この連載では、2017年1月に女の子を出産し、育児まっただなか犬山紙子さんと、先輩ママ、独身女子などいろいろな立場から「妊娠・出産・育児」にまつわる話をしていきます。
【今回の会議参加者】駒崎弘樹(7歳女&5歳男の二児の父)、エッセイスト紫原明子(16歳&12歳の二児の母)、編集K(7歳女&4歳男の二児の母)、編集S(独身)、ライター北川和子(8歳&7歳&0歳の三男の母)
育児にも介護の「ケアマネージャー」のような存在が必要な理由
null犬山紙子(以下、犬山):子育てで困ったとき、自治体でどんな支援サービスが受けられるのか、そしてそのサービスを受けるためにどんな手続きが必要になるのか、欲しい情報になかなかたどりつかないんです。
駒崎弘樹(以下、駒崎):介護の場合には“ケアマネージャー”がいて、介護を受ける人に合った施設を探したり、介護計画を立てたりしてくれるのですが、育児の場合はケアマネージャーがいない。つまり、親がケアマネージャーの役割も果たさなければならないんですよ。
犬山:ほんとそうなんです!! 私は介護も経験したんですが、そのときはわからないことがあってもケアマネの方がいろいろとサポートしてくださって。
駒崎:本来なら、行政に“子どもソーシャルワーカー”のような、必要な情報を提供してくれる人がいればいいのですが……。お母さん同士のコミュニティから情報を得られることもあるのでしょうが、コミュニティに入れない人もいるでしょうし、 行政の“セーフティネット”も必要です。
紫原明子(以下、紫原):家庭の外の人に過度に介入されるとちょっと引いてしまうお母さんもいるかもしれませんから、“ほど良い距離”から助けてくれるシステムがあればいいですよね。
駒崎:僕は、その役割は保育園が担うべきだと思うんですよ。
編集K:どういうことですか?
駒崎:保育園は“親支援”という面からしても、ものすごくチャンスがあるシステムだと思うんです。支援対象に「毎日会える」という仕組みは他にはなかなかありませんから。
犬山:なるほど。たしかに毎日お迎えにいきますもんね。
駒崎:だから、「保育ソーシャルワーカー」という仕事を作って保育園に置くという取組みをフローレンスが運営する園に置いてみたいと思っています。
犬山:素晴らしい! フローレンスさんから始まってそういう支援をみんな平等に受けられる社会であって欲しいと心から思います。
「情報の取得しやすさ」はどうやったら改善できる?
null犬山:育児にまつわる行政サービスや地区のお知らせって、最新の情報がわかりにくいんですけど、大切な情報がみんなに行きわたるには、どうしたらいいと思いますか?
駒崎:まさに同じことを感じたことがあります。さまざまな活動を通じて家庭に困っていることを聞いてみると、じつは自治体に困っていることを解決するサービスがすでに存在している場合があります。必要なサービスがあるという情報が家庭に行き届いていなかったというわけです。
編集K:確かに行政のサイトまでいったのに、調べられなかったこともあります。
駒崎:「わかりやすくないと情報にアクセスできない」と気づいたので、僕の活動のひとつである文京区の低所得世帯の子どもに食料を届ける「こども宅食」という取組みでは、申し込みをLINEでできるようにしました。
犬山:効果はありました?
駒崎:文京区にはおよそ1000世帯の低所得者家庭があり、150世帯分の「こども宅食」の枠を設定していたのですが、申込みツールにLINEを導入したことで申込は想定の3倍、
一同:えーそんなに変わるんですね!
駒崎:アクセスのしやすさを変えるだけで、ここまで変わるんだというのはひとつ実体験としてありますね。
紫原:すごい! 自治体って、確かに意外と使えるサービスがあるんですよね。産前・産後のサービスも意外と充実してたり。とはいえ、知らずにその時期を過ぎてしまうこともあります。
駒崎:でも、広報がうまくいかずに利用率が低いままだと、「税金のムダだ」という声があがり、その領域の行政サービスはどんどん縮小していきますよ。
編集K:せっかくのサービスなのにそんな理由で縮小してしまうのは悲しいですね。
シングルマザーの貧困で子どもの権利が置き去りに
null犬山:私のところには、シングルマザーの女性から「子ども達のためにいろいろしてあげたいのに、してあげられない自分が悔しい」といった相談が届くこともあります。シングルマザーの人たちが、しかるべき制度や行政サービスを活用できることも大切だと思うんです。
駒崎:お母さんは「自分がもっとがんばれば」と思いがちですが、本当は社会がおかしいんですよ。ひとり親であれば、夫の分の社会的サポートを与え、余裕ある暮らしを提供できるようにしなければならない。
犬山:シングルマザーの貧困率は高いと言われていますよね。
駒崎:離婚した女性の半分が貧困に陥っている状況は54%といわれています。例えば、養育費の支払い率はたったの2割程度。諸外国では、「支払いをやめたら、パスポートが発行できない」「免許証を更新できない」といった罰則がありますが、日本にはそれがありません。僕が計算したところ、養育費の不払いは200億円にものぼっています。
紫原:払っていない人で、払う能力が本当にない人ってどれくらいいるんですか?
駒崎:調べたところ、支払い能力がない人たちはおよそ2割です。残りの8割は、「払えるのに払っていない」という状況です。僕が携わる『conias(コニアス)』というNPOでは、弁護士がひとり親の養育費の支払いを求める取り組みをしています。初期費用をとらずに、成功報酬からという仕組みです。
紫原:親が子どもを育てているから、「親のため」と思いがちだけど、「子どものため」なんですよね。間に誰かが入ってくれるのは、ありがたいですね。
駒崎:スウェーデンには、養育費は国が取り立てて、国が立て替える制度があります。養育費は、子どもの権利であって、子どもは社会の大切な財産だという思想が基盤にあるから。日本では、家族の問題を私的な領域に追いやって、その一方で、「家族はこうあるべき」という保守的な思想を押し付けたりするんですよね。
ひとり親は「私、もっとがんばります」と言う人もいるんだけど、「もっと“大変だ”って言っていいんだよ」と思います。「困っている」というのはハードルが高いかもしれませんが、どんどん臆せず言って欲しいと思います。
次回は、育児環境に不満があったとき、どうやってその環境を変えていくのか、具体的なアプローチ方法について駒崎さんにお話をうかがっていきます。
構成/北川和子
【取材協力】
駒崎弘樹・・・1979年生まれ。「地域の力で病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくりたい」と考え、NPO法人フローレンスをスタート。日本初の「共済型・非施設型」の病児保育サービスを東京近郊に展開。現職認定NPO法人フローレンス代表理事、一般財団法人 日本病児保育協会理事長、NPO法人全国小規模保育協議会理事長。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。
紫原 明子・・・エッセイスト。1982年福岡県生まれ。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。のちに離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)などがある。