1:世界歴代興収第1位更新なるか!?これが映像技術の最先端『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
null2009年、世界中に一大ブームを巻き起こし、映画館のスクリーンに映る3D映像で映画を観る喜びを教えてくれた『アバター』。以来13年間、世界歴代興収第1位に君臨し続けるこの映画、パート2はいつ公開!?と映画ファンの間でも話題になっていました。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は多くの映画ファンが本当の意味で待ち続けた映画です。もちろんジェームズ・キャメロン監督の続投。期待感は高まります。
舞台は惑星パンドラ。車椅子生活の元海兵隊員ジェイクは、先住民ナヴィと人間をかけ合わせた肉体「アバター」に意識をリンクさせる操作員として、パンドラの希少鉱物を求める「アバター・プロジェクト」に参加。これに抗するナヴィの族長の娘、美しき戦士のネイティリと恋に落ちる……。環境問題、人間と自然の共生などわれわれになじみ深いテーマもあって、日本でも大ヒットしました。
新作はその10年後、ジェイクとネイティリは結ばれ、幸福な家庭を築いています。美しい森でかわいい子どもたちを育てる二人、冒頭のその描写からもう心を奪われます。画面の隅々にまで生きものが息づくような、瑞々しい生命力に直接触れたような、まさに森に身を置いたときの感覚。空気までキラキラと澄んできて、こちらの細胞が目を覚ますほどの鮮やかな感触を覚える。まさに『アバター』の世界、しかも映像技術は確実に進化しています。
ところがそんな平和な日々は破られ、ジェイク一家は森を追われて“海の部族”に身を寄せます。つまり、今度の主な舞台は海!
『ジョーズ』の恐怖どころではない、恐竜みたいに巨大な海洋生物に追われるハラハラどきどきのチェイス、暗闇で赤い光を放つ無数の魚の群れに囲まれた恍惚とするような美。地上よりずっとバラエティーに富んだ生きものが登場し、ダイビングでしか味わえない、異世界に身を置く感覚を文字通り実感することになります。
そこは『アビス』とあの『タイタニック』を手がけたジェームズ・キャメロン。水族館で本物の魚を見るよりずっと海の中を体感できる、とさえ思えるのです。
『アバター』以降、“新しい映像体験”という宣伝文句のつけられた映画はいくつもありましたが、これは確かに“映画を観る”という言葉の意味を押し広げているのかも。奥深い人間ドラマや緻密に構築されたミステリーを楽しむのとは違う、映像そのものが観る者の魂を揺り動かす映画です。
スカッとしない日常にどんよりした大人はもちろん、どんなものにもフレッシュな感覚でぶち当たるであろう子どもにはたまらない体験になるはずです。
2:ドタバタとキュンキュンと、どこまでもハッピーな群像劇『ハッピーニューイヤー』
null舞台は、クリスマスの華やぎに満ちる高級ホテル「エムロス」。15年も親友のスンヒョに告白できないホテルマネージャーのソジン、自宅のボイラーが故障して同ホテルに滞在する「エムロス」CEOのヨンジン、「フラれるのも、試験に落ちるのも疲れた……」と一週間の滞在後に自殺を決意するジェヨン、ホテルでの年末ライブを控えたシンガーソングライターのイ・ガン、ベテランのドアマンとして入口に立ち続けるサンギュら。果たして彼らは、どんな新年を迎えるのでしょう?
『猟奇的な彼女』のクァク・ジェヨン監督による、まさに韓国版『ラブ・アクチュアリー』。ソジンは職場ではデキる女なのに恋にはからっきしでちょっとドジ、ハンサムでやり手CEOのヨンジンはなんでも偶数にこだわる強迫症持ちと、登場する男女14人はそれぞれに人間味たっぷり。
あっちの彼とこっちの彼女の間で恋の矢印が行ったりきたり、あちらとこちらがどこかでつながっていたり。男同士の泣かせる友情もあって、韓国映画らしいベタさはストーリーに安定感をもたらし、ひたすらに楽しく、彼らのジタバタとしたどこかかわいいロマンスが描かれていきます。
男友達の結婚を前に右往左往するソジンの物語は、まるでジュリア・ロバーツ&キャメロン・ディアスの『ベスト・フレンズ・ウェディング』のよう。誰もが知る片思い経験の思い出がよみがえり、胸をキュンとさせます。
そのほか、画面をパッと明るくするスターであるイ・ガンのライブで、心を浮き立たせる音楽の力も実感。スーパースターのカメオ出演もあって、“とにかく楽しんで!”というつくり手の心意気が映画を貫きます。ハッピーな気分に浸りたい!そんなママにおすすめです。
3:16年ぶりのシリーズ最新作。コトー先生は健在!『Dr.コトー診療所』
null本土からフェリーで6時間、日本の西の端にある志木那島。“コトー”こと五島健助は東京から赴任し、島で唯一の医師として島民の命を背負ってきた。あれから19年、いまは看護師の星野彩佳と結婚し、数カ月後には子どもが生まれる予定。数年前から島出身の看護師が加わった診療所に、東京から新米医師がやってくる。一方で島は過疎高齢化が進み、近隣諸島との医療統合の計画が。コトーは島を出て、拠点病院で働かないかという提案をされる。そんなある日、島に台風が接近する……。
