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「私は息子(2歳半)の秘書になる!」初の海外旅で決めたマイルールがこんな宝物をもたらしてくれた…

2歳半の息子にとって初めての海外は、夫と私の家族3人フランス旅行。道中に読んだエッセイ本『祖母姫、ロンドンへ行く!』に登場するエピソードやエッセンスが、子連れ旅にピッタリでした。

決めた! 私もこの旅の間『秘書母』になります

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コロナ禍の影響で海外に行きにくくなり、約3年。その間に子どもが生まれた。

今年の2月「もう我慢できない! 行けるときに行かなくては!」と思い立ち、2歳半になった息子を連れて、フランスに家族旅行に行くことに決めた。時期は6月。現在、ロシア上空を飛べないため、フライトは直行便でも通常より長い14時間。

『祖母姫、ロンドンへ行く!』椹野 道流/著(1,760円・小学館)

まずは……と、今回の旅のお供に選んだ『祖母姫、ロンドンへ行く!』を読み始めた。

「一度でいいからロンドンに行きたい、お姫様のような旅をしたい」と言った80代の祖母と、当時20代だった著者の、ロンドン5泊7日の二人旅を綴った自伝的エッセイだ。

よし、この旅のあいだ、私は祖母に仕える若くて経験の浅い秘書のロールプレイに徹しよう。 (『祖母姫、ロンドンへ行く』より抜粋。以下同)
孫ではなく秘書だと思えば、祖母の無茶振りにも仕事としてクールに対応できる気がします。 たぶん、気がするだけですが、気は心とも言うので!

この本の中で著者は、まるでツアーコンダクターのような「秘書孫」に変身し、「祖母姫」をもてなす。

容赦無く飛んでくる祖母姫の要求。祖母姫の斜め上からのウィットに富んだコメントがあまりに面白く、でも、思わず泣いてしまう場面もあり、一気に読みたい……ところだが、そうはいかない。

読んでいる側から、隣に座る息子は「ままぁー! ジュースのみたいー。あるきたいー」と、リクエストの嵐。「今、良いところなの! キミは、祖母姫か!?」と心の中でツッコミを入れた時に思った。私も、秘書母になってみようではないか、と。

日本でも出来るじゃん! と思いながらフランスでダンゴムシ探し

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今回の旅は、フランスの田舎町ボーヌ3泊、パリ2泊の5泊7日。ボーヌ周辺は、ブルゴーニュワインの産地として有名だ。事前にアポイントをとり、子連れを快諾してくれた6軒のワイナリーに息子と共に訪れた。

当然、生産者はフランス人。説明はフランス語だし、ワイン樽を寝かすカーヴは地下にあり、薄暗くてちょっと怖い。天然の冷蔵庫なので寒く、湿度が高くカビ臭い。 ワインを飲めない息子にとって、楽しい要素はゼロ。

「ままー! おそとに いきたい」 そうですよねー。でも、私は試飲したいのよ……と思ったところで機内で読んだ本を思い出しました。

「そうだ! 私は、息子に仕える秘書母! 一緒に、お外でダンゴムシを探しましょう!」

この発想は、パリに移動してから、そして東京に戻った今もとても役立っている。日常に溢れる「あー! もうっ!」と思う瞬間。ハッ!として秘書母に変身すると、その状況を少し俯瞰でき、楽しめるのだ。

祖母姫のいう「謙虚さ」を自分にも宿したい

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「謙虚と卑下は違うものなの。自信がないから、自分のことをつまらないものみたいに言って、相手に見くびってもらって楽をしようとするのはやめなさい。それは卑下。とてもみっともないものよ」
「楽をせず、努力をしなさい。いつも、そのときの最高の自分で、他人様のお相手をしなさいよ。オシャレもお化粧も、そのために必要だと思ったらしなさい。胸を張って堂々と、でも相手のことも尊敬してお相手をする。それが謙虚です」

旅の間、そして帰国してからも何度も反芻したこのフレーズ。この言葉に出会うためにこの本を読んだのかも、と思うほど心をえぐられた。

祖母姫は、私のこともお見通し。普段の私は、今日は小綺麗にする必要なし!と思うと、つい気を抜いてスッピンで出かけてしまうことが多い。心の中で「メイクしていなくても肌が綺麗ならいいよね……」と言い訳し、たしかに「胸を張って堂々と」は、していないのだ。

祖母姫にならい、今日の気分を自分に問いかけ、服を選び、いつもより丁寧にメイクをしてみる。すると鏡に映る私は、少しスッとして見えた。

もうすぐ40代。祖母姫のいう「謙虚さ」は、大人の女性に必要不可欠だと痛感した。

一人、もしくは同年代の大人だけで行く旅行がどんなに楽か……と旅の途中、何度も思った。でも、子どもと行くから見えたパリの魅力もあった。

街角の花屋のおじさんが、息子に手渡してくれたバラ。「めるしー」とたどたどしくいう声。クロワッサンのあまりの美味しさに「まじうまー」と言いながら、道端で頬張る横顔。

生涯忘れたくない、今しかない、この瞬間を見られたのは宝物だ。これこそが旅の醍醐味だと思う。

そして、この3人旅を乗り越えて、家族はチームになった気がした。

(文・写真/本間友子)


 

『祖母姫、ロンドンへ行く!』椹野 道流/著(1,760円・小学館)

祖母と孫娘の笑って泣ける英国珍道中! もともとはweb連載でスタートしたら大評判になり、単行本のための大幅書き下ろしを加えて1冊にまとまったそう。カバー装画は『90歳セツの新聞ちぎり絵』で話題の、超絶センスのおばあちゃん・木村セツさんの作品。

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