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「本の中で出会う人が、娘(8歳)に大事なことを教えてくれる」夫婦作家ザ・キャビンカンパニーが実践する育児と仕事

あなたは「ザ・キャビンカンパニー」を知っていますか? 夫婦2人で生み出す作品が大人気の絵本作家で、今年の日本絵本賞 大賞を受賞した『ゆうやけにとけていく』、Eテレ「おかあさんといっしょ」のキャラクター「しりたガエルのけけちゃま」のデザイン、あいみょんのツアーパンフレットのイラスト制作など、幅広く活躍しています。

そして現在、自身最大規模の展覧会『童堂賛歌(どうどうさんか)』が神奈川県「平塚市美術館」にて開催中。2025年にかけて、栃木・千葉・大分の4都市を巡回予定です。

そんな2人に、展覧会の見どころや制作の舞台裏、そして夫婦で働きながら子育てする日々についてうかがいました。2人で一緒に奮闘する毎日、だからこそ作品づくりでもプライベートでも、話題の中心になったのは、違うもの同士が“混ざりあう”というキーワード。相手と自分の違いを大事にすることで、見えてくるものとは……?

ケンカはしても、寄り添う努力は諦めたくない

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ザ・キャビンカンパニーは、阿部健太朗さん(右)と吉岡紗希さん(左)による絵本作家ユニットです。

大学在学中にユニットを結成したザ・キャビンカンパニーは、もともと別々に絵を描いていた2人の世界が“混ざりあって”1つになった、独特な世界観が魅力。そして、絵本作家のユニットでありながら、8歳のお子さんを共に育てる夫婦でもあります。

―24時間、夫婦で一緒にいて、働きながら家事や子育てをする……。大変だなと感じることはありませんか?

吉岡紗希さん(以下、吉岡)「妊娠中はつわりが酷くて、制作がなかなか進まず本当に大変でした。でも今は、“できる方がやる”という感じで、家事も仕事も手分けしながらやれているかな。

私たちは大分の廃校をアトリエにしていて、絵も文章も造形物も、2人で一緒につくっています。生活も制作も、全部が“混ざりあった”ような日々ですね」

ザ・キャビンカンパニーがアトリエにしている廃校の絵。赤い屋根が特徴的です。

阿部健太朗さん(以下、阿部)「夫婦とはいえ違う人間同士だから、基準がぴったり同じってことはなかなかなくて。

お互いの感覚を比べると、例えばどちらかが少し“繊細”で、どちらかが少し“鈍感”だったりと、いろんな違いがあると思うんですね。

そんなお互いのちょっとした違いを知った上で、相手に無理をさせずにすむように、できるだけ寄り添えたら……って意識しています。充分にできているかはわからないけど」

吉岡「我が家は“父だから” “母だから”とかっていう考え方はあまりせず、役割分担もはっきり決めていません。夫婦で仕事しているからこそそうしやすい、っていうのもありますね」

展覧会場には、大小さまざまな作品がたくさん!
こちらは「コープおおいた」の情報誌での連載から生まれた『コープ商品の詩(うた)』。
アトリエの廃校にもともとあった、学校の備品たちも作品に混じって置かれています。

阿部「例えば娘の習いごとは、二人で交代に送り迎えをしているんですが、練習の日々を間近で見られるのがとても面白いんですよ。どう練習してるのかなとか、どんな友達がいるのかなとか、発表会の時だけでは気づかないような発見がたくさんある。

そうやって、家族のなかでお互いに知っていることが増えていくと、その分すれ違いも減るんじゃないかな。よくケンカもするけど、理解し合おうと努力することだけは、諦めないようにしています」

吉岡「もちろん、一人の時間が欲しい人も多いだろうし、我が家の形が誰にとってもベストなわけじゃないと思います。

でもどんな形であれ、夫婦は一緒に同じ目標に向かっているわけだから。それぞれの価値観が“混ざりあう”なかで気づけることもあるし、日々の出来事や気持ちはできるだけ共有しながら、違いも尊重して寄り添っていけるといいですよね」

「本」や「人」との出会いが、つぶれても跳ね返せる強さを育てる

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―8歳の娘さんに、子育てを通して「これだけは伝えたいな」と思うことはありますか?

