なぜ「ボローニャ」へ?
nullイタリアのボローニャという街を知っていますか? イタリア国土のほぼ中央部にある都市で、ミラノから列車で1時間半ほどの距離にあります。
ご存じの方もいるかと思いますが、最近驚くほど値上がっているの航空券。探しに探して比較的お手頃なチケットを発見したものの、トランジット含め片道およそ24時間という長旅でした(機内では映画三昧で『トップガン・マーヴェリック』と『タイタニック』は、より臨場感ある鑑賞体験に。機会があればぜひ!)。
さすがにイタリア遠いぜー、と早々に旅の疲れを体の節々に感じながらも、ボローニャに着くと眩しい日差しと青空が出迎えてくれていました。気分は上々! 中世時代の建物がそのまま残っている街並みで知られるボローニャ。赤茶色の屋根と壁に煉瓦造りの建物。足元には石畳。数百年もの蓄積から滲み出る風情に思わずにんまりしてしまいます。
色や形の統一感、時を経るからこその落ち着きと重厚感は、街にとって大事な要素なのだとあらためて。そんなボローニャにはヨーロッパ最古の大学があり他都市への便も良いため、学問の街、芸術の街、そして美食の街としての顔もあります。
そもそもなぜ今回ボローニャに向かったのか。それは、毎年この街で開催される「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」を見に行くため。今年で60回目を数える世界最大の絵本を中心とした児童書専門のブックフェアです。数年前から絵本に関わる活動を僕自身が行なっているというのもあり、いつか訪ねてみようと思っていました。
会場はBologna Fiereという、ボローニャ中央駅からバスで15分ほどのところにある催事場。世界各国から出版社、作家、翻訳家、著作権エージェンシーや書店員といった本にまつわる人々が多数集まってきます。参加ブースは1,700以上と、その規模の大きさは想像以上でした。
ブースでは商談が行われていますが、出版社が手がける絵本や児童書が陳列され、ビジターなら誰でも購入することができます。日本で手に入れることができないタイトルも多いので、帰りのスーツケースは本でびっしり。
縁あって、中東レバノンの出版社の方と話をする機会がありました。レバノンでは国の経済的な理由から学校に通えない子供たちがいたり宗教的な束縛がまだ色濃く残っています。そんな中、絵本が次の世代への文化伝達や教育に役立っているところがあるそうです。
ちなみに僕のイラストのポートフォリオも見てもらったのですが「私たちのスタイルに合う絵ではない」ときっぱり。でも「この絵ならフランスの出版社がいいと思うよー」という助言も。たとえ果実にならなくとも、何かの種になるようなコミュニケーションはブックフェアという人を介す場所だからこそ生まれるものだなと身をもって感じました。
およそ2万平米という会場を隅々まで歩き続けると、どうしようもなく空いてくるお腹。せっかくイタリアに来たのだから美味しいものを。そう、地元名物なイタリアンフードを楽しめるのもボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアのいいところ!
会場内に出没するフードエリア
nullコーヒーやパンを販売するカフェスタンドからサンドイッチ、パスタ、ジェラートまで幅広く楽しめるラインナップが揃っているブックフェアなんて、きっと他にないのでは。腹が減っては……という言葉もあるように、とにかく食べまくりました。
こちらは「スピアナータ」というイタリアの平たいサンドイッチ。生ハムやルッコラ、サラミ、煮込んだ野菜、チーズなど好きな具材が入ったものを選ぶことができます。店頭や後ろ側のテーブルには大量のスピアナータが山積みに。注文すると、威勢の良いお兄さんが大きなプレートでグリルしてくれます。
とにかく片手では持ちきれないくらいサイズが大きくて。出来たよ、と受け取ったものの注文したものとちょっと違う。「ルッコラも入ってないし……」というと片手で大量にルッコラを掴み取り、追加で挟んでくれました。店構えもサンドイッチも、すべてが豪快!
会場でリピートしてしまったのが、このトルテリーニ。ワンタンのように丸く包んだような形状のパスタです。チーズを溶かしたクリームソースに、最後はパルミジャーノ・レッジャーノの粉チーズを自分で好きなだけかけられるという贅沢さ。
他になんの具材も入っていないのが潔くて清々しい。モノトーンの美学。もちっとしたこのパスタ好きだなーと、日本に帰ったら自分でも作ってみようと思った逸品です!
この旅の記録のタイトルに「本場のボロネーゼが食べたくて!」と書いているのをお気づきでしょうか。そう、まだボロネーゼの話をしていませんでした。日本ではスパゲティ・ミートソースのことをボロネーゼと呼んでいることもありますよね。このボロネーゼの発祥の地がボローニャなんです!!!!!
