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恋って何?赤楚衛二の魅力炸裂!ドラマ「こっち向いてよ向井くん」

今年一番の売れっ子俳優・赤楚衛二さんが主演の恋愛ドラマ『こっち向いてよ向井くん』(日テレ)。
恋愛下手の男性を、赤楚さんが絶妙な演技で魅せてくれます。

独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんに、その見どころを教えていただきました。

恋とはむずかしいもの

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長らく恋から遠ざかった人の諦めや開き直り、焦りや戸惑いを描くドラマはたくさんあった。名作で言えば、鈴木京香主演の『セカンドバージン』(2010年・NHK)、阿部寛主演の『結婚できない男』『まだ結婚できない男』(2006年、2019年・カンテレ)など。最近では『隣の男はよく食べる』(テレ東)で、ヒロインの倉科カナは10年恋人がいないという設定だった。

「仕事が忙しい」「キャリアを築きたい」「面倒臭い」「なんとなく」で恋愛から離れていた主人公が、一念発起あるいは運命的な出会いで恋を始める。久々の恋愛に迷ったり四苦八苦する姿は、観る人の共感を呼び、激励されると同時に、「そこな!」と厳しいダメ出しもくらうものだ。

今回取り上げる『こっち向いてよ向井くん』(日テレ)はその権化。“恋愛迷子”の33歳、恋人いない歴10年の主人公・向井悟が毎回繰り広げる失敗の数々には、女性たちから「そこな!」のツッコミの嵐。演じるのは「人を好きになる純粋な喜びと戸惑い」を表現するのが秀逸な赤楚衛二。

赤楚の代表作と言えば“チェリまほ”。『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年・テレ東)では文字通り、30歳まで童貞で人の心を読めるようになった男性を演じた。職場の同期(町田啓太)から惚れられていることを知り、その思いに誠実に向き合っていく役どころ。また『SUPER RICH』2021年・フジ)では、超裕福だが天涯孤独な女性CEO(江口のりこ)に敬意と好意を抱くインターン役だったし、『石子と羽男』(2022年・TBS)でも、高校の先輩で東大卒のパラリーガル(有村架純)に真摯に思いを寄せるアルバイトの役。そして朝ドラ『舞いあがれ!』(2022年)ではヒロインの幼馴染で、のちに夫となった歌人の貴司くん。

性別や格差をこえて、まっすぐに一途に「好き」になるのが赤楚の特性で特技だが、今作の役どころは真逆。毎回、恋をしているように見えるものの、相手を好きになってはいない。勘違いや思い込みが多く、激痛&撃沈を繰り返していくのだ。極貧生活やタイムスリップよりも実は精神的苦境に陥っている赤楚が見どころのひとつ。

「守ってあげる」「誠実」「不快じゃない」

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では、この向井くん、どんな女性と恋をしようとしたのか。1話では派遣社員の中谷真由(田辺桃子)。押しの強い後輩(内藤秀一郎)から強引に誘われて困っていると勘違いする向井くん。しかも真由が自分に好意を寄せていると確信しちゃうわけだ。ダメ出しキーワードは「守ってあげる」

2話では、義弟の武田元気(岡山天音)が経営するバー「パイレオ」のアルバイト・アンちゃん(久間田琳加)。10歳下でグイグイ迫ってくる積極的な女子だが、ジェネレーションギャップもある。ちゃんと好きになろうと努力する向井くんだが、思いっきり裏目に出る。ダメ出しキーワードは「誠実」

毎回、物語は向井くんサイドの思惑を中心に進んでいくが、終盤に相手の女性サイドの思惑や本音が映し出される。ここで向井くんの勘違いや思い込み、ある種の傲慢さや足りなさがまるっと露呈。

1話の真由は後輩に強引に誘われることにドキドキして戸惑っただけで、実は相思相愛。守ってあげるというナイト気取りの向井くんを心中では「邪魔!」と思っていたわけだ。2話のアンちゃんは向井くんを部屋に誘うも、「誠実に向き合いたい」と言われて「なんかちょっと面倒臭いこと言い始めたなぁ」と冷めていく。そもそも、ことあるごとに10年前にフラれた元カノ(生田絵梨花)を思い出す時点で、向井くんはちっとも先に進めていないわけだ。

失敗続きの向井くんだが、3話では婚活疲れした原チカ(藤間爽子)と、なんと結婚に向かって交際に発展。体の相性も実は3年前にお試し済みで、チカいわく「不快じゃない」。なんとなく妥協の文字が浮かんじゃうので、このふたりがうまくいくとは到底思えないんだけどなぁ。

この向井くんのトライアル&エラーを客観的に分析して見守ってくれているのが、パイレオの常連客・坂井戸洸稀(波瑠)である。現実的には、ここまで冷静かつ正確な現状把握で、致命傷寸前のダメ出しもしてくれる女がいたら、男は怒り出すだろうな。向井くん、そこは素直なのが救い(この素直さこそ、赤楚衛二を投入した最大の理由ではないかと思っている)。

ただし、坂井戸さんも恋愛賢者でもなければ恋愛マスターでもなさそうだ。同僚のバツイチモテ男(市原隼人)に好意をもってはいるが、“都合のいい女”疑惑もある。本人は恋愛の賞味期限を早めないために、駆け引きをしているというが……。坂井戸さんの恋模様も、今後要チェックである。

「結婚して後悔する」という現実も

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向井くんの右往左往、坂井戸さんのダメ出し&駆け引き、そしてもうひとつの見どころがある。向井くんの妹・麻美(藤原さくら)である。バーを経営している元気と結婚、新居が見つかるまで実家に同居しているという設定。低姿勢で調子のいい元気は、母(財前直見)とも兄ともうまくやっている。実家暮らし、超快適じゃないかと思うのだが、麻美は麻美でちょっとマリッジブルーの様子。元気に対してもかなりの塩対応だ。結婚して姓が変わったことの面倒臭さ、「主人」「奥様」と呼ばれることの違和感。自由人だった元気がすっかり世間の枠におさまっていることに疑問を抱く。3話のラストで「結婚をやめよう」と言い出したのだ。

兄は「いつか結婚するのが当然、そのためには彼女を作らねば」と焦っている。妹は結婚したものの、「夫婦」に押し付けられる役割にちょっとモヤモヤしている。この兄妹の対比も非常に興味深い。王道も正解もない「結婚」に対して、2030代の男女が何をどう取捨選択していくのか。いろいろな要素が詰まったドラマなのだ。

『こっち向いてよ向井くん』
日テレ毎週水曜夜22時00分~
脚本:渡邉真子 プロデューサー:三上絵里子 演出:草野翔吾、茂山佳則 原作:ねむようこ「こっち向いてよ向井くん」 音楽:FUKASHIGE MARI
出演:赤楚衛二、生田絵梨花、岡山天音、藤原さくら、森脇健児、内藤秀一郎、上地春奈、岩井孝士朗、若林時英、財前直見、市原隼人、波瑠

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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