「お腹の風邪」と甘く見ていると命を落とすことも
東京医科大学病院には40もの科があるが、その中でも救急で運ばれてくるのは小児科が最も多いと河島教授は言う。
「東京医大では年間5000人ほどのお子さんが救急外来に来院しますが、最も多い症状は発熱で、その次が下痢です。下痢症は、医学的には急性胃腸炎といい、よく「お腹の風邪」ともいいますが、そのほとんどが感染症です。
「お腹の風邪」と聞くと、ごく軽い病気のように受け止められがちですが、なかには重症化するものもあります。
先進国アメリカでも、急性胃腸炎で年間150万人が受診し、そのうち20万人が入院、そしてその中のおよそ300人が亡くなっています。甘く見ているとけっこう怖いのが下痢なんです」
その原因は細菌やウイルス。だいたい70%がウイルス性で、15%が細菌性だという。なかでもロタウイルスによるものが最も多いという。
うんちの色でわかるロタウイルス
ウイルス性の下痢の特徴は水溶性の下痢であることだが、なかでもロタウイルス感染の場合は白色便が特徴だ。白っぽい下痢便が出たら、ロタウイルス感染を疑ったほうがいい。
ロタウイルスには、0才から6才頃までの乳幼児期に、ほぼすべての子どもが感染する。ロタウイルスの特徴のひとつは、何度もかかっては治るうちに軽症化していくこと。一番最初にかかった時が最も重篤になり、10人に1人は入院するというから、乳幼児にとって要注意の感染症だ。
ロタウイルスは下痢による脱水に注意
その主な症状が、下痢による脱水だ。
「口から入ったロタウイルスが小腸に到達し増えていくと、小腸の粘膜のひだひだがあっという間になくなってしまい、下痢になります。下痢で水分が失われると、脱水症状になります。
下痢に伴う脱水症状だけではなく、2才以下の患者の2%に神経症状が出るとされています。たとえば下痢を伴う良性けいれんや、ウイルスが脳にまで回って、脳炎・脳症を起こし、合併症で重篤になることがあります」
下痢が続く時、脱水症状をどのようにして防ぐかは、前の記事「乳幼児の冬季下痢症に要注意。脱水から命を落とすことも」をお読みいただきたい。
ロタウイルス感染を防ぐにはワクチンが有効
ほとんどの乳幼児が6才までにロタウイルスに感染するが、一番多く感染するのが1才前後で、最も脱水症状が重く出る時期だ。
重くならないために早いうちにワクチン接種するとよいという。事実、3年前にロタウイルスのワクチンが導入されてから、ロタウイルス感染症は目立って減ってきたという。
ロタウイルスはかかるたびに軽くなる性質がある。従って早いうちにワクチンを飲むことで次にロタウイルスに感染しても発症しなくなる。
ワクチンを飲んだ乳幼児は便中にロタウイルスを出すために、その地域で6割の乳幼児しか受けていなくても、その地域で入院するほどの重症な患者がいなくなるという効用があるという。
流行時にはロタウイルスの感染を避けることはなかなか難しい。感染は患者の便や吐物を何らかの形で経口摂取してしまうことから起こるが、環境が整うと10日間ほど生きながらえるので、ドアノブなどに触れた手で物を食べると感染することもあるといわれている。
アルコール綿で拭くだけでは防げず、流水で手洗いすることで手についたウイルスを物理的に荒い流すことが最も簡便で有効な予防策だという。
次回は、大人もかかるノロウイルスについて解説する。
河島尚志(かわしま・ひさし)
東京医科大学小児科学分野主任教授、東京医科大学病院副院長、小児科診療科長
1985年東京医科大学大学院修了、同大学病院小児科臨床研究医、大月市立中央病院部長などを経て、現在は東京医科大学病院にて小児科診療科長を務める。専門は感染免疫、膠原病、栄養消化器肝臓疾患、川崎病など。
◆取材講座:「子どもの下痢と血便」(東京医科大学病院 )
文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム 写真/東京医科大学病院提供、fotolia/ucchie79
(初出 まななび 2017/12/30)