ボローニャでボロネーゼ
nullもう本のことなんてどうでもいい(というわけでもないですが)。本を言い訳に、本場のボロネーゼを食べてみたい、という切なる願いから思い立った今回のボローニャへの旅。邪な理由ではなく、とっても純粋な欲望です。ということで、滞在初日の夜は早速宿泊地に近いトラットリアへ。ちなみにイタリアではバール→オステリア→トラットリア→リストランテの順に、レストランの格式が上がります。
ただ単に近いからということで特に下調べもせずに入ってみたお店「Trattoria Fantoni」。
壁にはたくさんの絵が飾られていて、聞くとオーナーの趣味でアートと漫画が好きなんだとか。店内はほどよく賑やかで、スタッフの物腰も柔らかく時に歌でも口ずさみながら楽しげに働いている様子が素敵でした。食べる前から、これは当たりだなと好感触。いいお店にはいい佇まいがある(と、思っています)。
このレストランでの正式名称は、Tagliatelle al ragu(タリアテッレ・アル・ラグー)。タリアテッレとはリボン状の太めのパスタのこと。ラグーは煮込みという意味。後に他のお店でもボロネーゼを食べたのですが、このお店で出会ったボロネーゼはひと味違う個性的な一皿でした。
お肉の味を生かした濃厚さの際立つラグーソース。そのエキスをまとったパスタにはどちらかというと「きしめん」に近い弾力感が。他のお店では、ソースは割とあっさり、パスタも薄く歯切れが軽い感じのものもあったので、こちらは全体的にパンチのあるボロネーゼ。これがまた赤ワインに合うんです。
写真は見切れていますが、一番安いグラスのローカルワインがびっくりするくらい美味しくて。30代で知る、現地で飲むワインの美味しさたるや。この上なし。それを含めて大満足なボローニャ初日の夕飯でした。
もちろんドルチェにティラミスも忘れずに。
朝カフェでの交流
null朝のカフェに行くとイタリアの日常が見えてきます。
大体7時くらいからお店は開いていて、一日をコーヒーから始める人がひっきりなしにやってきます。僕が度々通ったのが「CAFFELATTE」というカフェ。お店の方の笑顔と「チャオ、ボンジョルノー!」という挨拶が陽気で、気持ちいい空気が通る朝に嬉しいお店です。
イタリアなのでベースはもちろんエスプレッソ。1杯1.5€〜と毎日来ても安心する価格帯。ここは常連さんが多く、お店の方と挨拶をして一言二言話した後、席が空いていなければカウンターで立ちながらさっと飲んで仕事場へという方が多かった印象です。
僕はカプチーノ派なので頼んでみると「あーカプーチョね!」とお店の人。カプーチョって、なんて可愛い響き。
そしてカフェではこんなこともありました。日本人が来るのも珍しいのかお店の方とも顔見知りになり、出会った記念にとコーヒーを飲みながらナプキンにスケッチしたマスターの似顔絵をプレゼント。
アメリカーノを追加で注文して支払いをしようとすると「No Noー」と、絵の代わりにコーヒーをマスターからご馳走になりました。ほとんどイタリア語しか話せないようで、コミュニケーションも片言の英語とボディランゲージ。言葉ではなく全身で伝え合う、感じ合うことの体験はとても久しぶりだったような気がします。
その日がボローニャを出発する日だったこともあり、一層忘れられない滞在時の思い出になりました。
僕自身は海外に来ても観光したいとあまり思わない方で、どちらかというと現地の人がどんな風に日々暮らしているのか、どんな日が差しているのか、どんな風の匂いなのかが気になるタイプ。
一週間に満たない短い滞在の中でも街を歩き、裏道を覗き、何気ない会話ややりとりの中で五感を通して人の持つ温もり感じることができた旅になりました(もちろん良いことばかりではなかったぜ、ということだけは言っておきます!)。
コロナ禍を通してなんとなく縮こまっていた身体と心と行動を解きほぐせたような気も。本と食に呼び寄せられた今回のイタリア旅。ボロネーゼ欲が高まった頃にまた来よう、ボローニャ。
ラジオパーソナリティーやナレーターのほか、海外絵本専門店yack yack booksを立ち上げ世界中から集めた絵本の紹介している。
自身もイギリス・ロンドンでイラストレーションを学び、絵本やイラスト制作を行なっている。インスタグラムでは絵と言葉で綴る「#mydailyillustrationandwords」を日々更新中。
インスタグラム@taiki.yamanaka