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【教えて両生類博士】「カエルは苦手」な子ども&ママにも知ってほしい!奥深いカエルの世界

カエルは、日本人にとって最も身近な両生類。昔の絵巻物や俳句にも登場する、歴史的な“人気キャラ”です。一方で「本物のカエルは苦手」という方は少なくないようです。

今回は、国立科学博物館の研究員で、両生類・爬虫類の研究に携わる吉川夏彦さんに、自然界でのカエルの役割やカエルの愛くるしい魅力、実は「ゲロゲロ」だけじゃない意外な鳴き声についてなどなど、うかがいました。子どもはカエル好きだけど私は苦手……というママや、カエルのキャラクターは好きだけど、本物はちょっと……という人にも知ってほしい、“好き”とまではいかずとも、ちょっと見方が変わる“カエルの奥深き世界”をご紹介します。

「カエルが苦手」な大人が多いのはなぜ?

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オタマジャクシなら平気だけど、カエルは苦手……という人も。

―都会で暮らしていると、カエルに遭遇する機会がなかなかありません。住宅地のまわりにもカエルは生息していますか?

吉川夏彦さん(以下、吉川さん):例えば、アマガエルは公園の池などに生息していますし、ヒキガエル類は都会の人にとって、比較的身近な存在です。春先に、都心の公園に調査に行ったとき、池でヒキガエル類のオタマジャクシの大群を見つけましたよ。

―身近な水辺にもいるんですね。一方で、カエルに苦手意識を抱く人は少なくありません(『kufura』の副編集長もカエルが大の苦手です)。

吉川さん:カエルは、日本人にとっては一番身近な両生類なんですけどね……。博物館のイベントやワークショップでは、ぬるぬるした質感が好きではない、飛び掛かってきそうで怖い、という声を耳にします。でも実際には向こうから狙って飛び掛かってくることはほとんどありません。

―もし、カエルを見つけたら、そのまま見過ごすのがいいかもしれませんね。子どもがカエルを触ったりしても大丈夫ですか?

吉川さん:国内には危険な毒を持つカエルはいませんが、アマガエルのように目や鼻の粘膜につくと刺激を感じる程度の毒をもつ種がいくつかあります。触った手で目や鼻をこすらないようにして、石けんできちんと手を洗えば心配はいりません。

ただし、ヒキガエルに関しては、捕まえた場合に強い毒性のある白い粘液を出すことがあります。手につくだけなら問題ありませんが、すぐに洗い流してください。この粘液は俗に“ガマの油”などと言われ、昔は薬の原料としても使われていました。

日本の自然の中でカエルが果たしている大切な役割とは?

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「中間捕食者」として、自然界で大切な役割を果たしているカエル(写真:吉川夏彦さん提供)

―日常生活では意識する機会があまりないのですが、そもそもカエルは日本の自然の中でどんな役割を果たしているのでしょうか。

吉川さん:カエルは、食物連鎖の中では“中間捕食者”などと言われます。

例えば、植物を食べる虫がいて、その虫を食べる虫がいて、虫を食べるカエルがいて、カエル自体もヘビ類や鳥類に食べられ、それらが大きな鳥や哺乳類に食べられる……というような連鎖があります。実際にはもっと複雑ですが、食物連鎖の橋渡しをする重要な位置にある生き物です。

―食べて、食べられる、大切な存在なんですね。では、もしカエルの数が減ってしまったら?

吉川さん:仮にカエルの数が減ってしまったら、カエルが食べていたような虫が増え、鳥やヘビが減るところからバランスが崩れていくでしょう。米が主食の日本では、田んぼが身近にあり、カエルは田んぼの害虫を食べてくれる有益な動物という側面も持っていました。

田んぼは、言ってみれば“人工の湿地”。カエルを始め、さまざまな生き物が住んでいます。草が茂っているところ、水の流れがゆるやかなところ、速いところ、浅いところ、深いところに、多様な生物がそれぞれの場所で暮らしています。

