ボツリヌス菌の混入の恐れがある食品
上田先生によると、やはり赤ちゃんに絶対に与えてはいけない食品は、ボツリヌス菌の混入の恐れがあるハチミツ。
「ボツリヌス菌は土壌中に広く存在している細菌です。大人の腸内に入った場合は他の腸内細菌に負けてしまうため、通常何も問題は起こりませんが、赤ちゃんの場合はまだ腸内環境が整っていないため、ボツリヌス菌が腸内に入ると増えて毒素を出し、『乳児ボツリヌス症』を発症することがあるのです」(以下「」内、上田先生)
乳児ボツリヌス症の症状としては、以下のものがあるそうです。
・便秘
・哺乳力の低下
・元気がなくなる
・泣き声の変化
・首のすわりが悪くなる
・顔が無表情になる
・体の筋肉が弛緩する(頭を支えられなくなる、手足を持ち上げないなど)
・呼吸困難や呼吸停止
ほとんどの場合は適切な治療によって治癒するそうですが、今年起きた事故のように、まれに死亡するケースもあるとのこと。十分な注意が必要です。
「1歳未満の赤ちゃんには、ハチミツやハチミツ入りの飲料・お菓子を絶対に与えないようにしてください。日本ではハチミツ以外にも井戸水が原因となった報告例があるので、井戸水の使用も避けます。また、黒砂糖も精製過程でボツリヌス菌が混入する危険があるため、今のところ発症報告はありませんが、1歳未満の赤ちゃんには与えないようにします」
ちなみに、ボツリヌス菌は熱に強く、耐熱性は120℃で4分。通常の加熱や調理で菌が死滅することはないそうなので、混入の恐れのあるハチミツやハチミツ入りの食品、黒糖、井戸水は1歳未満の赤ちゃんには絶対に与えないよう注意してください。
食物アレルギー発症の危険がある食品
「赤ちゃんに食べ物を与え始める際には、食物アレルギーにも注意が必要です。赤ちゃんおよび小さなお子さんの3大アレルゲンは、“鶏卵”“牛乳”“小麦”。これらを含め離乳期に初めて与える食品は、まずは小さじ1杯程度の少量から始め、皮膚や便、呼吸の様子を見ながら、急がず段階的に進めていくようにしましょう」
主な食物アレルギー症状は、以下のとおり。
・目のはれ、かゆみ
・喘息、呼吸困難
・腹痛、下痢
・皮膚の湿疹、かゆみ、じんましん
・口のはれ、かゆみ
・鼻水、くしゃみ
なお、初めての食品を赤ちゃんに与えたあとに、これらのアレルギー症状が出た場合は、素人判断はせず、すぐにアレルギー専門医の診断を受けるようにしてくださいとのこと。
「食物アレルギーと診断された場合は、医師の指示に従って食品を与える時期を決めていきます。食物アレルギーと診断されていない場合は、厚生労働省の『授乳・離乳の支援ガイド(Ⅱ離乳編)』にそって、生後5、6カ月から離乳食として、鶏卵、牛乳、小麦なども与えるようにしていきましょう。自己判断で勝手に離乳食の開始時期を遅らせるのはNGです」
ちなみに、先に挙げた3大アレルゲン以外にアレルギーを起こす恐れのある食品としては、ピーナッツ、果物類、甲殻類、ソバ、魚貝類、大豆などがあるそうなので、これらを赤ちゃんや小さな子どもに初めて与える際には、十分に注意してください。
窒息の危険がある食品
赤ちゃんは噛む力や飲み込む力が弱いため、食品の大きさや形などによっては、のどに詰まらせたり、窒息したりする危険があります。
「固いナッツ類や豆類は、誤って気管支に入ってしまうことが多く、『ピーナッツ肺炎(誤嚥性肺炎)』を起こすこともあるのでとても危険です。赤ちゃんはもちろん、3歳代までの子どもには与えないようにしてください」
赤ちゃんに食品を与える際には、まずは食べやすい大きさにすることが大切。例えば、ぶどうは小さく、リンゴは薄く切って食べさせるなどの工夫が必要だそうです。
また、年長のお子さんがいる家庭では、グミやキャンディーといった窒息の危険のある菓子類を、赤ちゃんの手の届くところに置かないように注意しましょう。
塩分の高い食品や油分の多い食品、生ものなど
「赤ちゃんの腎臓の機能はとても未熟で、塩分の高い食品は腎臓に負担をかけてしまいます。また、消化機能もまだまだ未熟なため、脂肪の多い食品も内臓に負担をかけることに。これらの器官がきちんと機能し始める3歳ごろまでは、塩分の高い食品や脂肪の多い食品はなるべく避けたほうがいいでしょう」
ちなみに、消化機能がそれなりに働き始める時期の目安は、以下のとおりだそうです。
・十二指腸内のアミラーゼ濃度(糖質の分解)・・・3歳ごろ
・たんぱく質分解酵素の活性・・・1歳ごろ
・膵リパーゼ活性(脂肪の分解、吸収)・・・2~3歳ごろ
・肝機能・・・8歳ごろ
解毒の働きもする肝臓がそれなりに働き始めるのは、なんと8歳ごろからとのこと。つまり、これくらいの年齢になるまでは解毒の力が弱いため、細菌やウイルスに対抗できず、食中毒を起こす危険がとても高くなるのだそうです。
「赤ちゃんおよび小さなお子さんは、体の諸機能や腸内細菌が未発達で、免疫機能や消化酵素も不十分。細菌に対する抵抗力が非常に弱いため、十分な食中毒対策が必要になります。食中毒の危険が高い“生もの”については、肝臓がきちんと機能する8歳以降に与えるのが望ましいというのが専門家の意見ですが、最終的には親の判断に任せることになります」
O157による小学生の死亡例もあるように、赤ちゃんおよび小さな子どもは、食中毒を起こすと重症化しやすく、最悪の場合は死にいたることも。これらの理由から、園や小学校の給食では、加熱調理が原則となっているそうです。
「生魚については細菌などによる食中毒だけでなく、アニサキスなどによる寄生虫被害も多いため、赤ちゃんや小さな子どもは避けたほうがいいでしょう。幼児期はイクラによる魚卵アレルギーも多く見られますが、イクラも生ものですので気をつけましょう」
いかがでしたか? 絶対に与えてはいけないハチミツ関連の食品以外にも、さまざまな面から注意が必要な食品がいろいろあることがわかりましたね。
「窒息の危険がある食品」や「塩分の高い食品や油分の高い食品、生もの」については、赤ちゃんだけでなく、幼児に与えるときにも十分な注意が必要です。赤ちゃんおよび小さな子どもの健康と安全のために、いま一度食品の与え方を見直してみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
上田玲子
帝京科学大学教育人間科学部幼児保育学科教授、栄養学博士、管理栄養士。専門は小児栄養学、小児保健学。小児栄養学の第一人者として、テレビなどのメディアで幅広く活躍するほか、関連する著書の執筆も多数あり。「ヘルシーな食事と心豊かな時」を提案するブログも更新中。
【参考】