「早めに手紙、書いておく」
null普段このエッセイは、「こんなことを書こうと思うけれどいい?」と、息子氏に聞いてから書いている。
しかし、今日の話は別だ。
12月8日。
「今年はサンタさんに何を頼むの?」
と息子に聞いたら
「ああ、ママには教えない。ママ、絶対に怒るから」
と言う。参ったな。
12月11日。
再び、それとなくトライするも、「直接頼むからいい」と、にべもない息子。
「それに、まだ早いでしょ」
と言うから
「いや、サンタさんも全世界の子どものプレゼントを用意するのに、まあまあ時間かかると思うんだよ」
と伝えたところ
「うーん、じゃあ、早めに手紙、書いておく」
と言う。
その手紙、見つけられるだろうか。参ったな。
12月13日。
そういえば、と思い出す。
昨年は北海道の実家でイブを過ごした。
「サンタさん、ちゃんとばあばの家の方に来てくれるかなあ。東京の家に来ちゃったらどうしよう」
と心配していたので、家に置き手紙をして出た。
「サンタさん、今日は北海道のばあばの家にいます。住所は○○です」
と、かわいらしい字で書いていた。
「これで大丈夫だね」
と私が言ったら、彼は、にやりと笑って
「でも、サンタってママじゃないの?」
と言ったのだ。
あの時は、聞こえないふりをしたけれど、今年は再び「サンタさんに連絡するモード」になっている。
小学5年生って、こんな感じだっけ?
友だちには、絶対内緒だよ
12月14日。
いろいろ間に合わなくなる。背に腹は変えられない。
一緒に歯医者に行く道すがら、
「あのさ、これ、クラスの友だちには絶対に内緒にしてほしいんだけど」
と、私は切り出した。
「サンタさんて、いま人手不足なんだよ」
「え、そうなの?」
「うん、結構、人数減ってるらしくてさ」
「マジか」
「それでね、この何十年かは、全世界のママやパパがサンタの手伝いをしてるの。子どもの欲しいものを聞き出して、連絡する役目をしてるんだよね」
「!!!」
息子の目が大きく見開く。
「マジで!?」
「うん、だから、キミが欲しいもの、ママに話してくれないと、サンタさんに伝わらない」
この言葉を話している途中から、彼はまわりをきょろきょろと見渡して私の顔を心配そうにのぞきこんだ。 そして、声をひそめて言う。
「ママ、そんな大事なこと、僕に話しちゃって大丈夫なの?」
「ん?」
「組織に消されたりしない?」
か、かわいいいいいいいい。
だめだ、頬がゆるむ。
「うん、でも、内緒だよ」
私は彼に合わせて、なるべく低く聞こえる声で伝える。
「クラスでは、サンタはママじゃないかって噂になっていたんだけど、そうか。そういうことなのか……」
神妙にうなずいた彼は、はっと思いついたように顔をあげ
「それ、○○にだけ話しても大丈夫?」
と聞いてくる。彼の親友だ。
「どうだろう。いろんな家庭の方針があって、子どもに話さないと決めている家もあるんだよね。夢を壊しちゃうと申し訳ないから、ママは話さない方がいいと思うな」
「そっか、わかった」
彼は2回うなずいた。
「一生のお願いです」
その話を先輩ママに話したら、
「うちも、小学校5年生の頃は、そうだったなー」
とおっしゃる。
彼女の息子さんが5年生のときのクリスマスイブは、一緒に槇原敬之さんのコンサートに出かけたそうだ。途中までノリノリだった息子さんが、アンコールが重なり22時に近づいたころ、どんどん不安げな表情になっていったのだそう。そして、
「こんなに夜遅くまで起きているボクのところに、ちゃんとサンタさんは来てくれるだろうか?」
と心配していたそうだ。
か、かわいいいいいいいい。
かわいいよねええええええ。
私たちはひとしきり盛り上がる。
いやあ、男の子ってピュアですよねえ
男の子、ほんと、かわいい!
きゅんきゅんしながら、家に戻った。
12月18日。
私の部屋のベッドサイドにA4用紙が置かれている。
「サンタさんへ。スイッチを帰してください」
と書かれていた。
今年の夏、とある事情で(お察しください)私が刀狩りしたスイッチのことだ。もうかれこれ半年、彼はスイッチをしていない。
「これを読んでブチ切れているであろうママ、一生のお願いです(5回目。来世分前借り)」
と書かれているので、盛大に吹いた。
ダメだ、かわいすぎる。
もう、ぎゅっと抱きしめて頭くしゃくしゃしたい。
さて、刀狩り以降、私の机の引き出しに保管されているスイッチをどうしたものだろう。
そして、今年の25日の朝が、カミングアウトのタイミングだろうか。
スイッチの処遇と、いずれにしても何を伝えるべきか、迷っている本日は12月23日の朝です。
でも、「帰す」じゃなくて、「返す」だからな。
画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉
佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。
著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学5年生の息子と暮らすシングルマザー。