2003年、2006年に放送された連ドラ『Dr.コトー診療所』、それが映画になり、新たな物語がつむがれます。連ドラ→映画化という流れはすっかり定着していますが、16年ぶり!?そんな話はなかなかありません。
けれど、吉岡秀隆演じるコトーが真っ青な海と広い空の見える道を、自転車をこぎながら往診に向かう姿を見ていると、“ああコトー先生、すっかり白髪になっちゃって……”としみじみ。そこに「銀の龍の背に乗って」のどすの効いた中島みゆきの歌声が重なると、一瞬で、『 Dr.コトー診療所』の世界が蘇るのです。吉岡秀隆という俳優が物語の中心にいる、その揺るぎなさはただ事ではありません。
そして今回新たに診療所のメンバーとして加わるのが髙橋海人と生田絵梨花。髙橋は大病院の御曹司で一見チャラいと思わせるけれど、意外と骨のある研修医・織田判斗を、生田は明るくてテキパキと働く看護師の西野那美をそれぞれに演じます。二人ともまっすぐ自然な佇まいで、へんなひねりはなくて好印象。それぞれが、きっちりと構築された“Dr.コトー”の世界を爽やかに彩ります。シリーズを通して観ている人には、懐かしい顔が意外なカタチで登場し、“元気だったの!?”と思うシーンもありますよ。
人と人の距離が近い、人情のようなものがしっかりと生きている島ならではの人間関係、そして今日の離島医療が直面するシビアな現状。連ドラをつくり上げてきた監督&脚本家が、確信を持って物語を構築しています。大人も子どもも安心して観られる、そういう意味での‟お茶の間”感があり、奥行のある人間ドラマです。
4:生きている以上は恋愛から逃れられない…ものなの!?『そばかす』
null30歳の蘇畑佳純(そばた かすみ)は男でも女でも、人に恋愛感情を抱くことが出来ない。女友達に誘われた2対2の合コンで、そのうちのひとりに興味を持たれても、びみょーな顔で逃げるばかり。そんな娘を心配する母親が勝手に婚活をスタート、佳純に無断で見合いの算段をつける。ところが見合い相手の木暮翔もまた、実は恋愛や結婚に興味を持てないという。なんだか共感しあい、たびたび会うようになる二人。そんなおり佳純は中学時代の同級生、世永真帆と再会する……。
恋愛をしたことがなく、したいとも思わず、他者にそういう欲望を覚えたこともない。岸井ゆきの×高橋一生が出演したNHKドラマ『恋せぬふたり』でも描かれた‟アロマンティック・アセクシュアル”なヒロインを主人公に、『ウゴウゴルーガ』等の放送作家を経て、今泉力哉監督の『his』等で脚本も手がけるアサダアツシが原作&脚本を手がけた人間ドラマ。
佳純は自分のことを正直に語っても悪い冗談かと逆切れされたり、“ただの強がりでしょ”と勝手に同情されたりします。ゲイを告白する同僚や、女であることを商売道具にしてきた同級生と関わる中で、佳純も変化していきます。でもその歩みは決してまっすぐではなく、変化は微かなので、行きつく先がどこなのかは簡単に見えません。
その見えなさ加減が、“佳純はどうなるのだろう?”という物語への吸引力となり、くすくす笑わされながらも、最後まで引き付けられることになります。
佳純を演じるのは三浦透子。6歳のときに「なっちゃん」のCMでデビューした長いキャリアの持ち主で、最近だと第94回アカデミー賞国際長編映画賞受賞作『ドライブ・マイ・カー』でクールな女性ドライバーを演じていたのが彼女。実感としてイメージしづらい人もいるであろう佳純のようなキャラクターを、ズシリとした説得力を持って演じます。
この映画では主題歌も歌っていて、透明な歌声を披露。見ものは後半のカギを握る世永を演じる前田敦子。最近の彼女の冴えた演技は、ここでも健在。アイドル時代の経験も活かし(?)、ナイスなキャラに仕上げています。友情出演とクレジットされる北村匠海もおいしいところを持っていきます。
テーマは多様性!というと堅苦しいし、観る人を選んでしまうかもしれません。でもこれは「私は今のままでいいんだ!」と迷いながらも確信していく女性の物語で、ママ世代の心にもきっと響くはずです。
映画ライター。映画配給会社勤務を経て、フリーランスに。二児の母。
『ビーパル』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)などの雑誌、「シネマトゥデイ」などのWEB媒体で映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。
『バカ卒業 ~映画「釣りバカ日誌」のハマちゃん役を語ろう~』(小学館)、『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(ワニブックス)を担当。