幸之助の妻・史枝に見る「無償の家事労働」
null3世帯が同居する平田家の主婦、史枝(夏川結衣)。夫・幸之助(西村まさ彦)は亭主関白で家事は一切せず、息子2人も部活や塾で忙しい。幸之助の父・周造(橋爪功)と母・富子(吉行和子)も、それぞれにリタイヤ人生を楽しんでいるようで、家事は完全に史枝に任せきり。毎日6人分の料理、洗濯、掃除に追われる史枝ですが、もちろん収入はゼロ。毎月、幸之助からもらう生活費からほんの少しずつ貯めたへそくりがあるのみです。
高校生のときに踊ったフラメンコにもう一度挑戦したいと思いながら、日々の忙しさに消耗されて、家事の合間にペットの小鳥と話すぐらいしか自由な時間がありません。パートに出ることも夫に反対された史枝はまるで籠のなかの鳥のよう。
ある日、冷凍庫に隠してあったへそくりが泥棒に盗まれてしまい、「俺の稼いだ金をピンハネをして、へそくりをしていたのか!」と激怒する幸之助。夫の暴言に我慢できなくなった史枝は家出してしまいます。残された家族は慣れない家事にてんてこ舞いしますが……。
少し前に大ヒットしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』でも女性が無償の家事労働を拒否したことが話題をよびました。
ちなみに、経済協力開発機構(OECD)が2014年に発表したところ、日本の女性が無償労働に費やす時間は1日約5時間で、男性は約1時間なのだとか。男性が家事労働に充てる時間は日本が最低レベルだと言われています(日本経済新聞WEB版参照)。
母・富子に見る「お墓の継承」
null義理の母・富子は、史枝とは違い、夫・周造に気を使うことなく、毎日趣味に没頭しています。遺産により自分だけの収入がある富子は、偏屈な夫には干渉されず幸せそうですが、実は悩みがあります。
それは、夫と同じお墓に入りたくないこと。縁もゆかりもない夫の先祖の墓に入るよりも、女友達と一緒にお墓を買ってそこに入ると言い張ります。
よく聞く“お墓の継承”問題。『ビデオの女性学』(有斐閣ブックス)でも触れられているのですが、現在のお墓は、日本の「家」制度が前提で作られました。戦前にあった「妻は婚姻に因りて夫の家に入る」(旧民法788条)の慣習が続いているんですね。現在の民法750条では、結婚した夫婦は「夫又は妻の氏」のどちらかを名乗ることになっていますが、実際には妻の約97%が夫の姓に改姓しているのだとか。
平田家長女・成子に見る「戸籍制度」
null平田家の長女・金井成子(中嶋朋子)は、平田家を出て夫の姓に改姓していますが、税理士事務所を経営し、夫・泰蔵(林家正蔵)は雑務を担当し成子をサポートしています。経済的優位を保つ成子が事務所でも家でもパワーをもちます。
そして、長男夫婦の問題を気に掛ける成子、それに同調する泰蔵に向って幸之助は、「お前は黙ってろ、婿のくせに」というシーンがあります。実際は婿ではないのですが、“家に入る者は戸籍筆頭者に逆らえない”という「家」制度の意識が、脈々と私たちに受け継がれていることを感じさせます。
「今回は妻への讃歌です。専業主婦の家事という仕事がどれだけ大変か、家族にとって主婦の存在がどれだけ意味をもっているか」を伝えたかったと映画パンフレット内で語る山田洋次監督。本作は、“主婦への讃歌”がテーマとなっています。多くの主婦が共感し、涙できる物語、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
【参考】
日本男性の家事時間は最低レベル OECD調査 – 日本経済新聞
有斐閣ブックス『ビデオで女性学』井上輝子・木村栄・西山千恵子・福島瑞穂・細谷実著