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「魔王」「モルダウ」覚えてる?教科書の中から親子で聴きたいクラシック2曲【田中泰の親子で楽しむクラシック#4】

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音楽ジャーナリストの田中泰さんが親子で楽しめるオススメのクラシック曲を毎回テーマごとに紹介する連載・第四回目のテーマは「教科書の中から親子で聴きたいクラシック2曲」。音楽室のツートップ!?ともいえる、『魔王』と『モルダウ』を紹介してもらいます。


子どもたち全員にきちんとした音楽教育を行う国は、世界中で日本だけだという。確かに「同級生のほぼ全員がリコーダー経験者だ」という話を外国人にするとかなり驚かれる。

その素敵な時間を過ごした思い出の場所が音楽室だ。バッハやモーツァルト&ベートーヴェンなどなど、音楽家の肖像画が飾られた空間は独特の雰囲気をたたえていたように記憶する。というわけで、今回はその音楽室で開いた教科書に登場する名曲に注目してみたい。

シューベルトの「魔王」

まずは、1797年オーストリア生まれの作曲家シューベルト(1797-1828)の歌曲『魔王』だ。

31年の短い生涯の中で600曲以上の歌曲を遺したことから「歌曲王」と呼ばれるシューベルトの代表作のひとつ『魔王』が完成したのは1815年。同時代のドイツの文豪ゲーテ(1749-1832)の詩に感動しまくった18歳のシューベルトが一気に書き上げたと伝えられる名作だ。

怯える子を守ろうとする父親の姿と、その背後に迫りくる魔王。そして疾走する馬をイメージしたピアノの3連符が物語の緊張感を盛り上げるこの作品は、今も昔も音楽室で体験する人気曲だ。

その理由はオペラと同じような“物語性”にあるようだ。音楽が人の感情に訴えかける力や影響力を想像する際に、シューベルトが遺した激しくも美しい音楽はうってつけなのだろう。

ドイツ語で書かれた歌詞の意味は聞き取れなくとも、音楽から伝わる緊張感や恐ろしさは万国共通。聴いた感想を親子で語り合うのにもピッタリの作品だ。

ちなみに、念願かなって出版された楽譜を憧れのゲーテのもとに贈った若きシューベルトだったが、全く相手にされなかったという残念な逸話が残されている。そんな中で可笑しいのはモーツァルトだ。唯一のゲーテ作品である歌曲『すみれ』は、ゲーテの詩であることを知らずに作曲したのだとか。いやはや天才恐るべし。

『魔王』は本来バリトン歌手のレパートリーだが、最近はテノール歌手や女性歌手も手掛ける人気曲となっている。今回は20世紀最高の歌手と謳われるディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)盤を選択しておきたい。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ Photographer: Ilse Buhs Copyright: Warner Classics
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ/『魔王』[ベスト・オブ・シューベルト]

スメタナの「モルダウ」

さて、2つ目の作品は、“チェコ国民楽派の父”と呼ばれる作曲家スメタナ(1824-1884)の代表作『モルダウ』だ。

1874年から1879年にかけて作曲されたスメタナの連作交響詩『わが祖国』の第2曲に収められたこの曲は、祖国の風景を6つの交響詩で描いた同曲の中でも際立って人気が高く、コンサートでも単独で演奏される機会が多い名曲だ。

作曲当時、オーストリアに統治されていた祖国チェコの独立を望む“象徴”でもあった名旋律は、その印象的な美しさゆえにジャンルを超えて流用されることが多く、学生時代に合唱で歌った方も多いのではないだろうか。

ボヘミアの森や草原を流れ、プラハの町をよぎるモルダウ川は、まさにスメタナが愛してやまない祖国の風景そのものだったのだろう。スメタナの命日に今も開催される人気音楽祭「プラハの春」の初日(5月12日)には、『わが祖国』が必ず演奏される習わしだ。親子でヨーロッパの地図を広げ、モルダウ川の流れる地域を確認するのもきっと楽しい時間に違いない。

オーケストラの美しさが際立つ人気曲だけに、おびただしい数の録音がある中から、近年「プラハの春」での活躍が話題のイルジー・ビエロフラーヴェク指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏をお薦めしておきたい。

※ドイツ語の『モルダウ』は、近年チェコ語の『ブルタバ』と呼ばれている

スメタナ:連作交響詩『わが祖国』 イルジー・ビエロフラーヴェク指揮&チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

久々に音楽の教科書を手にして驚かされた。お勉強としての音楽はそのままに、“教養としての音楽”&“楽しむための音楽”が定着し始めたことは素晴らしい。音楽は一生の友であることを多くの子どもたちに知ってほしい。


 

@梅谷秀司

【著者プロフィール】

田中泰(たなか やすし)

音楽ジャーナリスト/プロデューサー。1957年横須賀生まれ。1988年、「ぴあ」入社以来一貫してクラシックジャンルを担当。2008年、「スプートニク」を設立して独立。J-WAVE「モーニングクラシック」ナビゲーター、JAL「機内クラシック・チャンネル」構成、「アプリ版ぴあ」クラシックジャンル統括&連載エッセイなどを通じ、一般の人々へのクラシック音楽の普及に務めている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。

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