な気持ちでやり始めたら、ドツボにハマって地獄を見る。そんな経験、ないだろうか。私はある。

今夏、その手の組織にうっかり巻き込まれてしまったのが中村倫也。『ハヤブサ消防団』の話だ。倫也が演じる主人公・三馬太郎は、デビュー作以降ぱっとしないミステリ作家。岐阜県の山間の集落に、父が残した空き家があり、処分するつもりがなんだか気に入ってしまって、移住を決意。

この八百万(やおろず)町隼(はやぶさ)地区の消防団に誘われて入団するも、謎の連続放火事件やら自殺に見せかけた殺人事件が起こり、集落全体には不穏な空気が漂う。作家の好奇心と洞察力で事件の謎に迫ろうとするが、やんわりと警告まで受ける。都会暮らしのインテリが土着的な田舎の集落で快く受けいれられたかのように見えて、実は……という展開。ぞわぞわする!

柔和な顔立ちでやることはやる都会の男

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今作、中村倫也が実にしっくり。柔和な顔立ちで知的な言動だが、集落の前近代的な男社会にすんなり受けいれられる役どころ。「都会もん」で「余所者」だったが、住民にとけこんで馴染むのが速く、「新参者」からすっかり「ハヤブサ住民」となるのも、倫也ならではの説得力。「穏和」が服着て歩いているような感じだもの。見た目だけでなく、声の穏やかさと安定感に惹かれる人が多いのも、納得がいく。

もちろん、太郎が消防団に入団したからでもあるが、その立場は、実はとても危うい。執筆で忙しいはずが、消防団だけでなく、燈明当番やら寺当番やらの役割を引き受け、町おこしドラマの脚本執筆まで依頼されて。NOと言えない状況に追い込まれているが、本人もちょっと楽しんで、やりがいを感じている。ただ、太郎の知らないところで何やら禍々しい思惑が複雑に絡んでいて……。

町おこしドラマ企画は、太郎と同じく都会から集落に移住した立木彩(川口春奈)が担当。太郎は彼女に惹かれて、ちょっとイイ感じになってちゃっかり一夜を共にする(やることはやるわけよ)。すっかり浮かれて迎えた朝に、太郎の担当編集者・中山田洋(山本耕史)から知らされたのは、彩が「カルト宗教の信者だった」という情報(信者12人を拷問で殺害した事件で世間を震撼させた教団)。関係ないけど、中山田のチャラさと敏腕のさじ加減が絶妙で、講談社にいそうな編集者だなと思った。

彩の話では、信者だったことは事実。東京で脚本を書いたものの、上司にすべてを横取りされ、さらにゴーストライターとして尽くせという会社の命令に絶望。そんな折、友人に誘われたのがカルト宗教だった。今は教団自体も解体し、縁も切れた。一切関係のない土地で新たな人生を踏み出したところという。そんな彩の過去を太郎は受けとめて、交際することになるのだが、彩は彩でまだ何か隠してるわけよ、薄気味悪い背景を。

ただでさえ、昭和的ホラーみの強い舞台なのに、令和のタイムリーなカルトネタまでつっこんでくるとは! でも、これくらい主人公が追い込まれてくれないと、ドラマは盛り上がらないし、深みも出ないわけで。

基本、全員が疑わしく見える隼地区の面々

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太郎を温かく迎え入れた消防団の皆さんだが、正直、全員疑わしい。林業社長の山原賢作(生瀬勝久)は最初っから表情と言葉に含みがあって疑わしい。山原と犬猿の仲というが、だからこそ疑わしいのが養鶏場社長の宮原郁夫(橋本じゅん)。町役場に勤める森野洋輔(梶原善)も、呉服屋の徳田省吾(岡部たかし)も、そもそも太郎を消防団に誘った藤本勘介(満島真之介)も、それぞれのキャラクターがいい配分で団結しているところも疑わしい。適材適所の役者陣だからかな。私が疑いすぎ?

ついでにいうと、番組ホームページのメインビジュアルで、もうひとり顔が隠れている消防団員がいるんだけど、あれ誰?出てきてないよね?もうこの時点でぞわぞわ。

消防団も何か隠し事がありそうだし、隼地区の土地を狙っている余所者、太陽光発電会社の真鍋明光(古川雄大)も、放火事件の関与が匂う。高齢住民に根も葉もない噂を吹き込んで回り、地域にとけこむフリをして虎視眈々と土地を狙っているように見える。なんならカルトと関係ありそうとも思わせるのは、古川の完璧なアルカイックスマイルのせいかな。

虚ろな目をして徘徊する白髪の女性(村岡希美)や、高額の寄進を受けている寺の住職(麿赤兒)、写真だけの登場だが忌まわしい過去が関係していそうな謎の女性(小林涼子)。カルト宗教や土地買収というキナ臭い話だけでなく、この集落の因習あるいは過去の惨劇が関係していそうなニオイ。「太郎の父親が関係している?」「山原さんちの呪いか?」「隼地区全員グルでカルトか!?」と疑心暗鬼が止まらない。

余所者やはみ出し者を警戒するのは「仲間を守る」意識が強いから。善人が平和と正義の名のもとに、団結していくおそろしさを感じてしまう。前回の第6話で、家の畑に放火された太郎。放火犯は消防団の中にいると踏み、外様チーム(元サラリーマンである住職と編集・中山田と彩)に協力を求めたが……。「太郎、全力で逃げて!」となるのか、それとも「太郎、よくやった!」となるのか。登場人物全員を疑り深く凝視している。

『ハヤブサ消防団』
テレビ朝日系 毎週木曜夜21時00分~
脚本:香坂隆史 音楽:桶狭間ありさ ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日) プロデューサー:飯田サヤカ(テレビ朝日)、木曽貴美子(MMJ)、小路美智子(MMJ) 演出:常廣丈太(テレビ朝日)、山本大輔(アズバーズ)ほか 原作:池井戸潤「ハヤブサ消防団」 
出演:中村倫也、川口春奈、満島真之介、古川雄大、岡部たかし、梶原善、橋本じゅん、山本耕史、生瀬勝久、麿 赤、村岡希美、小林涼子、福田転球、金田明夫

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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