吉岡「弾力ある考え方を携えて生きていってほしいなと思います。

例えば学校で、“通学では帽子を被る”っていうルールがあったとしても、曇りの日もあるし、絶対に何がなんでも被らなきゃいけないっていうわけでもないじゃないですか。

娘は、忘れたことに号泣して“帽子がない”って電話をかけてくるんです。真面目なことは悪いことじゃないけど、真面目さゆえにルールに縛られて苦しくなっちゃう瞬間もたくさん見てきて」

阿部「ルールって、もちろん守らなきゃいけないんだけど、それは破りすぎる人のためにあるものであって。守りすぎるのも弊害になるというか……それに苦しめられちゃうということもあるから」

吉岡「自分で考えてみて、ここはもうちょっと力抜いていけるとか、ここはちゃんとしなきゃいけないとか、そういう判断ができると、生きる上でもうちょっと余裕が出てくると思うんですよね」

―誰かに言われたことをそのまま受け入れるだけじゃなく、自分の頭で考えて判断していくのは、「自主性」とも言い換えられるかもしれませんね。どうやったらそんな力が身につくのでしょうか。

吉岡「娘がこの先成長するなかで、とりあえず本を読んでいてくれたら、きっと大丈夫かなって思います。本を読むか、もしくは人と会うか、ですね。

人と会って話すのは気が進まない……という子は、本を読めば、本の中で出会う人たちが人生で大事なことを教えてくれるので。逆に、本を読むのが苦手なら、いろんな人と会って話したらいいと思うんです」

作品づくりに入るときは、いつも関連したテーマの小説や詩などを参考資料として読み込んで、インスピレーションの一部にしているそう。

阿部「同じような思考の人としか接していないと、例えば“受験”や“会社”など、1つの道にしか正解を見出せなくなってしまうこともあると思うんです。でも本を読んだり人と会ったりして、いろんな生き方を知ると、それがさまざまな選択肢の1つに過ぎないって気づける」

吉岡「それによって、心に弾力性がついて、“つぶれそうになっても跳ね返せるような人”になれると思うんです」

―いろんな考え方を知って、それが自分のなかで“混ざりあう”なかで、自分らしい考え方の根っこができていくのかもしれないですね。

阿部「本を読むことや人と話すことって、そこに答えがあるというより、問いを与えられているようなもので。自分はどう思うかな、って考える体験が大事なんだと思います。芸術に触れる体験もそうですね」

大人も子どもも、誰もが自分らしく楽しめる展覧会

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作品のなかには「いつも読んでいるあの絵本のキャラクター」も!

―今回の展覧会も、自分自身の感覚を再発見するような、わくわくする体験でした。立体物に絵、文章、さらには映像など、多彩な作品が“混ざりあった”展示がお2人ならではだなぁ、と。

阿部「準備した作品が多すぎて、最終的に4tトラック6台分にもなってしまって。これまでの平塚市美術館の最高記録を遥かに超えてしまいました(笑)。

美術館って展示によっては、子どもと一緒に行きづらかったり、静かにさせないと……って気を使うことも多くて。僕たちの展覧会では、できるだけそうならないよう、子ども自身が展示の世界に“混ざりあって”、入り込んで楽しめるような仕掛けも用意しています」

―展覧会の前半にある、自分の影が映像と一緒に壁に映し出されるという作品はまさにそうですよね。最初はおっかなびっくりだった子どもたちが、どんどん夢中になっていくのが印象的でした。

見る人の影も含めて、映像作品の一部になっています。

吉岡「ちょっとドキドキする子もいるかもしれないけど、意外とそういうものの方が、大人になってからもずっと大切に残る記憶になったりすると思うんです。

子どもは新鮮な視点をもっていて、かつ目線も低いので、いろんなことに気づかせてくれますよね。ダンゴムシとかも一瞬で見つけられる(笑)。だからきっとこの展示も、子どもと一緒に行くことで大人が気づかされることがたくさんあるんじゃないかなって」

阿部「今回、ビジュアルだけでなく言語表現にもこだわっていて。学芸員の方にキャプションをお願いするのではなく、テキストも全部自分たちで決めているので、ビジュアルと文字をあわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。これはもしかしたら、大人のほうが楽しみやすいポイントかもしれませんね」

展示の細部まで可愛い!
口にボールを入れると音がなる木。

吉岡「4,000部限定で販売している図録(税込み3,200円)には、会場の最後にある作品をつくる際に飛び散った“絵の具のカケラ”を貼り付けています。これは、この展覧会唯一の“持って帰れる作品”。カケラの形はそれぞれ違うので、買ってみてのお楽しみです」

図録は詩(うた)絵本と写真集の2冊セット!
どちらも、展覧会の構成にあわせた展開になっています。
最後のページには、世界で1つだけの“絵の具のカケラ”が。

阿部「展覧会の世界観を絵本として描き下ろした“詩(うた)絵本”もセットになっているので、図録を片手に展覧会を見ると、絵本の世界と展覧会場が“混ざりあった”ような、また違った味わい方もできるかもしれません」

40冊以上の絵本の原画が壁一面に!

