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「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」…港町横浜で美術鑑賞してみない?【ふらり大人の美術展#13】

見ているだけで幸せな気持ちになる、ルノワールが描いた少女の絵、美しいモネの風景画……老若男女問わず愛されている印象派と、1920年代を中心にパリで活動した画家たち“エコール・ド・パリ”にまつわる展覧会が横浜で開催されています。その名は「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」。パリのオランジュリー美術館が保有する名作をたっぷり鑑賞できる美術展です。
(上記写真:「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」エントランス)

もとはオレンジの温室!モネの「睡蓮」があるオランジュリー美術館

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パリのセーヌ川近くにあるオランジュリー美術館は、もともとは19世紀中頃に建設されたオレンジを栽培するための温室。美術館になったのは、1920年代にモネが代表作『睡蓮』の大型連作を国に寄贈することが決まったとき。外光を取り入れた空間のあるオランジュリーに展示室が造られることになったのです。

オーギュスト・ルノワール『ピアノを弾く少女たち』1892年頃、油彩・カンヴァス、116×81cm Photo(c)RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF/オランジュリー美術館蔵
ルノワールの代表作のひとつ。晩年までルノワールのアトリエに保管され、没後の1928年に美術商ポール・ギヨームが収集したもの。

1960年代に入ると、ヨーロッパの中で最も質の高い印象派で、エコール・ド・パリの作品群のひとつとも言われている「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」が収蔵に加わり、「印象派やエコール・ド・パリの作品といえばオランジュリー美術館!」と言われるほどになりました。

今回の展覧会は、この「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」のなかからルノワールと12名の画家の作品を展示するものです。

絵画とともに、風変わりな経歴の画商「ギヨーム」の目利きも楽しむ

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「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」とは、もともとは画商であり、コレクターであったポール・ギヨームが集めていた作品群。ポール・ギヨームは、自動車修理工場の勤め人からアフリカ彫刻のブローカーを経て画商になったという風変わりなキャリアの持ち主。

アメデオ・モディリアーニ『新しき水先案内人ポール・ギヨームの肖像』1915年、油彩・合板に貼った厚紙、105×75cm Photo(c)RMN-Grand Palais(musée de l’Orangerie)/Hervé Lewandowski/ distributed by AMF/オランジュリー美術館蔵
エコール・ド・パリを代表する画家、モディリアーニが描いたポール・ギヨーム。ギヨームは無名のモディリアーニを高く評価し、アトリエも提供していた。

自身のお気に入りの画家たちの作品を積極的に集め、モディリアーニやスーティンなど、当時は評価が定まっていなかった新進気鋭の画家たちの支援も行っていました。自邸を美術館とする構想も抱いていましたが、42歳という若さで亡くなってしまいます。

アンリ・ルソー『婚礼』1905年頃、油彩・カンヴァス、163×114cm Photo(c)RMN-Grand Palais(musée de l’Orangerie)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF/オランジュリー美術館蔵
税官吏として働きながら休みの日に絵を描き始めたルソーは「素朴派」の代表的な画家。誰にも真似できない独自の絵画を描き、ギヨームも高く評価していた。
ポール・セザンヌ『りんごとビスケット』1879-80年頃、油彩・カンヴァス、45×55cm Photo(c)RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie)/Franck Raux/distributed by AMF/オランジュリー美術館蔵
「近代絵画の父」とも呼ばれるセザンヌはりんごを繰り返し描いた。

ギヨームの没後、コレクションは妻のドメニカが引き継ぎました。
ドメニカもまた好きなものにこだわりを持つ性格で、ギヨームのコレクションのなかから前衛的な作品を中心に200点余りを売却。そして、より古典的で調和のとれた温厚な画風の絵画を加えるなど、ギヨームのコレクションにアレンジを加えていったのです。

アンドレ・ドラン『大きな帽子を被るポール・ギヨーム夫人の肖像』1928-29年、油彩・カンヴァス、92×73cm Photo(c)RMN-Grand Palais(musée de l’Orangerie)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF/オランジュリー美術館蔵
ドランが描いたドメニカの肖像。

その後、紆余曲折を経てコレクションはフランス国家に売却されることとなるのですが、その際にドメニカは再婚相手のジャン・ヴァルテルの名前を入れることを要求。よって、このコレクションは「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」と呼ばれるようになったというわけ。ギヨームの生前とは若干コレクション構成が変わってしまいましたが、それでも彼の好みがわかる内容になっています。

アンドレ・ドラン『アルルカンとピエロ』1924年頃、油彩・カンヴァス、175×175cm
Photo(c)RMN-Grand Palais(musée de l’Orangerie)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF/オランジュリー美術館蔵

今回の「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」には、このコレクションのなかから選りすぐりの名品69点が来日。各作品そのものの素晴しさだけでなく、“コレクターだったギヨーム氏の審美眼”もあわせて楽しめるのが面白いところ。

前述のドメニカの肖像画を描いたアンドレ・ドランは、ギヨームがこよなく愛した画家のひとり。ドランだけで数十点もの作品を保有していたそうで、『アルルカンとピエロ』はギヨームがドランに頼んで制作してもらった絵画。

自宅の一番目立つところに飾っていたそうです。

ポール・ギヨームの邸宅(フォッシュ通り22番地、1930年頃):ポール・ギヨームの書斎
かつてのギヨーム邸の模型。部屋の中央にドランが描いたアルルカン像があるのがわかる。

「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展に登場するのは、みなギヨームと繋がりの深い作家ばかり。オランジュリー美術館の名品を観に行ったら、同時にポール・ギヨームという人についても詳しくなる、不思議で楽しい展覧会です。

 

人気作家の作品ばかりなので、会期が終わりに近づくにつれ混雑も激しくなりそう。ぜひ、お早めに足をお運びください。

【展覧会情報】

横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち

会場:横浜美術館

神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1

会期:2019921 () 2020113 (月・祝)

開館時間:日〜水10001800、金・土10:0020:00、1月10日〜12日10:00〜22:00(最終入館は閉館30分前)

休館日:木曜(1226日は開館)、20191228日(土)~202012日(木)

最寄り駅:みなとみらい線「みなとみらい駅」3番出口より徒歩3分、JR線・横浜市営地下鉄線「桜木町駅」から「動く歩道」を利用 徒歩10

問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

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