カエルを始め、多様な生き物が生息する水田

―水田の周りには、多様な生き物が住んでいるんですね。ですが、近年は、米の需要が減って水田の面積は減少の一途をたどっています。吉川さんは「カエルが減っている」と体感されることはありますか。

吉川さん:はい、感じています。その背景には、田んぼの休耕・耕作放棄による作付け面積の減少、一時的に田んぼの水を抜いて稲の生長を促す“中干し”という作業が普及したこと、水路のコンクリート化など、水田周りの環境の変化や農法の変化などがあげられます。都市化や森林の伐採といった要因もあります。

―日本人の食生活やライフスタイルの変化がカエルにも影響しているんですね。ところで、日本ではヒトが稲作を始める前は、カエルはどこに生息していたんでしょうか。

吉川さん:水田ができる以前、いまの水田でみられるカエルは自然の池や沼、定期的に増水する河原の周りに広がる湿地などに生息していたのではないか、と考えられます。しかし、そのような豊かな自然環境は、すでに国内では激減しています。

カエルの中にはヒトが水田という人工の湿地を作ったことで、その環境を利用して繁栄した種もあると思いますが、現在は逆に生息地として水田に依存せざるを得ない状況でもあります。

―そして、依存先の水田も減っている、という状況なんですね。

カエルの鳴き声は「ケロケロ」だけじゃない!? チャームポイントの「声」にも注目

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「よく見ると、かわいい目をしていますよ」(吉川さん)

―カエルが私たちの目の前から少しずつ消えていくと、“好き”“嫌い”以前に、得体のしれない生物になってしまいそう。今回のお話を聞いて、もう少し関心を持ってみよう、と思いました。最後に、カエルのチャームポイントについて教えて下さい!

吉川さん:まず“目”ですね。カエルは動いている獲物を視覚で探して食べるために目がよく発達しています。くりくりとした目は、とってもかわいいですよ。

―キャラクター化されるときに、目は強調されているパーツでもありますよね。

引用:『カエル探偵団』の二ホンアマガエルのページより

吉川さん:そして、鳴き声もチャームポイントです。カエルの鳴き声は繁殖の際にオスがメスを惹きつけるためのものなので、種ごとに特徴があり、全然違うんですよ。ぜひ、いろいろなカエルの声にも耳を傾けてみてほしいと思います。

私も参加している研究者中心のボランティア団体『カエル探偵団』のウェブサイトでは、国内のさまざまなカエルの声を聴くことができます。

―(実際に聞いてみる)鳥のような鳴き声から、虫のような鳴き声まで! カエルの鳴き声を“ケロケロ”だけで表現するのがもったいないほど、いろんな声で鳴いていることがわかりました。

【取材後記】

昨年、東京都の公園に貼られたポスターがインターネット上で話題となりました。「大人が悲鳴を上げると、カエルを気持ち悪いものだと思ってしまいます。苦手な人は、離れて見てください」という注意書きに“元・子ども”たちからの共感が集まりました。子どものころには平気だった生き物が、大人になると苦手になってしまうのは、“気持ち悪い”というイメージが少しずつ刷り込まれていくからかもしれません。

苦手な生き物の情報を遮断したままだと、“いいところ”や“自然の中の役割”を見落とす可能性もあります。カエルが元気に合唱する梅雨の時期に近くの水辺で耳をすませてみよう、と思いました。


 

【取材協力】

吉川夏彦

国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究員。

サンショウウオやカエルなどの両生類を主な対象として、種の分類や種内の地域変異の解明、その成り立ちについて研究を進めている。サンショウウオ類の生態調査や保全に関する研究にも取り組む。

最近は水田のカエルの研究のため全国の田んぼを歩き回っている。

2022年にはハコネサンショウウオ属というグループの新種で日本固有種の「ホムラハコネサンショウウオ」を発見。

『国立科学博物館』ホームページ:https://www.kahaku.go.jp/index.php

『カエル探偵団』ホームページ。国内のさまざまなカエルの声を聴くことができます:http://www.kaerutanteidan.jp/

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