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壁いっぱいに並んだ原画の数々。

展覧会のなかでも注目したい展示の1つが、壁一面に飾られた圧巻の絵本原画の数々。絵はすべて木の板に描いていて、額もすべて木で手づくりしたものだそう。

ザ・キャビンカンパニーが生み出す絵本は、2人で描いているからこその、いろんなタッチが“混ざりあった”唯一無二の世界観が大きな魅力。「絵本だからこう、という価値観にできるだけ縛られないように、いつも何かしら新しいチャレンジをしている」というお2人に、40冊以上の絵本のなかから6冊をご紹介いただきました。

『だいおういかの いかたろう』(鈴木出版、2014)

『だいおういかの いかたろう』

吉岡「私たちのデビュー作です。“絵本はじっと聞くもの”というイメージを超えていきたくて、楽譜や振り付けのついた、みんなで踊れる絵本になっています。まさに読み手と聞き手が“混ざりあう”ような濃密な絵本体験を目指しました」

『ねんねこ』(小学館、2020)

『ねんねこ』

阿部「眠れないときのマイナスな気持ちを、どうしたら楽しく解決できるだろう?っていう発想から生まれました。娘の寝かしつけで実際にしていた“夢のなかで待ち合わせしよう”という会話が、そのまま絵本になっています」

『ポケモンのしま』(小学館、2020)

『ポケモンのしま』

吉岡「ポケモン世代ど真ん中の私たちにとって、ポケモンは子ども時代の象徴の1つです。子育てにおいて何かと槍玉に挙げられるゲームですが、現代の子ども世界を描くにあたって避けては通れないモチーフだと思うんです。私たちが子どもだったあの頃。自然もゲームも渾然一体に“混ざり合った”ような感覚を描いたつもりです」

『がっこうに まにあわない』(あかね書房、2022)

『がっこうに まにあわない』

阿部「ある時、娘に“保育園は9時からだよ”って教えたんです。でも、それまで今だけを生きていた子が、時間の概念を知ると、未来を考えるようになっちゃうんだな……っていう罪悪感もあって。この絵本は時間の話なんですけど、“ふと時間を忘れるような感動的な瞬間”も対比で描いているので、時間について考えるきっかけになったらいいなと思います」

『ゆうやけに とけていく』(小学館、2023)

『ゆうやけに とけていく』

吉岡「絶望や悲しみの淵にいる人にもすっと寄り添えるような、静かな本をつくりたくて生まれた本です。夕焼けって、寂しくなりそうな時間帯だけど、空を見るといろんな色が“混ざりあって”いて。昼と夜のはざまの間(あわい)の時間だからこそ、誰でも受け入れてくれる、そんな存在だなって感じるんです」

『ミライチョコレート』(白泉社、2024)

『ミライチョコレート』

阿部「最新作の『ミライチョコレート』は、遠い未来を舞台にした絵本です。千年前は平安時代、だったら千年後はどうなってるのかな……?と。コンビニやスーパーで手軽に買っているものはどこからやって来ているのか、考えるきっかけになる絵本となれば嬉しいです」

仕事でも、日々の生活でも。違うものどうしが“混ざりあった”とき、そこに新たな化学反応が起きて、予想もしないものが生まれたり、今まで見逃していたことに気づけたりするのかもしれません。

そんな感覚を大事に、2人で一緒に育ててきたザ・キャビンカンパニー。彼らの作品を展示会場で体感したら、きっとあなた自身のなかにも、新たな気づきが見つかるはずです。

 

神奈川県・平塚市美術館での展示は9月1日(日)まで。その後、2025年にかけて栃木、千葉、大分と巡回予定なので、ぜひ足を運んでみてください。

【開催概要】

「ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展〈童堂賛歌〉」

絵本作家ザ・キャビンカンパニーの結成15周年を機に開催する初の大規模個展。これまでの絵本原画のほか、立体作品や映像作品など、彼らの幅広い仕事が見られる展覧会です。小さなお子さまから大人まで、どなたでも楽しめます。

会場:平塚市美術館(神奈川県平塚市)
会期:開催中~2024年9月1日(日)
休館日:月曜日、8月13日(火) ※8月12日(月)は開館
開館時間:9時30分~17時00分(入場は16時30分まで)
観覧料:一般 800円/高大生 500円(400円)/中学生以下無料
※毎週土曜日は高校生無料
※詳しくは公式サイトをご確認ください

巡回予定:
2024年9月14日~11月4日 足利市立美術館(栃木)
2024年11月16日~2025年1月13日 千葉市美術館
2025年2月7日~4月13日 大分県立美術館

ザ・キャビンカンパニー

阿部健太朗と吉岡紗希による、2人組の絵本作家、美術家。1989年/1988年、ともに大分県に生まれる。大分県由布市の廃校をアトリエにして、絵本・立体造形・アニメーションなど様々な作品を生み出し、国内外で発表している。『ゆうやけに とけていく』で、「第29回 日本絵本賞大賞」「第71回産経児童出版文化賞 産経新聞社賞」をダブル受賞。

編集部・関口
編集部・関口

音楽&絵本&甘いものが大好きな、一児の父。文具や猫もとても好き。子育てをするなかで、新しいコトやモノに出会えるのが最近の楽しみ。少女まんがや幼児雑誌の編集を経て、2022年秋から『kufura』に。3歳の息子は、シルバニアファミリーとプラレールを溺愛中。

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